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第2章 モフモフへの使命
13 アキ
しおりを挟む次の日早朝に出発した私たちは、オリオンから貰ったクライテリアを手に進み出した。
アキのクライテリアよりも桁違いに性能が良いらしく、コンパス機能付きのものだった。
追手から逃げながら関所を通過してきたアキの話によれば、X地区の関所からY地区の関所までは当初歩いていたあの一本道で繋がってるらしい。
私たちは、元の一本道へと復帰できるようにコンパスで方向を見ながら進んでいくことにした。
あの岩山の近くを通りながら、私はとあることを心に誓う。
能力を上げて、優秀な装備を身に付けたら‥
いつか絶対倒しちゃうからね!キングベヒーモス!
ーーー昼頃には一本道に復帰できた。人身売買集落からも相当距離ができただろうけど、キングベヒーモスの住処からも相当離れた今、またいつ誰かと出くわしてもおかしくはない。
誰かと遭遇しないかビクビクしている私たちの元に現れたのは、人ではなく一匹のスライムだった。
「あ、アキ!チャンスだよ!」
ステータスを上げるチャンス!
私はアキの背中をポンッと強く押した。
ここまでの道のりの中、魔物にはもう何匹も出くわしてる。
だけどだいたいゴブリンかそれより強い魔物ばかり。狩初心者のアキには手強い相手だったけど、スライムなら余裕だろう。
「え?!ええ!!無理っ!無理だよっ!」
背中を押す私に対抗するかのように、アキが屁っ放り腰で後退りをしている。
「いいから行きなってば!」
スライムで無理なら、もう一生どの魔物も倒せないよ!!
「ぶ、武器!武器持ってないもん!!」
「その辺の木の枝でいけるってば!!!」
もういい加減腹を決めなさい!と両手でアキを突き飛ばした。
スライムはぽよぽよと道の真ん中でこちらを見ているだけ。余裕すぎる戦いでしょ、これ。
「うあ!うああああ!」
アキがスライムの目の前で腰が抜けたように座り込み、地面を這いながら何とか逃げようとしている。
「あぁ‥これ、助けた方がいいかも」
ブラウンも苦笑いだ。
「えぇ?さすがに大丈夫でしょ‥」
「うああああああ!!!」
アキが涙を浮かべ、顔の前で腕をクロスさせた。
あぁ‥本当に助けた方がいいのかも。
「うあ、ああ、い、痛いっ!」
スライムがぽてんッと跳ね、クロスさせたアキの腕に当たった。
「あああ!死ぬっ!あああああ!」
私はアキのすぐ真横に落ちていた木の枝で、スライムを切った。
ピキィと小さく鳴いたスライムが、地面に溶けるようにして消えていく。
「痛いっ、痛いよぉ、死ぬうわうなさやまあたゆをはさりまあかは+:|<:→☆○・\#$%*」
「お、落ち着いて、アキ‥。
ごめん、私が悪かったよ」
アキの肩に手を置くと、アキはやっと正気を取り戻したらしい。
「‥‥‥あ、あとあと毒とかで死なない?
スライムが触ったところ壊死とかしない?」
涙目どころか涙腺が決壊している。
私はもはや罪悪感に苛まれていた。
「大丈夫だよ‥寝れば治る」
「アキさん、次もし同じようなチャンスがあったら、次は俺と一緒に戦ってみましょう?ゆっくり進んでいきましょうね」
ブラウンの言葉に、アキはコクコクと首を縦に振って泣いていた。
あとあと聞けば、W地区から逃げてきた際は、ひたすら全力疾走で一本道を走っていたらしい。その間魔物を見ても、知らんぷりの猛ダッシュ。恐らくアキを追っていた税金徴収所の職員が魔物退治しながら追ってきたんじゃないかとのこと‥
私たちがゴブリンに追われているアキをたまたま見つけなかったら、アキは確実に速攻で死んでいたんだろうな‥
見つけられて良かったよ‥
「あまり落ち込まないでください、アキさん。
ステータス内に【身体能力】はあっても、【対戦能力】はありませんから。魔物と戦えなくたって大丈夫です」
涙が引っ込んだあとのアキは、どんよりと俯いたままだった。
年下の私たち2人の前で大いに取り乱してしまったこともナイーブになっている原因の1つなのかもしれない。
「‥正直ね、俺お荷物でしかないと思う‥
オリオンがコインをふんだんにくれた今、君たちが俺を守る義理ももうないしね‥」
「いや、義理とかじゃないよ」
私の言葉に、アキはキョトンとした表情で顔を上げた。
「もう仲間じゃん、アキ。
別に普通に守るよ。ね、ブラウン」
「うん。そうだね」
アキの人間性は、ここ数日の間で私もブラウンも理解できていた。
アキは、気弱だけど優しい。思いやりのある人だ。
「うっ‥‥。そんな、俺、君たちに何もしてあげられないのに‥」
「この旅のキッカケをくれたのもアキだよ」
「そうそう。アキさんがいなければ俺たちはずっとサイハテの地にいたままだったんだから」
「うううう」
アキはまた涙をポロポロと流していた。
私たちと出会った時より、頬はこけて目の下にクマもできている。
きっと、メンタルが随分とやられていたんだろうなぁ。
「アキ、どんな未来になるかはわからないけど、それは私たち次第だよ。きっと幸せだと思える瞬間もあるはずだから」
アキを守ってあげたい。
巻き込んでしまったからこそ、そう思うのかもしれないけど。
でもきっとブラウンも同じように思っているはず。
オッドさんが死んでから、2人きりの生活をしていた私たちにとって、アキの存在は特別なんだ。
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