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1 最凶の悪役令嬢(1)
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この世界はフィクション――、物語の世界である。
物語の世界にはほとんど必ず、中心人物、いわゆる主人公と呼ばれる存在がいる。
私はそれがセイヴィ・ジョウソンだと知っている。
よく晴れた夏のある日、私はいつものようにセーヴィ・ジョウソン――セージョを庭の花壇へと蹴り飛ばした。
花壇に落ちて泥まみれになるセージョ。
その姿はまるで、土遊びをしている無邪気で愛くるしい妖精のよう。
「なんでこんなことするの、ザナ!」
セージョは小さな口を尖らせて私に言った。
周囲を囲む、私の取り巻き達が笑う。
「いい気味ね、セージョ。十五年間ずっと貧乏孤児院で生まれ育ったあなたみたいな女には、フランコア様はふさわしくないのよ!」
私は少し説明口調で言った。
その時、セージョは自分の可愛らしいお尻の下敷きになった百合達に気付き、途端顔を青ざめさせた。
「ああっ……、なんてこと。私のせいで、百合達が……」
涙目になって茎が折れた百合達をそっとなでるセージョ。
私はもらい泣きしそうになってしまい、くるっと一回転してごまかした。
「全部あなたのせいよ! これに懲りたらフランコア様には二度と近づかないことね!」
つかつかとセージョの元を離れ、渡り廊下へと戻っていく私。
そこへ、貴族の服を着た爽やかな顔立ちの青年、噂のフランコア某が廊下の奥からやってきた。花壇で泥まみれになっているセージョを見つけ、彼は険しい顔を始める。
「セージョ! なんだってそんな泥まみれに――」
百合の手入れを始めたセージョに、急いで駆け寄ろうとするフランコア。
(ちっ……、フラグを立てる気か)
私は走って来た彼のみぞおちを思い切り殴った。
その場でうずくまるフランコア。
彼の後頭部をヒールで踏みつける私。
がふっ、と太った醜悪な豚のような鳴き声でフランコアは鳴いた。
「……悪いわね。でも別に、あなたは悪くないのよ。ヒーローに選ばれてしまった生まれの不幸を呪いなさい」
私はその豚を見下ろしながら言った。
私が足を地面に下ろした時、取り巻き達が麻袋とロープを取り出し、麻袋を彼の頭にかぶせて腕を後ろ手に縛った。
わめくフランコア。取り巻きの一人が彼を黙らせるために腹を蹴り上げる。
「ちょっと。あまりひどいことはおよしなさい。神聖な廊下が血で汚れるわ」
「申し訳ありません、ザナイド様!」
取り巻きの下僕が私に頭を垂れる。
「処分の方法はあなた達に任せるわ。ただし、身元がわからなくなるまで確実に遺体をバラバラにすること」
「焼いてもよろしいですか?」
「焼くくらいなら犬の餌にでもなさい。環境に悪いわ」
「わかりました。お言葉のままに……」
下僕達が麻袋をかぶせたフランコアを引きずって、学園の焼却炉の方へと連れて行った。
(やれやれ……、廊下を汚すなって言ったのに……。これじゃあ、まるで犯行現場じゃない)
目線を下に移すと、廊下の床にはフランコアの血痕が、くっきりと残ってしまっていた。
物語の世界にはほとんど必ず、中心人物、いわゆる主人公と呼ばれる存在がいる。
私はそれがセイヴィ・ジョウソンだと知っている。
よく晴れた夏のある日、私はいつものようにセーヴィ・ジョウソン――セージョを庭の花壇へと蹴り飛ばした。
花壇に落ちて泥まみれになるセージョ。
その姿はまるで、土遊びをしている無邪気で愛くるしい妖精のよう。
「なんでこんなことするの、ザナ!」
セージョは小さな口を尖らせて私に言った。
周囲を囲む、私の取り巻き達が笑う。
「いい気味ね、セージョ。十五年間ずっと貧乏孤児院で生まれ育ったあなたみたいな女には、フランコア様はふさわしくないのよ!」
私は少し説明口調で言った。
その時、セージョは自分の可愛らしいお尻の下敷きになった百合達に気付き、途端顔を青ざめさせた。
「ああっ……、なんてこと。私のせいで、百合達が……」
涙目になって茎が折れた百合達をそっとなでるセージョ。
私はもらい泣きしそうになってしまい、くるっと一回転してごまかした。
「全部あなたのせいよ! これに懲りたらフランコア様には二度と近づかないことね!」
つかつかとセージョの元を離れ、渡り廊下へと戻っていく私。
そこへ、貴族の服を着た爽やかな顔立ちの青年、噂のフランコア某が廊下の奥からやってきた。花壇で泥まみれになっているセージョを見つけ、彼は険しい顔を始める。
「セージョ! なんだってそんな泥まみれに――」
百合の手入れを始めたセージョに、急いで駆け寄ろうとするフランコア。
(ちっ……、フラグを立てる気か)
私は走って来た彼のみぞおちを思い切り殴った。
その場でうずくまるフランコア。
彼の後頭部をヒールで踏みつける私。
がふっ、と太った醜悪な豚のような鳴き声でフランコアは鳴いた。
「……悪いわね。でも別に、あなたは悪くないのよ。ヒーローに選ばれてしまった生まれの不幸を呪いなさい」
私はその豚を見下ろしながら言った。
私が足を地面に下ろした時、取り巻き達が麻袋とロープを取り出し、麻袋を彼の頭にかぶせて腕を後ろ手に縛った。
わめくフランコア。取り巻きの一人が彼を黙らせるために腹を蹴り上げる。
「ちょっと。あまりひどいことはおよしなさい。神聖な廊下が血で汚れるわ」
「申し訳ありません、ザナイド様!」
取り巻きの下僕が私に頭を垂れる。
「処分の方法はあなた達に任せるわ。ただし、身元がわからなくなるまで確実に遺体をバラバラにすること」
「焼いてもよろしいですか?」
「焼くくらいなら犬の餌にでもなさい。環境に悪いわ」
「わかりました。お言葉のままに……」
下僕達が麻袋をかぶせたフランコアを引きずって、学園の焼却炉の方へと連れて行った。
(やれやれ……、廊下を汚すなって言ったのに……。これじゃあ、まるで犯行現場じゃない)
目線を下に移すと、廊下の床にはフランコアの血痕が、くっきりと残ってしまっていた。
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