サイハテの召喚士

茶歩

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第1章 幕開け

3 それぞれの価値

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 アキがブラウンに対してクライテリアを翳した。
 ピピピ、という音を鳴らしながら、クライテリアがブラウンのステータスを読み込んでいく。

 数秒経つと、ピーーという長い音が響いた。


「すごい!!すごいよ君!!!」


 アキの目はキラキラと煌めいていた。
その表情を見る限り、ブラウンのステータスはよほど高かったらしい。


「俺のクライテリアでは7分野それぞれのステータスはでなくて、トータル数値だけしか出てくれないんだ。だけど、ブラウン君!君のトータル数値はPだよ!!」


 P。それだけ聞いてもピンとは来ないけど、単純にZYXWVUTSRQと来てのPだ。
 こんな時、やっぱりブラウンはZ地区にいていい人間じゃないなぁとしみじみ思う。


「P‥ですか」


 ブラウンもいまいちパッとしてない様子だ。


「わかりやすく説明すれば、P‥P地区で換算すると通行金は3000コインなんだ!すごいでしょう?!」


 アキがとてつもなく興奮している。そしてその勢いは止まらないまま、更に言葉を続けた。


「みんな、ステータスを高める為に努力するんだ。勉強したり、経験を積んだり、体を鍛えたり、美を磨いたり‥!
君は、謂わば原石の状態でのPなんだよ!!磨けばどれほどまでに高まるか‥!本当にすごいよ!!」


 7分野のステータス。
それは《身体能力・頭脳・財力・経験・器用さ・魅力・魔力》のことだ。
 オッドさんから情報を得たブラウンが、嬉しそうに教えてくれたことを覚えている。

 ブラウンのステータスは、きっと頭脳がかなり秀でているんだろうなぁと思う。
 身体能力は、このZ地区で生き延びていれば自ずと身につくものだし、ブラウンは手先がとても器用だ。

 ブラウンの凄さを毎日一番近くで見ていたからこそ、私は然程驚きはしなかった。


 更なる驚きの声をあげたのはアキだった。


「カラー!!君も凄いじゃないか!!」


 ピーーという音が聞こえるなぁとは思っていたけど、アキはいつのまにか私のステータスも測定してくれていたらしい。


「君のトータル数値はSだよ!
そりゃあ簡単に魔物を追い払えるわけだよ!」


 S‥。ブラウンの反応がよくわかった。
聞いてもやはり、ピンと来ないんだよね。


「ちなみに俺のトータル数値はV!
W地区に住んでいた俺でさえVなんだよ?!
君たちは本当に凄いよ!Z地区にいるのが勿体無い!!」


 ‥トータル数値がVなアキでさえ、住んでいたランクの低いW地区を追われてしまうんだ。

 つまり、個人のステータスが居住区にそっくりそのまま反映されるわけではない。
 通行金や毎年の税金、そして親がどこで子を産み落としたか。
 個人のステータスだけではなく、そんな要因が居住区を決めるんだろう。

 ステータス測定で分析される7分野以外の要因‥世渡り術であったり、運だったり。きっとそんなものが、かなり重要なのだ。


「私たちだってそりゃあから出たいよ。ねぇブラウン?」


「‥あぁ。ここではチャンスがないからな」


 Z地区は金銭のやり取りは全くない。
狩をして、野菜を育てている人と物々交換をする。狩をして、服を分けてもらう。

 そんな生活だから、上の地区に上がるためのコインは必要ない。というか、ここZ地区にコインは存在しない。

 どんなに働いても、努力しても、上には上がれない。

 ここで私は、とある疑問が頭を過った。
ブラウンももしかしたら同じことを考えていたかもしれない。


ーーーオッドさんは?
 私たちや、アキのように。生まれ育った場所がその地だったというわけでなく、ステータスによって強制的にその地に送り込まれた人は?
本当にステータスがその地区同等のものだったんだろうか。

 少なくともオッドさんは、ガサツで汚かったけど‥強かったし知識もあったし、経験も豊富だった。オッドさんがトータル数値Zだとは、どうしても思えないんだけど‥


 そんな心の中の疑問を遮るかのように、アキが言葉を落とした。


「Y地区にギルド登録会場があるかわからないけど‥‥一緒にY地区に行く?」


 平然とそんなことを言い放つ。


「「え?」」


「あ、えーっと。
有り金は全部持ってきたからさ。さすがに5年分の税金は払えないんだけど、3人でY地区に行くくらいのコインはあるよ」


「え?!いいの?!?!」


「そ、そのかわり‥!
俺を守ってほしい。ずるいかもしれないけど‥
君たちといれば、俺生きていけると思うから」


 アキは私たちより明らかに年上だった。
15~16才くらいだろうか。

 だけどそんなアキが私たちに頼るほど、この世はきっと住み辛いところなんだろうなぁと思う。
 これは、私たちにとっては又とない機会だった。


「‥アキさん。貴方は追われてるんですよね?
関所を通るときにバレないんですか?」


「あー、税金徴収所と関所の兵士は管轄がまるっきり違うんだ。それに、精度のいいクライテリアでは人物特定までできるらしいけど、さすがにここら周辺の関所にそんなクライテリアは配備してないと思うよ」


 私には正直さっぱりよくわからない会話だったけど、ブラウンは納得したように頷いた。

 ブラウンは私と目を合わせて互いに頷くと、アキに頭を下げた。


 どうやら、私たちはやっとZ地区から解放されるらしい。


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