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王国の反逆者編
熟練度カンストの上陸者
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夜の海である。
俺とリュカが乗り込んでいるのは、ボートや小船ですらなく、ただの板。
これを、マーマンが下から支えて運んでいる。
船であれば目立つからという理由なのだが、それにしたってただの板の上で二人でちょこんと座っているのは、なんともシュールである。
これが調子がいいときの帆船ほどの速度で進む。
水面下で水棲人類がお御輿のように運んでいるのだから当然だ。
「エドヴィンは連れて来なかった。これからの戦いにはついて来れそうも無かったからな」
一人誰とも無く呟くと、リュカが振り返って首をかしげた。
振り返るというか、距離を離すほどの大きさがこの板には無い。
ということで、俺の脚の間にリュカがすっぽり納まって、あたかも狭いソリに二人でぎゅうぎゅうに収まるような体勢である。
うーむ、リュカの体温はぬくい。
ちなみにエドヴィンを置いてきたのは本当だが、あのおっさん、アルマースからの正規ルートでディアマンテに渡り、俺たちに合流するつもりなんだそうだ。
大変なバイタリティ。
俺たちはと言うと、ディアマンテでは実質お尋ね者である。
どれくらいお尋ね者なのか。
それはもう、神敵とか呼ばれるランクである。
ある種、宗教国家であるディアマンテから見れば、最も警戒すべき対象と見られている。
正規ルートなど使えるはずが無い。
そんな訳で、闇に乗じて密入国するのである。
「ユーマ、ユーマ」
俺の名を呼びながら、リュカがむぎゅぎゅっとくっついてくる。
うわー、押すな押すな、落ちるぅ。
「むふふ、すっごく久しぶりに、二人だね」
「おっ、そう言えば確かに」
始まりはこの二人だった。
アルマースではサマラが増えて、ネフリティスでアンブロシアが増えた。
あとエドヴィンとか増えた。
思えば、俺の周りは随分賑やかになったものである。
一人私室に引きこもり、ゲームに全てを注いでいた頃には想像も出来なかった事である。
あ、いや。
あの頃も俺は一人では無かったな。
アルフォンスが残した剣は、今もこうして俺を助けてくれている。
「んー……」
リュカは後頭部を俺の胸に押し付けて、ぐりぐり。
ははは、くすぐったいじゃないか、こやつめ。
「熱々ですなあ」
「あっー、見ていたのかマーマン」
「そりゃあ我々が運んでるわけですからなあ」
「確かにそれは道理。公開状態であったか……」
「ひえー、見られてた!」
慌ててリュカもちょっとだけ距離を離した。
いかんいかん。
なんと言うか最近、妙に彼女との距離が詰まってきたように感じる。
ここまで来ると、極めて鈍感かつ、他人からの評価に対して悲観的な俺でも分かるぞ。
だが待ってほしい。
故あって我々は一線を越えられない。
その状況で関係が進展するというのは、これは生殺しではあるまいか。
なんたることか。
「ぬぬぬぬ」
「唸ってるの? お腹痛いのユーマ? 薬草は切らしちゃってるなあ」
「いや、お腹は至って健康」
「そお? あのね、ちょっと向こうから船が来てるってシルフさんが。気をつけて」
ほうほう。
暗闇の中、頭上には満天の星空である。
月明かりだけが頼りとなるような夜の海だが、見渡す限りは船の灯りなど無い。
あ、いや。
水平線の向こうから、小さな灯りが上がってきた。
ディアマンテの船だろうか。
基本的にあの国の船はガレー船だから、夜間は余り出回らないと思っていたが。
何せ、動力源である漕ぎ手が人間であるし、暗い夜は見通しも利かない。
下手に漕ぎ手を消耗させて、暗礁海域などに入り込んでは目も当てられぬという訳だ。
「普通の船じゃないみたい。船の横から、櫂が飛び出して無いって」
「じゃあ帆船か?」
「帆も無いみたい」
ならば答えは決まってくる。
櫂も無く、帆も無いなら、それ以外の力を使って動かなければならない。俺が知る限りでは、アンブロシアが精霊の力を使って動かす船が一つ。
