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Part 7-3
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「さすがに少し疲れたろう」
前を行く獅子王が振り返り、声をかける。
「そうだな……。やっと話が見えて来て、大体の状況が分かったからそれは良かったんだけど」
少し疲れたな、と有吉は返す。
「オレは腹が減った」
「私もー。長官殿の話だと、まだこれから手続きがあるんでしょ? 喉も乾いたし。ここらで休憩希望」
山口とみちるは本当にいいコンビだ。この二人を見ると疲れも軽くなる。獅子王が鳳乱を伺う。
「ミケシュのところに行く前に、食堂に寄ろう。何かあるだろう」
「ひゃっほー! 久々だな、こっちの食事。ごってりしたもん、残ってればいいなあ」
『コッテリ』を通り越して『ゴッテリ』をご所望の獅子王は、嬉々として早足になる。さすがにユランのスーパーナチュラルオーガニックな食事は飽きたのだろう。
しかし、施設内を移動する、この歩行距離はかなりのものだ。
まどかは後方の有吉が気になり、振り返った。何か思案するように歩いていた彼だったが、まどかの視線に気がついて、すぐに目元を緩めた。
食堂は午後八時を過ぎると明かりが落ちるらしく、真っ暗だった。獅子王がどこかで明かりをつけた。
広々とした空間には、長テーブルがずらりと並んでいたが、一部の角には少人数が座れる丸テーブルも設置されていた。ここは、企業の社員食堂とそう大差ない外観だった。
「基本的に朝昼晩はここの食事になるな。まあ、他にも食いもん売ってるところはあるけど」
獅子王は厨房の長いカウンターの裏へ回った。見上げると、天井はガラス張りで、室内の明かりを反射している。
「うわ、なんだこれ」
獅子王はカウンターに置かれた銀色の大きな業務用の鍋の蓋を開け、中を覗いている。
「どうした?」
鳳乱が近づく。
「これ。おばちゃんからの書き置き。見て。手書き。『お疲れさまです。司令長官から頼まれましたので、食事を用意しておきました。お口に合うと良いのですが』だって。シャムも気が利くなあ。ほら、さっき奴のこと笑ったの謝れよ。俺が聞いておくから」
「いや、当然だろ。用意させておいて、それを伝え無いのは明らかにあいつ特有の性格の悪さだろうが」
シャムの名前が出ると鳳乱は常に気分を損ねるらしかった。
「つーか、これなに?」
二人のやり取りを見ていた五人は、わらわらと鍋を覗き込む。みちるが茶色のソースの中に指を突っ込んで、それをひと舐めする。
「ハヤシライスだ!」
「何だそれ?」
獅子王がみちるに聞く。
「知らないの? じゃあ食べてみなさいよ。すごく美味しいから。はい、早く温める!」
みちるの指導下で、保温されていた米も見つけて皆でテーブルを囲んだ。
久々の日本の食事に感動しながら、皆は盛んにスプーンを動かした。
「こんなうまい食事を用意してるなんてさぁ、日本から来てるって聞いて、おばちゃん、張り切っちゃたのかな~。レシピとか必死に探して」
と言いながら、獅子王は二食目の皿も半分ほど空にしている。
その時、まどかは食堂のドアがスライドしたのを目の端で捉えた。
「ちょっとちょっと! なんでこんなところで寛いでいるのよーー!」
高い声が響き、小柄な女性が入って来る。無駄のないなラインの濃紺のパンツスーツに身を包み、ヒールの音を小気味良くたてながら近く彼女は、赤味の強いブロンドで、ゆるくウェーブの掛かった髪を後ろでポニーテイルにしていた。一重のキリッとした瞳の色は、茶色というより濃いガーネットのようで、そこに特に活力がみなぎって見えた。
「おお、ミケシュ!」
