サイハテの召喚士

茶歩

文字の大きさ
上 下
14 / 24
第2章 モフモフへの使命

14 初めて尽くしのX地区

しおりを挟む


 一本道に復帰してからは、割とすぐに関所が見えた。
 これなら9日後の約束の時間に、余裕を持って到着できそうだ。

 オリオンのコインのおかげで、関所も難なくクリアである。

 こうして、私たちは無事にX地区へと辿り着いた。



「ねぇ、提案なんだけど‥」


 アキが控えめに手を挙げた。
綺麗目だったはずのアキの服は、もう見る影もないほどにぼろぼろだ。
 まぁ私とブラウンの服はもっとぼろぼろなんだけど。

 川で体を綺麗にはしているものの、着替えはほぼない。私たちと同じように洞窟で生活していたアキの服が汚れるのは無理もなかった。


「なに?提案って」


「X地区はY地区と違ってコインが流通してるんだよ。お店もあるって前に噂で聞いたことがある。
あそこに人里が見えるだろ?
今日はあそこの宿に泊まらないかい?」


「宿?!」


 自分でも驚くほどに目がクワッと開いたのがわかった。きっと今私の瞳はかなりキラキラしている。


「アキさんの提案に賛成です。
この時間から地形を知らない森に入って野宿するのは危険だし、宿があるような人里ならY地区のような危険も少ないんじゃないかな」


「誰も、俺らみたいな薄汚い人たちが大金持ってるとは思わないだろうし‥」


「やったーー!野宿じゃないの生まれて初めて!!」


「ただ警戒は必要だよ。
森での野宿よりは安全、というだけ。
【経験数値】も増えるかもしれないしね」


 ブラウンが冷静に、興奮する私を制した。


「わかった!もしこの間の人身売買みたいなのに狙われたら、次は確実に殺るから!」


「そんなキラキラした瞳で言うことじゃないけどね」



 そういうわけで、私たちは吸い込まれるように人里へと向かった。




ーーー木製の民家が立ち並び、何軒かお店らしき建物もある。
 私の瞳はキラキラしっぱなしだった。


「す、すごい!!栄えてる!!」


「そうだね。もしかしたらギルド登録場もあるのかもね」


「W地区はもう少し街並みが綺麗だよ。
早く見せてあげたいな」


 感動する私とブラウンを、アキが温かい目で見ている。
 きっと、X地区は他の人から見れば廃れていて貧しい場所なのかもしれない。
 でも、私とブラウンからすれば未知の領域でしかなかった。


「装備品やなんかは、もっと上の地区で買った方がいいね」


 ブラウンの言葉に頷いた。私たちが身につけている装備は亡くなった冒険者のおさがりが大半を占めている。
 恐らくもっと上の地区で購入されたものだろうから、この地区のお店で買うのは得策ではない。


「あ、あったよ。宿だ」


 アキが指をさした先には、看板が掛けられた二階建ての建物が一軒。


「はぁー‥記念すべき1泊目‥」


 自分で言ってから気が付いた。
これからはこういう風に建物内で寝れる機会が増えるんだ‥。
野宿が嫌っていう訳ではもちろんないんだけど、未知の領域すぎてドキドキが止まらない。



 扉を開けると、チリンチリンと鈴が鳴った。もう心が踊りすぎてやばい。

 ブラウンもどうやら感動しているようで、口元がややはにかんでいる。

 そんな私たちをリードしてくれたのは、年長者のアキだ。


「いらっしゃいませ」


 白髪のおじいさんが微笑みながら立っている。


『いらっしゃいませ』だってぇぇ!
初めて言われた!!


「3人一部屋、空いてますか?」


「ええ、空いておりますよ。
素泊まり1人3コイン、食事付きなら1人5コインです」


「「食事付きで!!」」


 どうする?とこちらを振り返っていたアキに反応する間もなく、私とブラウンの声が被った。

 美味しくないけど栄養だけはある魔物の肉ばかり食べていた私たち。
 お店で提供される料理に興味津々だ。

 アキも久々にまともな料理が食べれることにホッとした様子。
 これで少しは元気になってくれたらいいんだけど。

 アキがいくら元料理人でも、調味料も調理道具も揃っていない環境では、私たちが食べられる味にも限りがある。
 オリオンからふんだんにコインを貰ったことをいいことに、私たちは今日はじめての贅沢を味わうことにした。



 部屋に案内されると、目にしたことのないもののオンパレードだった。


「ねぇアキ!これは何?!」


「これはシャワーだよ。ここをこうして捻るとお湯が出てくるんだ」


「へぇ‥!!
あ、これはなに?!」


「これは歯ブラシだよ。
君たちはいつも木で磨いてたもんね」


 そうそう。オッドさんに教えられた歯磨き。歯は大切にしなくちゃいけないんだと教えてもらったんだ。
 まさか専用のブラシが存在するとは‥


「こ、これは?」


「これは体を拭くタオルだよ。ちなみにこれは、トイレ」


「うわー、凄い!!
アキめっちゃ物知り!!」


 アキがいなかったら、私とブラウンは何をどう使っていいのかわからずに終始オロオロしていたはずだ。
 アキがいてくれて本当に良かった‥


「‥アキさん」


 ブラウンの声が上擦った。
どうやらブラウンも相当興奮しているらしい。


「なに?」


「あれはもしや‥ベッドですか?」


 オッドさんに聞いたことがあるベッド。
ふかふかの布の上で眠るんだとか。初めてベッドの存在を聞かされた時、私とブラウンは一生懸命落ち葉を集めてベッドごっこしたことあったなー。

結局、髪の毛が枯れ葉の屑だらけになったのと、湿った枯れ葉に集っていた蚊に刺されまくったという苦い思い出だったんだけど‥


「うん、そうだよ。それがベッド」


 私とブラウンは、両手を合わせてハイタッチをした。
人生でいちばん嬉しかった瞬間かもしれない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

神創系譜

橘伊鞠
ファンタジー
これは、「特別」な存在になりたかった竜の物語。 リリーは14年前に行方不明になった聖騎士の姉を探すため、聖騎士となった。だが落ちこぼれ、変わり者と呼ばれる彼女は孤独な日々を送っていた。そんな彼女の元にある人物が尋ねてきて…… ※2006年から個人サイトで掲載していたweb小説の再掲です。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...