もう一つは、俺が海上でラグナ教のノッポと戦った時、あいつがやった方法。船に分体を乗り移らせて動かすやり方だ。
水の巫女以外に、精霊を操って船を動かせる人間がいるとは思えない。
ならば後者であろう。
敵だ。
俺もリュカも、一気に緊急モードになる。
つまり、イチャイチャはやめである。
マーマンたちが運ぶ板は、音を立てずに進んでいる。
目標も小さいし、よくは見えないだろう。
だが、何も無い水面に漂うものであることは確かだ。
共に水中に潜って船をやり過ごす手もある。
問題は、俺が水に顔をつけるのが苦手な事だ。
正直な話、船と一戦やらかした方がましなくらいには、水に顔をつけたくない。
「よし、やるか」
「ユーマ過激! でも待って。ここで騒ぎを起こしたら、もっと上陸が難しくなるかも」
「そ、そうか」
リュカに諌められてむむむ、と考える。
「見張りは一人か二人だと思うから、その人たちを誤魔化すのがいいと思うな。こうやって……シルフさん、お願い」
リュカが何事かをシルフに命じた。
恐らくは、俺たちの周囲をステルスモードにしたのだろう。
そう言えばこれがあった。
最近は、サマラやアンブロシアに魔法を使ってもらう機会も増えたから、この便利な魔法をすっかり忘れていた。
じっと息を殺し、船をやり過ごす。
船はゆったりと、俺たちの背後を通り過ぎていく。
マーマンたちは身を隠し、最小限の人数が板を真下から支えている。
「ふーむ……何か浮いていると思ったが……。気のせいか」
誰かの呟きが聞こえた。
恐らくは船を動かす分体を呼んだ執行者であろう。
念のために、船の灯りが完全に見えなくなるまでは静かにしている。
小一時間ほど経過して、ようやく船は水平線の彼方に消えた。
俺たちの航海が再開される。
「少し眠られてもいいですよ」
マーマンからそんな優しい言葉をもらったので、失礼する事にする。
板の上は、大きさ的に一畳ほどか。
そこに俺とリュカが乗っている訳で、並んで寝るようなスペースなど無い。
「さあどうする」
「どうしようか」
リュカと額をつき合わせて、ちょっと互いに照れながら相談。
どうやって寝るかなど分かっているのだ。
落ちないように密着して寝ればいい。
だが……なんとも気恥ずかしいではないか。
「いっそ徹夜という手も」
「ユーマ、ちゃんと寝ないと大きくなれないんだよ。なので、私は寝るよ!」
リュカが板をぺしぺしと叩いた。
こ、これは。
俺に横になれと言っているのかっ。
ハハハ、仕方ないなあ。
俺はスッと横になった。
その目の前に、リュカが滑り込んでくる。
「むふふ。すっごく、ユーマの顔が近い。ユーマのにおいがする」
「なにっ。ここ数日水浴びしてないからな……」
「もうっ! ユーマの匂いが好きだってゆってるの!」
ぺちっと叩かれた。
可愛いっ。
だがここで興奮していては眠れない。
「じゃあ、とりあえず……星でも見ながら寝るか」
「うん、そうだねえ……」
頭上に広がる星空に目を向けた。
すぐ横で、リュカの吐息が聞こえてくる。
星空の配置は、当たり前だが見たことの無い形をしていた。
星座など見つけられない。
こんな風に星を見るのは、どれくらいぶりだろう。
引きこもっていた間は、夜も昼も無い生活。
こちらにやって来てからは、生き急ぐかのような慌しい日々だった。
「星が綺麗だなあ……」
「ん……」
返ってきた返事は、とても眠そうなものである。
リュカは横になると、すぐに寝てしまうタイプだな。
俺はもうちょっとだけ、星を眺めていよう。
星空と、波の揺れ、リュカの吐息と、密着したから感じ取ることが出来る、彼女の鼓動。
これらが組み合わさって、俺の頭はちょっとしたアハ体験である。
ぼんやりトリップしていたら、どうやら俺も、いつの間にか眠りに落ちていった。
「ユーマ!」
どんっと上に乗りかかられて目覚める。
「ぐふうっ、あ、あんこが出る」
「あんこ? あんこって何?」
「リュカさん、上から降りてくれなさい」
リュカがどくと、彼方に今、ようやく昇り始めた太陽が見える。