獅子王はスプーンを持った手を振った。
「遅いから探しに来たら、こんなところでのんびりしてる! まあ、そんなことだろうと思ったから、色々持参で来たけど。残業手当かつかつだから、もたもたしてもらっちゃ困るのよねー。あ、なんかいいもの食べた? アタシも持って帰ろうかなあ」
獅子王以外、食事を終えて、お茶を飲んでいたところだった。彼女は一度、カウンターに寄って鍋を覗き、こちらに来た。
しかし、良く喋る人だ。
彼女は鳳乱の隣に立つと、握手のために手を差し出した。「お帰りなさい」そして一瞬まどかに視線を投げた。鳳乱は「久しぶり」と手を握り、座っている自分の目線より、やや高い彼女の顔を見上げた。
そらからミケシュは全員に向き直り、短く自己紹介をした。
「ミケシュ・バンファです。司令長官の直下で動いています。秘書みたいなものかしら。よろしく」
「優秀な影の司令塔」
鳳乱が付け足す。
「あら、あなたが褒めるなんて珍しい。えーと、さっさと仕事片付けちゃいましょう。あなた達も早く休みたいでしょう。ここにサインをしてくれれば終わりよ。今日は間に合わなかったけど、後日、この契約書の控えを送るわ」
はい、とショッキングピンクのタブレットと、お揃いの色の華奢なペンをまどかの前に差し出した。まどかは戸惑いながらもそれを受け取りながら、そのパネル上に並ぶ全く馴染みのない文字と、ミケシュを交互に見た。
「契約って?」
「え? 鳳乱まだ話してないの?」
呆れ顔で腰に手を当て、彼女は鳳乱を見下ろした。
「時間がなかったんだ。あんなタイトな予定で、いつ話せっていうんだ」
彼は顔をしかめた。まどかはふと違和感を持つ。
(あれ……時間なら船の中でも十分あったはずなのに……)
しかし、思い返せば船に乗ってからずっと、彼はなんだか上の空、という感じだった。
「もう、仕方ないわね。いい? あなた達は地球に帰るまでバーシスに籍を置くことになったの。ユランに行こうと、ここに残ろうとそれはどちらでも良いんだけど、どっちにしろ身柄をバーシスに預けるかたちになる。そうすると経費が掛かるの。食事だって、寝る所も電気とか全て。だから早い話、あなた達はその代わりにバーシスで働きます、っていう契約をするわけ」
はい、といってミケシュは薄いオレンジのマニキュアで塗られた指で「ここに名前、書いてね」とパネルの一部を示した。
まどかが向かいの鳳乱に視線で助けを求めると、彼は無言で頷いた。
「安心しろ。不利な条件は何も書いていない」
その一言がまどかの手を動かす。
ミケシュはタブレットを受け取り、パネルをタッチして次の契約書をスライドさせる。そうして全員サインし終わると、彼女は満面の笑みでそれを胸に抱えた。
「ご協力ありがとうございました。わあ、本当に助かった! 人増えて、これで助成金カットされなくて済むわ!」
「な、なんですか。助成金って」
有吉はミケシュのテンションが急に上がって、やや警戒しているようだ。
「あのね、バーシスって国から助成金もらっているのよ。で、ある一定員満たないとカットされるの。それも頭一つごとが結構大きくて。ああ、でもあなた達の御陰でノルマも達成! 神はゼルペンスだけじゃなく、バーシスも救ったのねぇ」
「おい、はしゃぎ過ぎだぞ」
獅子王はミケシュを嗜める。
「あら! 最近すっかり平和になって、ただでさえ人手不足気味なんですからね。もう少しあなた達が劇的な新薬を見つけるとか、資源豊富な星を見つけてくれるとか、なにか派手な活動していただかないと、人も来ないっつーの」
「なにいーっ!」
獅子王はミケシュに牙を剥いた。
「まあ、ミケシュ。これで仕事は終わったんだろう? もう上がってくれよ。ほら、残業代……」
鳳乱が火花を散らしている二人の間に入る。ミケシュは小さく「チッ」と舌を鳴らし、獅子王から鳳乱に目を向けた。
