熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

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群島の海賊剣士編

熟練度カンストのイカ釣り人

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 ガトリングガンでした!!
 デヴォラは手にした筒を、台座に設置するや否や、ガンガンと回転させながら弾丸の雨を降らせ始める。
 容赦なし。
 いきなり本気、殺すと書いてる気である。

「うひょー」

「ぐわーっ!?」

 慌ててノッポは、体に分体を憑依させたようだ。
 弾丸をなんとか防いでいる。
 俺は俺で、木片の上を飛び回りながら狙いを回避する。
 まああれ、そう怖いものじゃないんだが、いきなりやられると心臓に悪いな。
 特にあの音。

「わ、私ごとやろうとしたなデヴォラ!!」
「あら、あなたは充分に仕事をなさいましたわウィクサール。つまりもう用済みですの」
「おのれーっ!」

 怖い怖い。
 この状況、三つ巴という奴か。
 直接戦闘力ならノッポのほうがデヴォラより上だろう。
 だが、デヴォラは甲板にいるし、何より飛び道具を持っている。
 ノッポは俺のことも気になって上にいけないらしい。
 そこを諸共に撃破しようとするデヴォラだが、俺が距離を取ってしまったせいで弾丸が届かなくなって徐々にイライラしてきているようだ。

「もうっ! 船を寄せなさいな! え? そんな細かい動きは出来ないですって!? お黙り! あなたの腕が悪いのでしょう! やれといったらやりなさいな!」

 優雅っぽいデヴォラが起こると大変怖い。

「おおっ、おのれ、これだから女はっ! 戦いの神聖さというものを理解せんから嫌いなのだっ!!」

 ノッポも距離を取っている。
 デヴォラのガトリングガンは標的を見失って空回り。
 我ら三名、しばしお見合いである。
 で、すぐに均衡を破るのが俺。
 ひょいひょいっと木片を跳んで行って、その先の船に向かって剣で海上を滑り出す。

「あっ、こら! 灰色の剣士逃げるのではない!」
「逃がしませんわよ! 追いなさい!」
「ま、待ってくださいデヴォラ様! ふ、ふ、船が突っ込んできますーっ!!」
「なんですってぇ!?」

 突撃してきたのは海賊船である。
 おかしい、こんな指示はしていないぞ。

「ユーマに何してるのよーっ!!」

 サマラを押しのけて舳先に立つのはリュカである。
 おお、リュカが大変お怒りである。

「いきなり変なのでバンバン撃たれて心配したんだからね!」

 そう言えば、俺の周囲の音は彼女に届いているのだった。
 それでアンブロシアを急かしてこっちまでやってきたという訳か。
 居場所を失ったサマラが、船べりから炎を出したりして、他の船を威嚇している。
 おや、このままだと船と船が追突しないかね。
 ……なんて思っていたらだ。
 どーんと腹に響く音がして、海賊船がデヴォラの船の横っ腹に衝突した。
 やった、やってしまった。
 無論、真横から追突されたデヴォラの船は無事で済むはずもないが、こちらの海賊船も舳先がへし折れ、大変な有様である。

「ううう、ごめんよオケアノス号……!」

 勢いでやってしまった後、後悔しているのかアンブロシア。

「そっ、その声はアンブロシアですわね! 出ていらっしゃいな! 引導を渡して差し上げますわ!」

 あっ、デヴォラも元気だ。
 追突されて傾いだ船からは、水夫がばらばらと海に零れ落ちて行っている。
 だが流石はエルドの導き手。
 デヴォラは帆柱を足場にして踏みとどまっている。
 ガトリングガンは憐れ、海の藻屑である。
 というか、デヴォラとアンブロシア、面識があったんだな。
 ……アンブロシアが二十四だから、年齢で言うとデヴォラと近いくらいか。何か確執が……?

「うるっさいよデヴォラ! あんたもまだ生きてやがったか! 前々からあんたのエルド人らしい選民思想が気に入らなかったんだよ!」

「黙らっしゃい!! わたくしたちエルド人は優れた民族ですのよ! 人々を導く役割をもった民族なのですわ! だからこそこうして交易と金融を支配しているというのに、散々大目に見てやればこのように航路を荒らして!! 野蛮人! 犯罪者!」

「黙るのはあんただよ! あたしを今までのアンブロシアと思っていると痛い目見るからね!」

「いい度胸ですわ! わたくしも全力でお相手して差し上げますわよ!!」

 ……ここは二人に任せて、俺は適当に他の船を荒らしてこようかね。
 このままなら放って置いても、海賊船は自沈してしまいそうだ。
 それまでせいぜい暴れまわり、あとは有耶無耶に、だ。

「うおおおお!! 灰色の剣士ィィィィ!!」

 俺の背後から物凄い勢いで迫ってくる何者かがいる。
 いやもう、誰なのかは分かっているのだが、凄いガッツだなって。
 チラッと振り返ると、木片を繋ぎ合わせて作ったのだろう、いかだみたいな物を黄金に輝かせてノッポが追跡してくる。
 こいつに構っていると、暴れまわる余裕が出来ない。
 手抜きをして勝てるほど甘い相手では無いからな。
 ということで、振り切らせていただく。

「リュカ、跳ぶぞ!」

「はーい!」

 突風が吹く。
 俺は大剣に乗ったまま舞い上がり、空を行くわけである。

「うおのれぇっ!! 降りて来い灰色の剣士!! 勝負だ! 勝負をつけてやるううう!!」

 ははは、下から響く怨嗟の声が心地よい。
 こうして上空から戦場を見下ろすと、ちまちまと蠢く人々の姿がまるで塵芥のようではないか……と悪役めいたことを考えていた俺は、その違和感に気付いて思考を切り替えた。
 うん。
 水底に、何かいるな。
 海賊船や交易船に匹敵するでかさの……いや、あれの胴体から生えた足を入れれば、船団を丸ごと包み込んでしまえそうなサイズの。

