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第4話 美味しい設定は水面下に(2)

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レイモンド・リデルはしばらく押し黙った後、顎に手を当てて何かを考えるような素振りを見せた。

いやー。しかし脚長いな。


「俺が血を吸いすぎたせいでお前は倒れてしまった。俺に関しての記憶がないのは、そのショック症状のせいかもしれないな」


この世界はゲームの世界(しかも私の妄想の世界(?))で、設定上私は貴方の顔を知らない、なんて言うわけにもいかない。

私は甘んじてその考察に便乗することにした。


「そ、そもそも!どうして血を吸ったんですか!」


「‥いや、まさかドアが開くとは思わなくて」


「そう!それ!貴方、どうして私がドアノブを回した途端に噛み付いたんですか!ずっと待機してたんですか?!」


あるわけがなかった未来。
まるで冒険をしているかのような異様な高揚感に満たされいるのは気のせいだろうか。
まぁどうせ私は一度死んでいるのだから、やっぱり怖いもの無し精神も少しは加担しているんだろうな。

でも私がこんな呑気にこの新しいストーリーを楽しもうとしているのは、レイモンド・リデルがそこまで悪人に見えないから、というのも大きな理由のひとつかもしれない。


「レイでいい」


な、なんと‥


「レ、レイ。答えてください」


ちゃっかり直ぐにレイと呼ぶ私。ええ、楽しんでます。


「‥‥俺がそもそもお前を誘拐したのは、聖なる力が必要だったからだ」


「聖なる力‥?レイは闇の騎士なのに?」


「‥あぁ。俺は、闇に染まりかけていたんだ。闇に完全に染まると、自我をなくして、ただの化け物になる」



ここで私の脳内はあからさまに閃いた。
自我をなくした闇の化け物。


そう、いたのよ。
今までのストーリーに、必ず登場していた悍ましい化け物が。
人間の姿とは言えない、まるで龍のようなドス黒い化け物。


「‥‥聖なる力っていうのは、つまり私の血だったっていうわけ?」


「血でなくても良い。体液ならば、なんでも」


うわぉ、刺激強め。


「そ、そうなの‥
でも、なんで私だったの?修道女は他にもいるじゃない」


「闇に生きる者にとって、聖なる地に赴くこと自体がかなりの負担になる。そのうえ、俺はもういつ自我を失ってもおかしくない程ギリギリだった。だから一番近くにいたお前を誘拐したんだ。そのお前がまさか聖女だったとは驚いたがな」


修道女は聖に生きる女性を指すんだけど、白魔法は使えない。
私は白魔法で結界を張ったから、ただの修道女ではなく聖女だとバレてしまったんだろう。


「へぇ‥‥」


「聖なる力をその身に入れる行為は、闇の者にとって本来タブーなんだ。闇の王に忠誠を誓ってないのと同じだからな。だから、屋敷に戻ってから頂こうとしたら結界を張られたんだ」


ほう‥


そして、本来のストーリーであれば私はそのまま勇者に救われる。
レイは聖なる力を手に入れられなくて、自我を失った化け物としてあとあと登場してくるってわけね。

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