それと、視界の半分に迫ろうかという陸地の姿。
ディアマンテの大地だ。
あえて、人気のある所は避けてある。上陸を目指すのは、切り立った崖の真下である。
「うし、ここまででいい。ありがとうな」
「運んでくれてありがとう! アンブロシアによろしくね」
「はい、では我々はこれにて。またエルフェンバインでお会いしましょう」
マーマンたちに一時の別れを告げた。
彼らは板を残して水中に消えていく。
これから、彼らはエルフェンバイン王都へ続く河を遡上し、国攻めを始めるのだ。
そして俺たちは、ディアマンテ側から侵攻する勢力を作るべく行動を開始する。
「シルフさん、お願い……!」
リュカの出した指示は、下から吹き上げる突風。
猛烈な風が俺たちを巻き上げていく。
俺はバルゴーンを召喚し、大剣の形にした。
広い刃の腹が風を受け、ちょうど帆のような役割を果たす。
リュカを抱き上げると、ぎゅっと抱きついてきた。そんなに締め付けなくてよろしい。ぐえーっ、く、くるしい。
「シルフさん、思いっきりいっちゃえー!」
強烈な風が巻き起こった。
それは、崖の一部を吹き崩す程の勢いで、俺たちは一瞬にして崖の頂点までたどり着く。
このままでは、着地できそうな場所を行き過ぎてしまうと俺は判断。
体を捻って、風の当たり方を調節した。
斜め上方へ飛ばされる形になり、俺は手近な森に向かって飛んだ。
「よっしゃ、この辺で……!」
鬱蒼と茂る木に飛び込んでいくと……。
「きゃあ!?」
誰かと激突したようで、相手側が悲鳴を上げた。
きゃあ?
女だろうか。
明らかに、背の高い樹木の上部辺りだと言うのに、こんな高さに女が登っている……?
「はっ、鼻が、鼻がーっ」
「ユーマ、大変、この人鼻血が出てる!」
「そりゃいかん」
ということで、分離した俺とリュカ。
太い枝の上でのたうち回っているその女性を介抱しようとした。
そこで気付く。
彼女の、抜けるように白い肌とほっそりした体つき。
そして、尖った耳。
涙目になったアーモンド型の目が開かれて、俺たちを非難するような色を浮かべた。
「いっ、いきなり空から飛び込んでくるとか、非常識にも程があります!!」
上陸早々、第一エルフとの接近遭遇なのである。
俺とリュカが乗り込んでいるのは、ボートや小船ですらなく、ただの板。
これを、マーマンが下から支えて運んでいる。
船であれば目立つからという理由なのだが、それにしたってただの板の上で二人でちょこんと座っているのは、なんともシュールである。
これが調子がいいときの帆船ほどの速度で進む。
水面下で水棲人類がお御輿のように運んでいるのだから当然だ。
「エドヴィンは連れて来なかった。これからの戦いにはついて来れそうも無かったからな」
一人誰とも無く呟くと、リュカが振り返って首をかしげた。
振り返るというか、距離を離すほどの大きさがこの板には無い。
ということで、俺の脚の間にリュカがすっぽり納まって、あたかも狭いソリに二人でぎゅうぎゅうに収まるような体勢である。
うーむ、リュカの体温はぬくい。
ちなみにエドヴィンを置いてきたのは本当だが、あのおっさん、アルマースからの正規ルートでディアマンテに渡り、俺たちに合流するつもりなんだそうだ。
大変なバイタリティ。
俺たちはと言うと、ディアマンテでは実質お尋ね者である。
どれくらいお尋ね者なのか。
それはもう、神敵とか呼ばれるランクである。
ある種、宗教国家であるディアマンテから見れば、最も警戒すべき対象と見られている。
正規ルートなど使えるはずが無い。
そんな訳で、闇に乗じて密入国するのである。
「ユーマ、ユーマ」
俺の名を呼びながら、リュカがむぎゅぎゅっとくっついてくる。
うわー、押すな押すな、落ちるぅ。
「むふふ、すっごく久しぶりに、二人だね」
「おっ、そう言えば確かに」
始まりはこの二人だった。
アルマースではサマラが増えて、ネフリティスでアンブロシアが増えた。
あとエドヴィンとか増えた。
思えば、俺の周りは随分賑やかになったものである。
一人私室に引きこもり、ゲームに全てを注いでいた頃には想像も出来なかった事である。