「リュカ、クラーケンが出るぞ」

「クラーケンって、あのイカさん?」

「そう。注意」

「はーい!」

 元気のいいリュカの返事が響き、その直後に交易船の一つが大きく揺らいだ。
 水中から巨大な生き物の突進を受けたのである。
 なにぃ!
 い、イカが二匹目!?
 いや、イカは一杯、二杯と数えるんだったか。
 あれほど大きな杯ともなると想像もつかんな。
 かくして、一杯目のクラーケンと二杯目のクラーケンが姿を現す。
 この場は大混乱に陥った。
 俺は足元の大剣の角度を調整し、落下地点を手近な船の帆に決定する。
 大剣を収めつつ帆に突進し、帆柱を伝いながら駆け下りる。

「げっ、海賊剣士!」

「落ち着け。俺に構ってる場合じゃないだろう」

「いやしかし……」

 俺に気付いた奴らが集まってくるが、それもイカが触手を振り回すと、海域に大きな波が生まれて船を大きく揺さぶってくる。
 船に乗った兵士たちも、俺に構っているどころではない事に気付いたのだろう。

「ああ、片方のイカは多分、俺たちがやっつけた奴だな……」

 目と目の間辺りの皮膚が、歪な形になっている。
 サマラの炎で焼かれた跡に違いない。
 もう一杯のイカは、相棒の加勢にやってきたのだろうか。
 しかしどうしてこのタイミングなのか。

「うわあ、うぐわあああ」

 あっ、小船で繰り出している奴が触手に絡まれた。
 そのまま水中に没していく。
 少ししたら、また何事も無かったかのように触手が戻ってきた。
 分かった。
 奴らは食事にやってきたのだ。
 初めは、兵士たちも大きなイカにどよめくばかりだった。
 だが、海に落ちた連中が一人として帰って来ない事に気付くと、徐々にどよめきが静まり返っていく。
 クラーケンの巨大な目が、俺たちを睥睨する。

「ちぃっ……! クラーケンが出たとは聞いていましたけれど、退治できていませんでしたの!?」

 向こうの船でデヴォラが毒づいたようだ。
 どこから取り出したのか、両手には別々の長い筒を握り締めている。
 いつの間にかアンブロシアが乗り移っていたようで、甲板で互いに筒を向け合っているようだ。

「ああ、確かにクラーケンは、そこの火の巫女が焼いたさ。だけど、オケアノスの海で育った怪物は、それくらいじゃくたばらないからね!」

 どこか自慢げなアンブロシアである。
 何をやっているのか。
 今重要なのは、この物騒すぎる闖入者をなんとかする事であろう。

「おい、投石器はまだ使えるのか?」

「なに、き、貴様何をするつもりだ!」

「クラーケンに炸裂弾をぶつけるのだ」

「おお!!」
「その手があった!」

 兵士どもは、驚愕と恐怖とで思考が麻痺していたらしい。
 あのイカ連中が炎に弱いのは、以前に対面した時に確認済みだ。
 恐ろしくよく効く。
 ということは、炸裂弾などまさに、イカを殺すための武器ではないか。

「よし、諸君あのイカを焼きイカにしてやろうではないか」

「海賊剣士に音頭を取られるいわれは無いぞ!」
「というか今がチャンスじゃねえか。死ね、海賊剣士!」

「うわー馬鹿かお前らー」

 奴ら、トチ狂って俺に襲い掛かってきたので、俺は手にしていたバルゴーンで迎撃した。
 兵士は気が立っていていかんな。
 何故こうも俺を敵視するのだ? 賞金でもかかっているのだろうか。
 俺は騒ぐ兵士どもを背に、ぴょんと船の縁を飛び越えて海へ。

「待っていたぞ灰色の剣士ーっ!」

「君もしつこいな」

 下にはのっぽがいて、大剣サーファーとなった俺に向けて棒を振り回してくる。
 俺は攻撃をやり過ごしながら後退する。
 これはいかん。
 みんな近視眼過ぎる。色々手遅れになるぞ。
 ……と思っていたらだ。
 案の定、俺がさっきまで乗り込んでいた船に向かって、長い触手が叩きつけられた。
 ほう、クラーケンの触腕部分だが、先端が吸盤と甲殻で覆われ、打撃武器のようになっているな。
 一撃で船の甲板をぶち割り、運が悪い兵士が挽き肉になる。
 そいつを吸盤で吸い寄せて海に引きずり込む寸法であろう。

「ぬわーっ、イカの化け物めええ」

 ちょうど、俺とノッポの中間に触手が現れた形だ。
 海はとんでもない荒れ方である。二杯のクラーケンによる、大時化(おおしけ)にも似た海面の乱高下。
 投石器も粉々になり、俺たち目掛けて降り注ぐ。
 船が沈むまでにはまだ時間があるだろうが、大きく傾ぎ、上に積んでいた荷物やら人やらをバラバラと零していく。
 あぶねえ!
 炸裂弾と化している樽が降って来た。
 俺は慌ててこいつを回避するが、樽は水面に思い切りぶち当たり……ぷかりと浮かんだ。
 おや。
 爆発しない。
 これはもしや……何か爆発させる細工があるのだろうか。
 
「リュカ、アンブロシアを回収して船に戻ってくれ。サマラも準備させてくれ」

「どうしたの?」

「焼きイカパーティをするぞ」

 そう伝えつつ、俺は零れ落ちた樽を集め始めた。
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