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5.Next day. -翌日-
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しおりを挟む夏の陽射しは殺人級に暑い。
俺がここに住む決め手となったともいえる、ロフト空間は特にモロに浴びるものだ。
ベッドに寝転がるとちょうど頭上に小さな窓が開いていて、夜の間はたとえそれが熱風であろうと微かな涼を送り込んでくれる。
時折騒音や近所の住人達の騒ぎ声という要らないオプションもついてくるけれど。
微々たるものだとしても小さな幸福を運んできてくれるはずのそれが、今は「起きろ」と暴力的に叫んでいる気さえした。
「……クソあっちい……」
胸元を掴んでTシャツの内部に空気を送りながら起き上がると、ベッドの上で胡坐をかく。
頭から首筋、胸元へと汗が流れ落ちていって気持ちが悪い。そろそろエアコンを稼働させないと、節約の前に脱水しそうだ。
いくら金がないと言って我慢にも限界ってもんがある。倒れて入院にでもなったらそれこそ金がかかるだろう。
節約したいのも本音だけど、1日くらいエアコンつけてやればよかったなと思う。
「俺先下りるわ。お前も……」
隣にいるそいつに話しかけながら、俺は自分の右側のシーツを撫でた。
「……は?」
そこにあったはずのぬくもりが消えている。しわくちゃになったそこは、残像のようにヒトの形によれていた。
しかも、俺の寝ていたところのような汗の跡はひとつもない。
撫でてみてもさらさらとしていて、人が眠っていた痕跡を見つけることが出来なかった。夜中に髪を撫でた記憶があるから居たことに違いはないはずなのに、まるで最初から誰もいなかったみたいな奇妙さがあった。
そんなわけないと首を振りながら、自分に言い聞かせるよう呟く。
「……おい?莉依子?」
先に起きてんのかな、あいつ。
むちゃくちゃ早起きしてたとか。
暑さと寝起きで頭がまとまらないせいだと首筋を掻きながらロフトを下り、部屋を見渡す。
いない。
おまけによくよく見ると、リビングの隅に置いてあったバッグもない。まぁあれから取り出すのは着替えくらいで、化粧道具の一つも持ってなかったみたいだけど。
初日に持った時のあまりの軽さに驚いたくらいだ。たぶん―――いや確実に、ツルの方が身だしなみを整える用具を常に持ち歩いている。
あれで高校生っていうんだからおかしいよな。
最初から3日間って約束だったんだし、帰ったんだろ。あれだけ人を振り回しといて別れの挨拶とか礼とかしていかないのはムカつくけど。
でも改めておばさんから礼の電話でも来たら一体どう反応したら………
ん?
あいつのおばさんって、どんな人だったっけ?
首を傾げながら洗面所へ向かい、とりあえず顔を洗う。
耳の上チェック。よし、今日はそこまで癖がついていない。少し濡らすだけで大丈夫だろう。
タオルで拭きながらキッチンへ入ると冷蔵庫を開け、麦茶を1杯。そしてリビングへ向かう途中、気付いた。
「光ってる?……何だ?」
テーブルの上に、何か乗っている。
近付いて手に取ってみると、赤色……赤、というよりももっと深い、例えるなら真紅のような色がくすんだ革製のモノ。
それがぐるっと1周しているのだけれど繋ぎ合う部分であるベルトの金具が外れている。
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