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精霊の守り手編

熟練度カンストの救出者

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「あー……。なんか大変なことになったねえ」

「ゼフィロス様とかを呼ぶっていうのは、ああ言う事になるのだ」

「わかってますよーだ。でも、サマラ大丈夫かな?」

「大丈夫では無かろう」

「あ、こっち見た」

「なあ、リュカ。あれの胸元の辺り、あそこの音を拾ったり出来るか?」

「やれるよ? シルフさん、お願い……。あれ、どうしたのユーマ? 何が分かったの?」

「うむ、約束したことは守らないといかんよなあ……」

「ああー。ユーマ、そうだよね。変に約束とか、守ろうとするもんねえ。そこがいいとこなんだけど。じゃあ、行ってらっしゃい。シルフさん、お願い。ユーマを届けて」

「おう、行ってくる」



 戦場を風が吹き抜けた。
 否、これは既に戦場ですら無い。
 焼き払われた大地、灼熱が炙った岩と砂はガラスのように照り輝き、生きとし生けるものは、絶望の声すらあげることが敵わない。
 放たれた熱線を、光の塊を集めて防いだアブラヒムは、その男が空を駆けるのを見た。
 風が彼を飛ばしていく。背負った大きな虹色は、大剣か。幅広い刃で風を受けて、ただ一直線に炎の巨人を目指す。

「やる気か。正気か……? そこまでやる理由はあなたには無いだろうが」

 ザクサーン教を統括し、合理を旨とするアブラヒムには、ユーマという男が理解できない。
 だが、必ずや敵として相対することになるであろうあの男が、嫌いではないと感じるのだ。



 
 エルデニンの三部族は、女たち、子どもたちだけが逃れ、ガトリング山から遠く離れている。
 女たちの中でも腕が立つものが護衛となっているが、それでも、ザクサーンの手勢が追ってくれば助かるまい。
 追っ手が未だ無いことを考えれば、男たちはしっかりと囮の役割を果たしてくれているようだった。

「ねえ、虹が……!」

 年端もいかない幼児が、天を指差す。
 空は、精霊王アータルが出現してより後、暗くかき曇っている。
 噴煙がアータルを包み込むように昇り、もう朝だというのに、空をまるで黄昏時のように染め上げる。
 時折、噴煙から放たれる稲光は、まるでこの世の終わりのような光景だ。
 それだからこそ、暗がりとアータルの炎だけが支配する世界で、天を切り裂く七色の輝きは目についた。

「あれはなに?」

 母親に尋ねる幼子。
 だが、誰もそれに対する答えを持たない。
 誰もが歩みを止め、一直線に巨人目掛け伸びていく虹の軌跡を見守る。
 ふと、気のせいか、一瞬巨人がたじろいだように見えた。
 そして、アータルはその口を大きく開く。

 オオオオオオオオオオ

 叫びが轟いた。
 放たれるのは、真紅の熱線。
 虹を燃やし、消し去らんと放たれる強烈な破壊の奔流だ。
 次の瞬間。

「あっ」

 幼子が口を開けた。
 虹が、天を焼き尽くすばかりの赤い熱線を、二つに裂いたのだ。
 次々に送られる熱線を切り裂きながら、軌跡が真っ直ぐに伸びていく。
 火の精霊王、アータル目掛けて。





「うわー、あぶねえ。駄目かと思った」

 俺は呟いていた。
 嫌な予感を感じて、マスト代わりにしていたバルゴーンの刃を赤くてでかい奴に向けたのだ。
 風が邪魔をして、簡単には姿勢を変えられなかったので、俺の体を刃の後ろへと潜り込ませた。
 そんなこんなで、バルゴーンが熱線を切り裂く。
 かつてゲームの中で、ドラゴンの炎に対してやった方法だ。
 これでラグナの分体ビームを切り裂くことも出来たから、こっちもやれるんじゃないか? という軽い気持ちだったが、まあ成功してよかった。失敗してたら消滅してたな。
 うむ、多分あれ、精霊王アータルとかいう奴だな。
 見た目はゼフィロスよりも人間に近いが、ゼフィロスと比べて全く話が通じ無さそうだ。
 さて……助けてやると約束したものの、どうしたものか。
 こういうのは、パターンとして、一箇所だけ色が違う場所に囚われていたりするんだよな。
 ほら、いた。

