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僕だけが視える世界

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「こんなの、“普通”の絵じゃない」

僕は幼い頃から、絵を描くのが好きだった。
そんな僕が描いた絵を初めて見た母親はこう言った。僕が色覚異常という病気に気がついたのはそれがきっかけで、物心着いてまもない幼稚園の頃であった。

病院の検査で分かったことは、僕が一色型色覚であるということだった。ほとんどの色が識別できないという極めて稀なケースらしい。
両親は嘆いた。何故この子がこんな目に、私達の目には何も異常はないのにと。

でも僕は、僕にとってはこの世界の色が全てで、この色しか見たことがなかったから、この目が異常なんて思わなかったし、特に気にはならなかった。でも、僕が小学校に通い始め、集団での生活が始まると、世間は、僕を異常者扱いした。そこで、僕は、普通の人の枠組みから外され、この世の中で、僕は普通の生活は遅れないように出来ているということを理解した。
中学校、高校と進学してもそれは変わらず、僕は、この障害を持っていることが初めて嫌になった。普通に生まれ、普通の生活がしたいと思った。そう思うようになってからは、僕は他人の目を伺いながら過ごすようになってしまった。人との関わりを絶ち、僕は勉学に集中した。そんな孤独な日々を送っていたある日のこと、僕は両親と些細なことで喧嘩して家出した。これは、思うようにいかないことを両親への当てつけとしての家出だった。

リョックに食べ物やお金、日用品、レジャーシートなどを詰め込んで公園に行った。

公園には誰もおらず、一人で土管の中に入った。日が暮れ、街灯の明かりが灯る頃、いきなり声が聞こえた。

「あなたも独りなの?」

土管の中を覗き込んでいる謎の女性が僕に聞いた。その声に驚き、僕は何も言えずにいた。

「そこで何してるの?」

「別に何も、、」

女性は僕と同じくらいか、それより歳上に見えた。

彼女は、土管の中に入ろうとした。

「なんでここにいるの?」

「家出した」

「ふーん」

「何?」

「いや、何も」

彼女は僕の横に座り、俯いていた。

「あなた、私と同じだね」

「君も家出なの?」

「そうじゃなくて、、同じ人間だってことよ」

「同じ人間?僕は他人とは違うよ」

「だからよ」

僕は彼女の言っていることがいまいちよく分からず首を傾げたが、彼女は僕の様子など気にせず続けた。

「君と私は、今から運命共同体よ。いい?」

「え?」

「あなたと私は、これから行動を共にするの。こっちへ来て」

僕は彼女の言われるままについて行った。怪しさは全開だったが、特に行くあてもないし、孤独な心を癒す気分転換になると思った。彼女の背中を一点に見つめ、ついて行く。視界が全て彼女の背中で覆われるくらいに近くなった時、彼女は急に足取りを止めて、彼女の背中にぶつかった。

周りを見渡すと、色鮮やかなどこか分からない異空間に来ていた。初めて見る色という色が混じり合い、ぐるぐると回る。それを見ていると頭が痛くなったので、彼女を見つめることにした。

ぼやけた視界に彼女が映った。彼女は何やら、口を開き、誰かと話しているようだった。僕以外の誰かに。

そして、いきなり大きな光が僕を包み込んだ。その光はよく見ると、いくつかあり、僕は歯医者さんを思い出した。光とともに、鼠色の人型の物体が何体も現れて、僕をのぞき込む。その物体たちは何やら超音波を発し、会話していた。僕の目をそいつらがいじって、違和感がして、おかしくなりそうだった。意識は朦朧として、痛みなどの感覚は無かった。僕は、そいつらに殺されると思っていた。しかし気がつくといつの間にか、家の自室で僕は寝ていた。

変わったことといえば、色が見えるようになったことだ。

その時、僕にしか視えなかった世界は終わった。あの時の経験は、僕以外に誰も見たことがないだろう。でも、僕はこれを隠すべきだと思った。でないと、殺されるとと思ったからだ。彼女は宇宙人だったのだろうか。一つだけわかることは、彼女は勘違いをしていたことだ。彼女は僕と同じだと言った。でも、僕と彼女は違った。僕は特別な存在だった。でもそれ以上に彼女は特別な存在だったのだ。そんな特別な彼女は僕の願いを叶えた。普通の人間にしてくれたのだ。

でも、僕は失ってしまってから気づいた。僕の色覚障害という欠点も、僕を作る重要なものであり、僕の個性だったということを。僕にしか見えない特別な世界があったということを忘れていた。

僕は、自分が空っぽになってしまったような気がした。
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