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第67話

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 雪もすっかり溶けてなくなり、暖かくなってきた。そろそろ春が来るのかな?
「主様、おはようございます」
「おはようございます」
「イリオ、グレース。おはよ、新しい家はどう?」
「文句なしです! こんなにも早く作っていただき感謝しかないです!」
 セナ達に頼んで冬の間ではあったが二人の家を作ってもらった。元々区画整理をしようと話していたのでその一環でもあったのだ。二年暮らしていたらいつの間にか家族も増えてすっかり大所帯になってしまった。もう村とか言った方がいいのかな?
「ここの方々は皆さん強くていい励みになりますね! 次はあんな冒険者風情一人で捌いて見せましょう!」
「全部が全部ああいう人達ばかりでないことはわかっているのですが、人間至上主義の国々は他種族を奴隷として買いますし珍しい種族を集めて見世物にするコレクターのような輩も居ますから大変でしたね」
 なんと言うかここに来る人達は皆住処に困ったりそういう輩に追われたりホント苦労してるんだよなぁ。俺も今年だけで国二つに殴り込んだし……
「部族の仲間が生き残っていれば魔王国に合流することもできたんですけどね……」
「二人じゃ無理だったの?」
「無理ではないですが、そういう場合軍属に加入か別の集落や部族に合流という形になります。合流する場合よそ者はその部族の下に付くという感じでやはり扱いは良くないんですよね……」
「いざという時真っ先に切り捨てられますし。多種族国家と言ってもいろいろ問題があるのです、それでも私達が住みやすい領土ではあるんですけどね」
 イリオはジェネラルというだけあって頭が良い。軍属として立ち回りは上手くできたのだろうが、それを回避したい理由があったのはなんとなくわかる。なにせ無理をしてここに来たんだから。
「主様もなかなかの切れ者ですね」
 あ、考えてること読まれた……
「魔王領は今東と西に戦線を抱えております。シャジャル帝国とアレクロン王国です、主様がこの国に大打撃を与えた結果魔王領の窮地は自動的に脱しました。なにせ懸案事項であった帝国の最強戦力の消失、王国は主力の魔獣軍団の全滅と王宮近衛の半壊などが勝手に解消されたのです、今は安全に時間が稼げている勝負の時間なのです」
 全部俺が殴り込んだ結果でした。今は、安全か……そう言えば勇者召喚したんだっけか。
「そうです!」
 だから考えを読まないでいただきたい。
「現在は両国とも勇者の訓練や経験を積ませて修行させている段階です。しかしいずれあれは最強戦力として投入されてくるでしょう、それを考えると軍に加入はリスクが大きかったのです」
「それでうちに来たの?」
「そうです! 主様は敵対者には容赦の一切無い最悪の魔竜。ですがその反面私達みたいな種族にも好意的で必要があれば手を伸ばしてくれる慈愛の守護竜としての一面を持っておられます。私達はそこに賭けようと思ったのです!」
 で、見事に賭けに勝ったのね。策士の考えは難しくてわからないことも多いけど、こういうこともするのね。まぁ俺も助けたことに後悔はないし歓迎もしている。そして俺は、家族のためなら一切の容赦はしない。今後手を出そうとか考えてる奴らは倍返しで済むと思わないことだな。
「ところで主様、今日はなんだか皆さん集まっていますけど何かするんですか?」
 そう、今俺達は中央の広場にテーブルや椅子を並べて住人総出で集まってきているのだ。まだ冬眠中の子達は起きてから改めてということで。
「ん~無事に冬を越えて春がやってきましたということでちょっと宴会でもやろうかなってね。二人も来るでしょ?」
「もちろんです!」
「主! 食事の準備は万全だ!」
「おっと酒の方も今日はたくさん用意してるぜ!」
 せっかくだからと寝かせていたワインも一樽解放して飲んでみようということになっている。まぁ新年会みたいなものかな? 今年も皆で無事に過ごせました! 来年も一年全員で乗り切るぞ! というお祭り? みたいなものだ。
「じゃあ改めて、誰一人欠けることなく無事に冬も乗り越えた! 来年も更なる繁栄を目指して頑張って行こう。乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
 こうして大宴会は始まった。皆お酒を飲んでガレオン特製料理の数々を楽しみながら!
「思ってたよりもいい味だ」
「ワインは成功ですね」
「桃の方も甘くて飲みやすいです~」
「飲み過ぎないでよ?」
「大丈夫~」
 こうやってみるとホントたくさんの人達が集まった。皆楽しそうに笑ってくれているのは嬉しい限りだしこれが何時までも続けばいい。たぶん俺の寿命は人のそれより遥かに長くなっているだろうし、人間らしい感情も少し欠落している自覚もある。それでも俺を慕って集まったこの家族達が幸せに死ねるまで全力でこの力を振るっていこう。誰が相手でも!
「ご主人様には私達がついているのですあまり一人で抱え込まないでくださいね」
「私もタカトと一緒に頑張るよ! 任せて!」
 いつの間にか俺の両隣にアズハとルーフェが座っていた。何か考えてたのを察したのかな、さすがと言うかなんというか……俺の最愛の人は一人にならないようにずっと寄り添ってくれる。これがこんなにも幸せなことだなんて地球に居た頃じゃ考えもしなかった。この優しさに触れてしまったらもう元には戻れない、こんなに心強いことはないのだから。
「ありがとな、これからも頼りにするし一緒に居たい。なんというか、よろしく頼む」
「うん!」
「お任せください!」
「あ~る~じ~さ~ま~!」
 いい感じに〆ようと思ったら酔ったホロンが後ろから抱き着いてきた。
「ホロン、お前酔ってるでしょ?」
「そんなぁ、ことないれすぉ! み~んな、主様ぁのこと大好きぃ、なんれふぉ? だ~か~ら~」
 このダルがらみはまぁいい、てか胸部装甲の感触が素晴らし過ぎて何話してたか飛んでしまった……
「はぁやく~子供がぁ欲しいれすぅ~」
 口に含んだワインを盛大に吹き出し思いっきり咽てしまった……何言ってんのこの娘はっ!
「だぁ~かぁら~主様はそっちを~メインにぃ、がぁんばってくらさいねぇ~ちゅ~」
「ちょ!?」
 ホロンはひとしきりそう言うと俺の頬にキスをしてギュっと抱きしめてきた。たぶんルーフェやアズハも同じことは考えているんだとは思う、黙ってお酒を飲んでいるが顔がやけに赤く見えたから。
「あ~ホロンず~る~い~! わたしもぉ!」
 あ、このパターンはまずい……結構度数高いの飲んでたせいか皆テンションがヤバい!
「善処するから、もう少し待っててね」
 ホロンの頭を撫でながら、そう呟く。たぶん表に出さないだけで期待している人や希望している人はそれなりに居るんだろうな……そういうことの結果がどうあれ皆が幸せに暮らせる場所を作る、それが今の俺の目標なんだ。いろいろな面倒事もたくさん来るだろうけど全部踏み倒して来年も皆で乗り切ろうと心に誓う宴会のひとときだった。
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