あ、いや。
あの頃も俺は一人では無かったな。
アルフォンスが残した剣は、今もこうして俺を助けてくれている。
「んー……」
リュカは後頭部を俺の胸に押し付けて、ぐりぐり。
ははは、くすぐったいじゃないか、こやつめ。
「熱々ですなあ」
「あっー、見ていたのかマーマン」
「そりゃあ我々が運んでるわけですからなあ」
「確かにそれは道理。公開状態であったか……」
「ひえー、見られてた!」
慌ててリュカもちょっとだけ距離を離した。
いかんいかん。
なんと言うか最近、妙に彼女との距離が詰まってきたように感じる。
ここまで来ると、極めて鈍感かつ、他人からの評価に対して悲観的な俺でも分かるぞ。
だが待ってほしい。
故あって我々は一線を越えられない。
その状況で関係が進展するというのは、これは生殺しではあるまいか。
なんたることか。
「ぬぬぬぬ」
「唸ってるの? お腹痛いのユーマ? 薬草は切らしちゃってるなあ」
「いや、お腹は至って健康」
「そお? あのね、ちょっと向こうから船が来てるってシルフさんが。気をつけて」
ほうほう。
暗闇の中、頭上には満天の星空である。
月明かりだけが頼りとなるような夜の海だが、見渡す限りは船の灯りなど無い。
あ、いや。
水平線の向こうから、小さな灯りが上がってきた。
ディアマンテの船だろうか。
基本的にあの国の船はガレー船だから、夜間は余り出回らないと思っていたが。
何せ、動力源である漕ぎ手が人間であるし、暗い夜は見通しも利かない。
下手に漕ぎ手を消耗させて、暗礁海域などに入り込んでは目も当てられぬという訳だ。
「普通の船じゃないみたい。船の横から、櫂が飛び出して無いって」
「じゃあ帆船か?」
「帆も無いみたい」
ならば答えは決まってくる。
櫂も無く、帆も無いなら、それ以外の力を使って動かなければならない。俺が知る限りでは、アンブロシアが精霊の力を使って動かす船が一つ。
もう一つは、俺が海上でラグナ教のノッポと戦った時、あいつがやった方法。船に分体を乗り移らせて動かすやり方だ。
水の巫女以外に、精霊を操って船を動かせる人間がいるとは思えない。
ならば後者であろう。
敵だ。
俺もリュカも、一気に緊急モードになる。
つまり、イチャイチャはやめである。
マーマンたちが運ぶ板は、音を立てずに進んでいる。
目標も小さいし、よくは見えないだろう。
だが、何も無い水面に漂うものであることは確かだ。
共に水中に潜って船をやり過ごす手もある。
問題は、俺が水に顔をつけるのが苦手な事だ。
正直な話、船と一戦やらかした方がましなくらいには、水に顔をつけたくない。
「よし、やるか」
「ユーマ過激! でも待って。ここで騒ぎを起こしたら、もっと上陸が難しくなるかも」
「そ、そうか」
リュカに諌められてむむむ、と考える。
「見張りは一人か二人だと思うから、その人たちを誤魔化すのがいいと思うな。こうやって……シルフさん、お願い」
リュカが何事かをシルフに命じた。
恐らくは、俺たちの周囲をステルスモードにしたのだろう。
そう言えばこれがあった。
最近は、サマラやアンブロシアに魔法を使ってもらう機会も増えたから、この便利な魔法をすっかり忘れていた。
じっと息を殺し、船をやり過ごす。
船はゆったりと、俺たちの背後を通り過ぎていく。
マーマンたちは身を隠し、最小限の人数が板を真下から支えている。
「ふーむ……何か浮いていると思ったが……。気のせいか」
誰かの呟きが聞こえた。
恐らくは船を動かす分体を呼んだ執行者であろう。
念のために、船の灯りが完全に見えなくなるまでは静かにしている。
小一時間ほど経過して、ようやく船は水平線の彼方に消えた。
俺たちの航海が再開される。
「少し眠られてもいいですよ」
マーマンからそんな優しい言葉をもらったので、失礼する事にする。
板の上は、大きさ的に一畳ほどか。
そこに俺とリュカが乗っている訳で、並んで寝るようなスペースなど無い。
「さあどうする」
「どうしようか」
リュカと額をつき合わせて、ちょっと互いに照れながら相談。
どうやって寝るかなど分かっているのだ。