「…………!!」

 サマラはまるで囚われのお姫様とでも言うような有様だ。
 オレンジ色のクリアパーツみたいな牢獄の中で、彼女はポカンと口を開けて俺を見ている。
 今からそこに突っ込むので、どいていただきたい。
 理解したようで、慌ててサマラが下がっていった。
 俺は剣のサイズを変化させる。分厚く、叩きつけるタイプの重剣へ。
 そして、風の勢いに任せて空中で一回転しながら……打撃を檻に叩き込む。そいつが、粉々に砕け散った。これ、一見すると脆そうだが、岩の中に含まれている貴金属を溶かして形成された檻だな。結構な硬度だぞ。
 で、俺は着地する。
 どうやらこの場所は、なかなかの温度のようだ。
 だが、気にはならない。
 何故なら俺は完全装備だからだ。
 足元には、もこもこのピンクのトイレスリッパ。
 汚れどころか、熱までシャットアウトとは恐れ入った。
 そして体には馴染んだ灰色のだるだるジャージ。

「助けに来たぞ」

 俺が声をかけると、サマラはぼうっとして、すぐにハッと我に返ったようだ。

「ユーマ様……!! アタシ……!」

 この部屋は、巫女を閉じ込める独房かと思ったが、そうではないらしい。
 言うなれば、この精霊王のコクピットとかエンジンルームみたいなものだな。
 流石にこれだけでかい奴を、この剣で仕留められるとは考えていない。
 いや、出来るのかもしれないが、どうやればいいかちょっと想像できない。
 部屋は全体が薄くオレンジに輝いている。
 サマラはその中で、うわっ、一糸まとわぬ全裸じゃないですかっ!!
 だが、不思議と今は、エロスよりも神秘的な印象が勝っている。
 というのも、サマラはすっかり、その姿が変わっていたからだ。
 赤毛だった髪は、炎のような揺らめく光を宿すオレンジ色に。その瞳の色も同じだ。
 胸の火口石とやらが表に浮き出していて、そいつから電子回路のように、金色のラインが全身のあちこちに伸びている。
 サマラも、リュカと同じような存在になったのだろう。

「アタシ、人間じゃ無くなっちゃったよ……。どうすれば、いいのかな……」

「知らん。脱出するぞ」

「えっ」

 なんかうじうじと悩んでいそうだったので、一刀のもとにそんな悩みは切り捨てる。
 そうなったらそうなったで、それなりに生きれば良いのだ。
 俺を見ろ。
 人間の間ですら、コミュニケーションが苦痛で仕方がなくて、大変生き辛いぞ。
 俺は彼女の手を握った。

「あっ」

 おっ、体温高いですな。
 だが、この熱はどうやらジャージが中和してくれているようだ。
 凄いな、トイレスリッパとジャージ。
 俺はサマラを引き寄せようとしたが、途中で止まってしまう。
 サマラの背中から、コードのようなものが伸びている。
 それは、ずっと背後の空間に、ぼうっと浮かび上がる祭器と一体化しているようである。

「あれか、邪魔をするのは」

 俺はぬうう、と唸った。
 その耳元に、リュカの声がする。

『ユーマ、ゼフィロス様が来るよ。だから早く逃げて』

「呼んだのか」

『うん。これは仕方ないよね』

「あの、大巫女様……!?」

『もう! 大巫女様っていうのは、もう無しにしよ。リュカって呼びなさい』

「は、はい!」

 俺はサマラの背中に、ナイフサイズに縮めたバルゴーンを伸ばすと、繋ぎ止めるコードに宛がう。
 おお、さすがは神秘の力で作られたコードだ。簡単には切れんな。
 ならば……何度か押しながら引いて切断するだけだ。正しい刃物の使い方である。
 ぶつっと切れた。
 その瞬間、俺たちが入っているアータルが絶叫をあげる。