「あ、あと部屋に案内しろって言われているわ」
「それは鍵さえもらえば、獅子がやるから。どうせあっちに戻るんだし」
「えっ、オレかよ!」
ミケシュはにやりと笑い、「じゃあ、お願いするわ」と、スーツの胸ポケットから小さな円柱のスティックをいくつか出して鳳乱に渡した。そして今度はまどかを視線で指しながら、彼に少し顔を寄せた。
「ところで、この子があなたの『仔ウサギ』ちゃん?」
ミケシュの声は、もちろんまどかにも届いた。
「そこまで噂が飛んでるのか!? ここのセキュリティにはかなり問題があるんじゃないか」
彼女は人差し指を顔の前で振った。
「なに言ってるの。あなたが、このバーシスで一番セキュリティの弱いエステノレス長官に『彼女は自分の部屋に入れたい』って連絡したんじゃない。管理部まで来て言いふらしていったわよ。『あの鳳乱が女を囲う』ってね。まあ、長官の話なんて大抵五割増しだから、あんまり皆相手にしてないけど……それでも久々に色のある噂はやっぱり飛び回るわよねぇ……そう、この鳳乱がねぇ……」
そう言うって愉快そうにまどかを、まじまじと見た。
『鳳乱の部屋に住む?』
その最新の情報を、まどかはどう処理して良いかわからず、フリーズしていた。
「あ、そうそう、」
彼女は再び鳳乱に向き直る。
「スティックの説明も彼らにしておいてよ。ただの鍵だなんて思われたらたまったもんじゃないから。名前と部屋番号が記されてるし、部屋も整っているし、着替えも用意してあるわ。全く至れり尽くせりね。……では以上」
鳳乱は、大げさに敬礼をした彼女に微笑した。
「ごくろう。また何かあったら頼む」
「OK」
彼女はまどかたちにも軽く敬礼し、ヒールを響かせて出て行った。
それから、全員一致でバーシスに留まると決断した。鳳乱はすぐにその決定をパールホワイトの小さな機械で、長官に送信する。
これでやっと、長い一日が終了したのだった。
前を行く獅子王が振り返り、声をかける。
「そうだな……。やっと話が見えて来て、大体の状況が分かったからそれは良かったんだけど」
少し疲れたな、と有吉は返す。
「オレは腹が減った」
「私もー。長官殿の話だと、まだこれから手続きがあるんでしょ? 喉も乾いたし。ここらで休憩希望」
山口とみちるは本当にいいコンビだ。この二人を見ると疲れも軽くなる。獅子王が鳳乱を伺う。
「ミケシュのところに行く前に、食堂に寄ろう。何かあるだろう」
「ひゃっほー! 久々だな、こっちの食事。ごってりしたもん、残ってればいいなあ」
『コッテリ』を通り越して『ゴッテリ』をご所望の獅子王は、嬉々として早足になる。さすがにユランのスーパーナチュラルオーガニックな食事は飽きたのだろう。
しかし、施設内を移動する、この歩行距離はかなりのものだ。
まどかは後方の有吉が気になり、振り返った。何か思案するように歩いていた彼だったが、まどかの視線に気がついて、すぐに目元を緩めた。
食堂は午後八時を過ぎると明かりが落ちるらしく、真っ暗だった。獅子王がどこかで明かりをつけた。
広々とした空間には、長テーブルがずらりと並んでいたが、一部の角には少人数が座れる丸テーブルも設置されていた。ここは、企業の社員食堂とそう大差ない外観だった。
「基本的に朝昼晩はここの食事になるな。まあ、他にも食いもん売ってるところはあるけど」
獅子王は厨房の長いカウンターの裏へ回った。見上げると、天井はガラス張りで、室内の明かりを反射している。
「うわ、なんだこれ」
獅子王はカウンターに置かれた銀色の大きな業務用の鍋の蓋を開け、中を覗いている。
「どうした?」
鳳乱が近づく。