落ちないように密着して寝ればいい。
だが……なんとも気恥ずかしいではないか。
「いっそ徹夜という手も」
「ユーマ、ちゃんと寝ないと大きくなれないんだよ。なので、私は寝るよ!」
リュカが板をぺしぺしと叩いた。
こ、これは。
俺に横になれと言っているのかっ。
ハハハ、仕方ないなあ。
俺はスッと横になった。
その目の前に、リュカが滑り込んでくる。
「むふふ。すっごく、ユーマの顔が近い。ユーマのにおいがする」
「なにっ。ここ数日水浴びしてないからな……」
「もうっ! ユーマの匂いが好きだってゆってるの!」
ぺちっと叩かれた。
可愛いっ。
だがここで興奮していては眠れない。
「じゃあ、とりあえず……星でも見ながら寝るか」
「うん、そうだねえ……」
頭上に広がる星空に目を向けた。
すぐ横で、リュカの吐息が聞こえてくる。
星空の配置は、当たり前だが見たことの無い形をしていた。
星座など見つけられない。
こんな風に星を見るのは、どれくらいぶりだろう。
引きこもっていた間は、夜も昼も無い生活。
こちらにやって来てからは、生き急ぐかのような慌しい日々だった。
「星が綺麗だなあ……」
「ん……」
返ってきた返事は、とても眠そうなものである。
リュカは横になると、すぐに寝てしまうタイプだな。
俺はもうちょっとだけ、星を眺めていよう。
星空と、波の揺れ、リュカの吐息と、密着したから感じ取ることが出来る、彼女の鼓動。
これらが組み合わさって、俺の頭はちょっとしたアハ体験である。
ぼんやりトリップしていたら、どうやら俺も、いつの間にか眠りに落ちていった。
「ユーマ!」
どんっと上に乗りかかられて目覚める。
「ぐふうっ、あ、あんこが出る」
「あんこ? あんこって何?」
「リュカさん、上から降りてくれなさい」
リュカがどくと、彼方に今、ようやく昇り始めた太陽が見える。
それと、視界の半分に迫ろうかという陸地の姿。
ディアマンテの大地だ。
あえて、人気のある所は避けてある。上陸を目指すのは、切り立った崖の真下である。
「うし、ここまででいい。ありがとうな」
「運んでくれてありがとう! アンブロシアによろしくね」
「はい、では我々はこれにて。またエルフェンバインでお会いしましょう」
マーマンたちに一時の別れを告げた。
彼らは板を残して水中に消えていく。
これから、彼らはエルフェンバイン王都へ続く河を遡上し、国攻めを始めるのだ。
そして俺たちは、ディアマンテ側から侵攻する勢力を作るべく行動を開始する。
「シルフさん、お願い……!」
リュカの出した指示は、下から吹き上げる突風。
猛烈な風が俺たちを巻き上げていく。
俺はバルゴーンを召喚し、大剣の形にした。
広い刃の腹が風を受け、ちょうど帆のような役割を果たす。
リュカを抱き上げると、ぎゅっと抱きついてきた。そんなに締め付けなくてよろしい。ぐえーっ、く、くるしい。
「シルフさん、思いっきりいっちゃえー!」
強烈な風が巻き起こった。
それは、崖の一部を吹き崩す程の勢いで、俺たちは一瞬にして崖の頂点までたどり着く。
このままでは、着地できそうな場所を行き過ぎてしまうと俺は判断。
体を捻って、風の当たり方を調節した。
斜め上方へ飛ばされる形になり、俺は手近な森に向かって飛んだ。
「よっしゃ、この辺で……!」
鬱蒼と茂る木に飛び込んでいくと……。
「きゃあ!?」
誰かと激突したようで、相手側が悲鳴を上げた。
きゃあ?
女だろうか。
明らかに、背の高い樹木の上部辺りだと言うのに、こんな高さに女が登っている……?
「はっ、鼻が、鼻がーっ」
「ユーマ、大変、この人鼻血が出てる!」
「そりゃいかん」
ということで、分離した俺とリュカ。
太い枝の上でのたうち回っているその女性を介抱しようとした。
そこで気付く。
彼女の、抜けるように白い肌とほっそりした体つき。
そして、尖った耳。
涙目になったアーモンド型の目が開かれて、俺たちを非難するような色を浮かべた。
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