「あっ、なんだか、頭がスーッとしました」

 サマラが憑き物の落ちたような顔をする。
 彼女の胸元に走っていた、金色の回路が消えていく。
 火口石の輝きも薄れ、弱いものに変わっていった。まあ、髪と目の色は変わらんな。
 すると、突如部屋に強烈な振動が走る。
 アータルが暴れだしたらしい。
 俺はサマラを抱き寄せながら、入ってきた場所に向かって跳躍する。
 逆手に持ったバルゴーンを、今度は小剣サイズに。二人が飛び出せる程度に、最小限拡張する。

「と、飛び出して無事に降りられるんですか!?」

「ノープランなのだ」

「いやああああああああ!?」

 耳元で叫ぶのはおやめなさい。
 俺は別に、自暴自棄になってはいない。
 こういうフォローはリュカの役目なのだ。
 案の定、ふわりとシルフの力が俺たちの落下速度を緩める。
 そんな頭上で、今まさに、急速に雲が湧き出してくる。
 火山が生み出した噴煙すら、風の力でバラバラに引き裂きながら、超巨大積乱雲が発生し始めているのだ。
 これこそ、スーパーセルの力を権能として有する風の精霊王、ゼフィロス。
 二大精霊王の激突である。
 こりゃあ大スペクタクルだな。
 すっかり見物モードになっていた俺である。

「あ、アータル様……!」

 サマラの声で気付く。
 アータルが、俺たちを見ている。
 怒りに燃えた目だ。
 いや、こいつは、常に怒ったような顔をしているな。
 まっすぐ、巨大な腕を伸ばしてくる。
 俺たちを捕まえようというのだ。
 ゼフィロスも間に合うまい。無論、これほどの大質量。シルフでは防ぐことなど不可能だ。

「サマラ、俺の腰辺り、抱きしめてろ」

「は、はいぃっ!!」

 俺はバルゴーンを、通常の形状へ変化させる。
 片手剣である。
 鞘が腰に出現する。
 シルフが支える風を足場とし、サマラを錘にして、俺は剣を鞘へと収め……。
 伸ばされてくる腕。
 接触の瞬間、俺は全身をひねりながら抜刀する。
 一閃。
 さらに戻す刃で、縦に一閃。
 
 オオオオオオオオオオ

 一度目の手応えで、アータルを構成する岩の筋を見切ることが出来た。
 後はそれにそって、刃を通すだけだ。
 縦に振り抜かれたバルゴーンの向こう、アータルの巨大な腕が、縦に裂けていく。
 俺が切り裂いた岩が、連鎖を起こして剥離していくのだ。
 そう、アータルはサマラを失い、その熱量を減じつつある。
 既に炎の巨人は、冷えつつある溶岩の巨人になっていた。
 そして、降り立つゼフィロスの豪風。

「やべえ! サマラくっつけ!」

「ひゃ、ひゃいぃっ!!」

 二人でくっつき、なるべく表面積を小さくして風をやり過ごす。
 転がるように、山肌に着地した。
 おや、何やら見知った顔がある。

「なんてことだ……いや、まさか……ははは。伝説だぞ。絶対の神秘だ。それに、ただの人間が抗えるのか……!」

 砂埃に塗れている。
 ムハバートだ。
 奴の息子二人もいる。ユースフの方は意識が無いようだ。

「さっさとここを離れろ。もうすぐ消し飛ぶぞ」

 俺はそれだけ伝えると、サマラを抱きかかえて崖を駆け下りていく。
 いやあ、エアーバック代わりのシルフがいなければ、とても出来ん事だな。
 リュカ様様だ。
 あと、サマラは大変柔らかかったです。
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