「これ。おばちゃんからの書き置き。見て。手書き。『お疲れさまです。司令長官から頼まれましたので、食事を用意しておきました。お口に合うと良いのですが』だって。シャムも気が利くなあ。ほら、さっき奴のこと笑ったの謝れよ。俺が聞いておくから」
「いや、当然だろ。用意させておいて、それを伝え無いのは明らかにあいつ特有の性格の悪さだろうが」
シャムの名前が出ると鳳乱は常に気分を損ねるらしかった。
「つーか、これなに?」
二人のやり取りを見ていた五人は、わらわらと鍋を覗き込む。みちるが茶色のソースの中に指を突っ込んで、それをひと舐めする。
「ハヤシライスだ!」
「何だそれ?」
獅子王がみちるに聞く。
「知らないの? じゃあ食べてみなさいよ。すごく美味しいから。はい、早く温める!」
みちるの指導下で、保温されていた米も見つけて皆でテーブルを囲んだ。
久々の日本の食事に感動しながら、皆は盛んにスプーンを動かした。
「こんなうまい食事を用意してるなんてさぁ、日本から来てるって聞いて、おばちゃん、張り切っちゃたのかな~。レシピとか必死に探して」
と言いながら、獅子王は二食目の皿も半分ほど空にしている。
その時、まどかは食堂のドアがスライドしたのを目の端で捉えた。
「ちょっとちょっと! なんでこんなところで寛いでいるのよーー!」
高い声が響き、小柄な女性が入って来る。無駄のないなラインの濃紺のパンツスーツに身を包み、ヒールの音を小気味良くたてながら近く彼女は、赤味の強いブロンドで、ゆるくウェーブの掛かった髪を後ろでポニーテイルにしていた。一重のキリッとした瞳の色は、茶色というより濃いガーネットのようで、そこに特に活力がみなぎって見えた。
「おお、ミケシュ!」
獅子王はスプーンを持った手を振った。
「遅いから探しに来たら、こんなところでのんびりしてる! まあ、そんなことだろうと思ったから、色々持参で来たけど。残業手当かつかつだから、もたもたしてもらっちゃ困るのよねー。あ、なんかいいもの食べた? アタシも持って帰ろうかなあ」
獅子王以外、食事を終えて、お茶を飲んでいたところだった。彼女は一度、カウンターに寄って鍋を覗き、こちらに来た。
しかし、良く喋る人だ。
彼女は鳳乱の隣に立つと、握手のために手を差し出した。「お帰りなさい」そして一瞬まどかに視線を投げた。鳳乱は「久しぶり」と手を握り、座っている自分の目線より、やや高い彼女の顔を見上げた。
そらからミケシュは全員に向き直り、短く自己紹介をした。
「ミケシュ・バンファです。司令長官の直下で動いています。秘書みたいなものかしら。よろしく」
「優秀な影の司令塔」
鳳乱が付け足す。
「あら、あなたが褒めるなんて珍しい。えーと、さっさと仕事片付けちゃいましょう。あなた達も早く休みたいでしょう。ここにサインをしてくれれば終わりよ。今日は間に合わなかったけど、後日、この契約書の控えを送るわ」
はい、とショッキングピンクのタブレットと、お揃いの色の華奢なペンをまどかの前に差し出した。まどかは戸惑いながらもそれを受け取りながら、そのパネル上に並ぶ全く馴染みのない文字と、ミケシュを交互に見た。
「契約って?」
「え? 鳳乱まだ話してないの?」
呆れ顔で腰に手を当て、彼女は鳳乱を見下ろした。
「時間がなかったんだ。あんなタイトな予定で、いつ話せっていうんだ」
彼は顔をしかめた。まどかはふと違和感を持つ。
(あれ……時間なら船の中でも十分あったはずなのに……)
しかし、思い返せば船に乗ってからずっと、彼はなんだか上の空、という感じだった。
「もう、仕方ないわね。いい? あなた達は地球に帰るまでバーシスに籍を置くことになったの。ユランに行こうと、ここに残ろうとそれはどちらでも良いんだけど、どっちにしろ身柄をバーシスに預けるかたちになる。そうすると経費が掛かるの。食事だって、寝る所も電気とか全て。だから早い話、あなた達はその代わりにバーシスで働きます、っていう契約をするわけ」
