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第79話

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「なんか、上手く利用された気がしますね」
 港に到着してからの問答を聞いていたルーフェが不満そうに呟いた。
「まぁ、それも駆け引きの札の一枚だったし。それを分かった上でおっちゃんはああ言ったんだと思うよ?」
「ガテン系の脳みそ筋肉だと思っていましたが、そこは仮にも領主ということなんでしょうね」
 あの人だかりの中での取引、あれはリョウゾウ、ここの領主は世界を騒がす魔竜ヴリトラと友好を結び取引のできる存在であると交易に来ていた様々な国に見せつける意図が大きくあったんだと思う。俺はそれを承知の上で取引に応じた、おっちゃんにとっては少し痛い出費があったとしてもとてつもない後ろ盾を味方につけれる。これは領地を守るという意味でも計り知れないアドバンテージなんだろうね。俺が国相手に殴り込みしちゃってるから猶更ね。
「でも今回の目的は達成できるし、ここと仲良くしておけば海産物が入手できる。これは大事だよ」
「確かに港町は交易品が集まりやすいですから、珍しい物が見つかるかもしれませんけど~……」
「いや、海の食べ物が手に入るというのが大事なの!」
「あ、そっちですか」
「そっちです!」
 皆あんま意識してないみたいだけど、海の魚にエビ、カニ、イカ、タコ、カイそれに海藻。これだけでも食が大きく広がるのだ、今までの比ではないぞ! これを定期的に入手できる環境が作れたのだ、少しくらい利用されてあげても全然かまわないのだ。
「二人はほっといてもいろいろやってるだろうし、俺達も見て回ろうか。せっかく交易品が来てるみたいだしね」
「はい!」
 俺は人間の姿に戻り、出店を楽しむことにした。やっぱ視線はあるけど……
「うちは漁業が主な収入だがここら辺では唯一の港町、自然と貿易の窓口にもなるのです」
「それでこんなに露店が多いんだな」
 俺達が露店を見て回ると言ったらリョウゾウのおっちゃんがついて来てくれて、いろいろと案内や融通を利かせてくれている。おかげで大助かり!
「面白い本ですね。帝国ではなかなか見れなかった種類です」
 ルーフェって以外と博学なんだよなぁ、実は暇な時結構読書していたりしている。普段があれなのであまり目立たないけど……
「アズハさんこれに合うんじゃないですか?」
「これなんかアイナちゃんに良さそうだよ?」
 こっちの二人は女の子という感じで微笑ましい。アクセサリーなどいろいろ見て楽しそうだ。
「欲しかったら買っていいよ。おっちゃんが全部立て替えてくれるから!」
「はっはっは、まぁいい物貰ったしな。任せてくれ!」
 さすがおっちゃん、太っ腹だ。
「それならアズハさん、他の物も見てみましょうよ! お土産もいっぱい買わなきゃ!」
「そうだね! ちょっと見てくる~」
「気を付けてね」
「ところで、ヴリトラ殿」
「ん?」
 おっちゃんの雰囲気は急に真剣になった気がする空気間が気のいいおっちゃんから領主、責任者の顔に変わったのだ。
「よければなのですが。剣や弓、防具などを買うことはできますかな?」
「できなくはない、と答えましょう」
 実際今回は漁具などをメインにわざと武具は持ってこなかった。世間では俺達が普段使ってる素材や道具は希少品ということもあるが、なにより加工が難しいのだ。帝国屈指と言われたガンプでさえいまだに毎日研究を続けている段階で俺の鱗を使った武具はとてもじゃないが量産できる状態ではないらしい。
「実は交易と漁業が盛んな海、ということは悪いことを考える輩も当然いるわけでして」
「そいつらと戦うために強い武器が欲しいと?」
「はい、正直今回頂いた品物も漁具兼用にしようと思うほどで」
 実は今日提供した道具は鱗の濃度を下げて加工しやすくした完全量産型を想定した品物で一般の鉄製品よりも遥かに丈夫ではあるがそれでもミスリルやアダマンタイトなど上級鉱物には劣るとのことだった。正直詳しくはわかんないから十分だと思う。ガンプ達は納得してないんだけど……
「あのぐらいの品であれば数を用意できます。ですがあれ以上となると話は別ですね、あと防具の方は盾はありますけど防具は完全なオーダーメイド量産は無理かと」
「十分です、こっちとしても優秀な兵士達を失いたくない。できることは何でもしてやりたいのです」
 おっちゃん、いい領主なんだろうな。ちゃんと民を見ている、権力を振り回す馬鹿ではないらしい。
「次ここに来る時、用意いたしましょう」
「ありがとうございます! この恩は必ずお返しいたします」
「いいさ、おっちゃんはいい人みたいだし。長生きして欲しいからね」
 そう言って二人で笑いあった。こういう関係が築ける場所が増えたらいいな、ちょっとめんどくさいけど価値はあると思う。
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