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第8話
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カルマート家には、先代達が残していった魔法道具や、魔法がかけられた家具などが沢山ある。
廊下に飾られた花の絵画は、話しかけてあげないと萎れてしまうし、リビングにある大きな時計は、綺麗に磨いてあげないとヘソを曲げて正しい時間を教えてくれない。
白い猫のぬいぐるみは、私のことが大好きらしく、こうして窓を鳴らして「帰ってこい」とせがむ。
祖先の品は他人に渡してはならない、
祖先の品を手続き無しに捨ててはならない、
これは数多くある魔法使いの掟のうちの2つだ。
手続きというのは、魔法省という国の機関での申告のことを言うらしいけど、これがまた結構なお金がかかるそうで‥
一般的な魔法使い家系は、定期的に要らないものを処分できるけど、カルマート家はそんな余裕がなくて、いつまでも祖先の品が溢れている。
もちろん中には便利な魔法道具や家具もあるけど、そのお世話なんかは正直とても大変だ。
その証拠にほら。
私がいつも着ている黒のワンピース。そのワンピースについた、カンガルーの袋のようなポケットの中には、いつも手鏡が入ってる。
机の引き出しに入れても、クローゼットの奥にテープで貼り付けても、気付けばポケットに入ってる。
おかげで毎日、割れたらどうしようとハラハラしてしまう。
祖先の品を壊してはならない、
これも、掟の1つだから。
魔法使いの掟を破ると、命を削られるらしい。実際に破ってる人を見たことがないから、本当かどうかなんてわからないけど。
でも、やっぱり怖いもの。
出来ればポケットから出てもらいたい。不意にぶつかって壊れたりしたら、私はそんな些細なことで死んでしまうかもしれないんだから。
「じゃあそろそろ帰るね。
猫放っておくといじけちゃうから」
「うん、おやすみ。マレ」
「おやすみ、エド」
手を振り、お互い背を向けてそれぞれの家へと帰る。
ああ、今日も楽しかった。
エドもいつか結婚してしまう。そうしたら、このお喋りの時間も終わってしまう。この楽しい時間は、永遠に続くものではないのだ。
私なんかは、いつまでも結婚出来ずにいるだろうけど‥
家に帰り、階段を上がる。
部屋に戻ると、白い猫が飛びついてきた。
「ただいま、猫」
ぬいぐるみのくせに、やたらと本物の猫っぽく動き回るけど、さすがに声は出さない。フェルトのような質感の猫のぬいぐるみは、今日も私にベッタリだ。
名前を付けようと思ったこともあったけど、この猫が一体何百年前からカルマート家にいるかわからないし、祖先の誰かがこの猫を名前で呼んでたかもしれない。
名前が何個もあっても猫が困るだろうから、結局「猫」と呼んでいる。
黒いフード付きのマントを外し、ワンピースも脱ぐ。
ベッドに寝っ転がった私は、今日のこの濃い1日を振り返っていた。
領主の息子のリュウという男、
レベッカがしてしまった不躾な行い、
帰ってきたエド、
いつもただひっそりと過ごしていた私にとって、今日1日の濃さはあまりにも新鮮だった。
それでも、ひっそりとただ暮らす中でも、その生活は私にとってなくてはならないもの。家族や、幼馴染のエド、私たちを嫌うこの国も、このロストリア領も、私にとってはかけがえのないもの。
お願いだから、何もありませんように。
リュウという男が、今日のことを許してくれますように。
ただ心から、願って目を閉じる。
ーーーーーーーーーーーーー
アマービレにより机に置かれた手鏡は、目を瞑るアマービレの周りを、踊るようにしてくるくると舞う。
まるで、これから起こる出来事を嘲笑うかのように‥。
廊下に飾られた花の絵画は、話しかけてあげないと萎れてしまうし、リビングにある大きな時計は、綺麗に磨いてあげないとヘソを曲げて正しい時間を教えてくれない。
白い猫のぬいぐるみは、私のことが大好きらしく、こうして窓を鳴らして「帰ってこい」とせがむ。
祖先の品は他人に渡してはならない、
祖先の品を手続き無しに捨ててはならない、
これは数多くある魔法使いの掟のうちの2つだ。
手続きというのは、魔法省という国の機関での申告のことを言うらしいけど、これがまた結構なお金がかかるそうで‥
一般的な魔法使い家系は、定期的に要らないものを処分できるけど、カルマート家はそんな余裕がなくて、いつまでも祖先の品が溢れている。
もちろん中には便利な魔法道具や家具もあるけど、そのお世話なんかは正直とても大変だ。
その証拠にほら。
私がいつも着ている黒のワンピース。そのワンピースについた、カンガルーの袋のようなポケットの中には、いつも手鏡が入ってる。
机の引き出しに入れても、クローゼットの奥にテープで貼り付けても、気付けばポケットに入ってる。
おかげで毎日、割れたらどうしようとハラハラしてしまう。
祖先の品を壊してはならない、
これも、掟の1つだから。
魔法使いの掟を破ると、命を削られるらしい。実際に破ってる人を見たことがないから、本当かどうかなんてわからないけど。
でも、やっぱり怖いもの。
出来ればポケットから出てもらいたい。不意にぶつかって壊れたりしたら、私はそんな些細なことで死んでしまうかもしれないんだから。
「じゃあそろそろ帰るね。
猫放っておくといじけちゃうから」
「うん、おやすみ。マレ」
「おやすみ、エド」
手を振り、お互い背を向けてそれぞれの家へと帰る。
ああ、今日も楽しかった。
エドもいつか結婚してしまう。そうしたら、このお喋りの時間も終わってしまう。この楽しい時間は、永遠に続くものではないのだ。
私なんかは、いつまでも結婚出来ずにいるだろうけど‥
家に帰り、階段を上がる。
部屋に戻ると、白い猫が飛びついてきた。
「ただいま、猫」
ぬいぐるみのくせに、やたらと本物の猫っぽく動き回るけど、さすがに声は出さない。フェルトのような質感の猫のぬいぐるみは、今日も私にベッタリだ。
名前を付けようと思ったこともあったけど、この猫が一体何百年前からカルマート家にいるかわからないし、祖先の誰かがこの猫を名前で呼んでたかもしれない。
名前が何個もあっても猫が困るだろうから、結局「猫」と呼んでいる。
黒いフード付きのマントを外し、ワンピースも脱ぐ。
ベッドに寝っ転がった私は、今日のこの濃い1日を振り返っていた。
領主の息子のリュウという男、
レベッカがしてしまった不躾な行い、
帰ってきたエド、
いつもただひっそりと過ごしていた私にとって、今日1日の濃さはあまりにも新鮮だった。
それでも、ひっそりとただ暮らす中でも、その生活は私にとってなくてはならないもの。家族や、幼馴染のエド、私たちを嫌うこの国も、このロストリア領も、私にとってはかけがえのないもの。
お願いだから、何もありませんように。
リュウという男が、今日のことを許してくれますように。
ただ心から、願って目を閉じる。
ーーーーーーーーーーーーー
アマービレにより机に置かれた手鏡は、目を瞑るアマービレの周りを、踊るようにしてくるくると舞う。
まるで、これから起こる出来事を嘲笑うかのように‥。
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