はい、といってミケシュは薄いオレンジのマニキュアで塗られた指で「ここに名前、書いてね」とパネルの一部を示した。
まどかが向かいの鳳乱に視線で助けを求めると、彼は無言で頷いた。
「安心しろ。不利な条件は何も書いていない」
その一言がまどかの手を動かす。
ミケシュはタブレットを受け取り、パネルをタッチして次の契約書をスライドさせる。そうして全員サインし終わると、彼女は満面の笑みでそれを胸に抱えた。
「ご協力ありがとうございました。わあ、本当に助かった! 人増えて、これで助成金カットされなくて済むわ!」
「な、なんですか。助成金って」
有吉はミケシュのテンションが急に上がって、やや警戒しているようだ。
「あのね、バーシスって国から助成金もらっているのよ。で、ある一定員満たないとカットされるの。それも頭一つごとが結構大きくて。ああ、でもあなた達の御陰でノルマも達成! 神はゼルペンスだけじゃなく、バーシスも救ったのねぇ」
「おい、はしゃぎ過ぎだぞ」
獅子王はミケシュを嗜める。
「あら! 最近すっかり平和になって、ただでさえ人手不足気味なんですからね。もう少しあなた達が劇的な新薬を見つけるとか、資源豊富な星を見つけてくれるとか、なにか派手な活動していただかないと、人も来ないっつーの」
「なにいーっ!」
獅子王はミケシュに牙を剥いた。
「まあ、ミケシュ。これで仕事は終わったんだろう? もう上がってくれよ。ほら、残業代……」
鳳乱が火花を散らしている二人の間に入る。ミケシュは小さく「チッ」と舌を鳴らし、獅子王から鳳乱に目を向けた。
「あ、あと部屋に案内しろって言われているわ」
「それは鍵さえもらえば、獅子がやるから。どうせあっちに戻るんだし」
「えっ、オレかよ!」
ミケシュはにやりと笑い、「じゃあ、お願いするわ」と、スーツの胸ポケットから小さな円柱のスティックをいくつか出して鳳乱に渡した。そして今度はまどかを視線で指しながら、彼に少し顔を寄せた。
「ところで、この子があなたの『仔ウサギ』ちゃん?」
ミケシュの声は、もちろんまどかにも届いた。
「そこまで噂が飛んでるのか!? ここのセキュリティにはかなり問題があるんじゃないか」
彼女は人差し指を顔の前で振った。
「なに言ってるの。あなたが、このバーシスで一番セキュリティの弱いエステノレス長官に『彼女は自分の部屋に入れたい』って連絡したんじゃない。管理部まで来て言いふらしていったわよ。『あの鳳乱が女を囲う』ってね。まあ、長官の話なんて大抵五割増しだから、あんまり皆相手にしてないけど……それでも久々に色のある噂はやっぱり飛び回るわよねぇ……そう、この鳳乱がねぇ……」
そう言うって愉快そうにまどかを、まじまじと見た。
『鳳乱の部屋に住む?』
その最新の情報を、まどかはどう処理して良いかわからず、フリーズしていた。
「あ、そうそう、」
彼女は再び鳳乱に向き直る。
「スティックの説明も彼らにしておいてよ。ただの鍵だなんて思われたらたまったもんじゃないから。名前と部屋番号が記されてるし、部屋も整っているし、着替えも用意してあるわ。全く至れり尽くせりね。……では以上」
鳳乱は、大げさに敬礼をした彼女に微笑した。
「ごくろう。また何かあったら頼む」
「OK」
彼女はまどかたちにも軽く敬礼し、ヒールを響かせて出て行った。
それから、全員一致でバーシスに留まると決断した。鳳乱はすぐにその決定をパールホワイトの小さな機械で、長官に送信する。
これでやっと、長い一日が終了したのだった。
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