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第2章 モフモフへの使命
20 カーバンクル
しおりを挟む猩々には玉の中に戻ってもらった。
猩々自身が『早ク休マセロ』と煩かったからだ。
「つまり、ウォングバッドは偽召喚士‥
ナターシャが死んだ時、召喚士の力はカラーに継がれていたんだよ。ウォングバッドの力は、亡くなったナターシャの瞳に依存したものなんだ‥!!」
「‥‥そんなこと急に言われてもなぁ」
私が召喚士だったのか!と納得できるものでもないし、正直なにも信じられない。
だって召喚士の力があれば、サイハテの地まで逃げなくたってウォングバッドを殺せたんじゃないの?
瞳を抉られる時もそう。対抗できたと思うんだけど。
「あ、そうだ。
カラー、体調に異変はない?」
ブラウンが唐突に質問してきた。
私は首を傾げてから頷く。
「なんともないけど?なんで?」
「昔オッドさんが言ってたからさ。
魔法を使うのと同じで、召喚士が召喚獣を呼ぶと魔力を急激に消費しちゃうんだって」
「ふぅん?
‥オッドさん何でそんなこと知ってんだろうね」
「さぁね‥
もしかすると、ナターシャと近い人だったのかもよ」
「‥‥ていうか、私クライテリアで魔力計測不可能なんだよ。魔力ないんだと思ってたんだけど違うのかな?」
私はZ地区で生まれ育った、親を知らない子ども。守るものも何もなくて、好きなように生きるだけでいいと思ってた。
もし本当にナターシャが母なら。
この国を治めるウォングバッドが母の目を抉った仇なら‥そして、オッドさんがただただ親身なおじさんではなく、母と所縁のある人だったとしたら。
背負いきれないほどの想いが自分の肩に突然のし掛かってきたような気がして、私は話題を変えたかった。
仮に猩々とブラウンの話を信じるとして、今その話の全てを真っ向からは受け止めきれない。
「通常の魔力と召喚で使う魔力は質が違うんじゃないのかな」
ブラウンが顎に手を当てて言った。
なるほどね。質が違う、か。
「‥ちょっとだけ1人になってもいい?
アキは自主練ってことで木登り宜しく」
「わ、わかった」
ブラウンもアキも、私の気持ちを汲んでくれたようで、すんなりと送り出してくれた。
1人山道を歩きながら、黙々と考え続ける。
私が召喚士だとして、それを主張して信じる人はいるのかな。‥いや、それは人前で召喚獣を出せば信じてもらえるか。
‥でも信じてもらったとして、その後はどうするの?ウォングバッドは母の仇だし偽物なので死んでくださいって?私が代わりにこの国の召喚士になりますって?
え、無理じゃない?
私が王様に並ぶ存在?
山の中でしか生きてこなかった私が?
「今のままの方がいいよ‥」
そう、断然。今のままの方がいい。
‥オリオンの計画もウォングバッドの死を狙うものだけど、私がその後国の召喚士として生きていくってことになるの‥?
俯きがちに歩みを進めていくと、またもや耳鳴りに襲われた。
「またこれ‥」
ここら辺は、昨日の夜狩をしようとして通った所。そういえば昨夜も確かに耳鳴りが起こった。
「なんなのこれ‥
ここを通ると鳴る仕組みなの?」
そんなバカな話あるかっと心の中で自分にツッコミを入れたんだけど、ここでひとつ思い出してしまった。
猩々と出会った時も耳鳴りがあったんだよね。
「‥はぁ、勘弁してよね」
そう悪態をつきながらも、目はあの石碑のようなものを探している。
こんな時でさえ好奇心だけは旺盛なんだから困ったもんだ。
「あ‥」
耳鳴りがより一層強くなったのと同時、それは視界に入ってしまった。
茂みの中に隠れるように置かれた石碑。猩々のところにあった石碑と違い、真ん中の窪みには既に緑の玉がはめ込まれている。
「今度は緑色なのか‥」
耳も、脳も。壊れてしまいそうなほどに耳鳴りが酷い。だけどまるでその石が私を求めているかのような気がして、私は虚ろな瞳のままその石を手に取った。その途端に耳鳴りはピタッと消えてしまった。
「‥簡単に外れるもんなんだな」
手のひらに収まる石。今度は緑のけむくじゃらな猿なのかな。
あれ?なんだろう‥。同じ言葉が何度も繰り返し心の中に響いている。
私は、無意識でその言葉を口にした。
「‥カーバンクル」
途端に石から白い霧のようなものが現れた。霧の合間から見えるのは緑がかったふさふさの体毛。
『‥きゅ』
「え」
金と緑が合わさったようなもふもふの毛。リスに似たその小動物の額には、真っ赤な宝石のような美しい石がくっついている。
「‥カーバンクルって君の名前?」
『きゅ!』
私の全身の毛が逆立って、心臓がドクンと跳ねたような気がした。黒目だらけのまん丸い瞳が私を射抜く度に、心臓は陽気に跳ね続ける。
人生で初めて『萌え』という感覚を抱いた瞬間だった。
「‥な、なに‥
可愛すぎるんだけど‥どうしよう」
さっきまで心があんなに曇っていたのに。
カーバンクルを目にした途端、一瞬で心は活力に満たされてしまった。
「さ、触ってもいい?!」
私が右に首を傾げると、カーバンクルも私を見つめたまま首をコテンと右に傾げる。私は堪らず「ひゃああ」と心の中で叫び声をあげた。
『きゅ!』
私の言葉を理解してくれたのかはわからないけど、コクリと頷いてくれたカーバンクルを無言で数分撫で続けた。
ああ、やばい。可愛すぎる。
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