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第1章 序章
第2話 承久の乱
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三寅を鎌倉へ送って早2年。三寅は4歳になってした。
我が子に会えぬ寂しさ募る道家と厄介な育児から解放され喜びに見ている綸子。
この二人、相変わらず本音では分かり合えていないようである。
この2年間、道家は、定期的に鎌倉へ文を出していた。我が子を案ずる強い思いがそこにはあった。
文には、三寅はきちんと食事を取っているか?きちんと睡眠を取れているか?きちんと運動できているか?等
とにかく三寅のことを心配し、三寅の様子を伺うような内容ばかり書かれていた。
鎌倉では、"零(れい)"という名の侍女が三寅の身の回りの世話をしており、
まだ4歳の三寅の代わりに零が文の返答を書いていた。
零の祖父は、平治の乱にて、平重盛に殺されており、父もまた、先の治承・寿永の乱にて、平重盛に殺されている。
戦で男手を失った零の祖母と母は、女手のみで零を育てたが、都に攻め入ってきた源義仲軍に金品を略奪された後、祖母はその場で惨殺され、母は兵に犯し殺された。まだ幼かった零も義仲軍に捕まってしまったが、後からきた義経・範頼軍によって救出され、零の境遇を不憫に思った義経の計らいによって、鎌倉にて侍女として召し抱えられ、今に至る。なので、零にとっては、平重盛は亡き祖父・父の仇であり、源義経は恩人なのである。
そういう訳で、零は、親の愛情というものを知らずに育ったため、父からの愛情を受けている三寅を羨ましく思っていた。一方、文に綸子の文字が全くないことから、母から三寅への愛情が全く感じられず、不思議に思っていた。
文は、基本的には、三寅についての内容ばかりであったが、ここ最近は、何やら物騒な話も書かれている。
文によると、どうやら朝廷が倒幕に動いているらしく、そろそろ倒幕の戦が起こるとか起こらないとか。
戦によって、祖父母と両親を失っている零は大の戦嫌いなので、倒幕の戦など起こってほしくないと思っていたが、道家の予感は悪い方に当たってしまう。
後鳥羽上皇が倒幕の兵を挙げ、ここに承久の乱が勃発したのである。幕府は北条泰時を総大将にし軍を結成、宇治で上皇軍をあっさり打ち破った。承久の乱後、後鳥羽上皇は隠岐に、その息子の土御門上皇と順徳上皇はそれぞれ土佐と佐渡に配流(島流しの刑)となった。また、承久の乱再発防止の為、朝廷の監視と西国武士の統率を行う機関として、京都守護に代わって、六波羅探題を設置し、初代探題として北条泰時が北方に、その弟である北条時房が南方に就任し、幕府の力が西国にも直接及ぶようになり、幕府による全国支配の体制が整った。この六波羅探題は後に小幕府と呼ばれるようになる。この乱によって、朝廷は没落し、武家が一気に台頭することとなった。
この状況を見て、綸子は、やはり三寅を鎌倉へ送って正解だった、どれだけ朝廷が没落し、幕府が強大な力を持とうとも、三寅が将軍になれば、我が九条家は安泰だ、等と、調子の言いことをいう。そんなもの、結果論ではないか、と呆れ果てる道家。何はともあれ、三寅への負の影響が無くて良かったと安堵する道家であった。(続く)
我が子に会えぬ寂しさ募る道家と厄介な育児から解放され喜びに見ている綸子。
この二人、相変わらず本音では分かり合えていないようである。
この2年間、道家は、定期的に鎌倉へ文を出していた。我が子を案ずる強い思いがそこにはあった。
文には、三寅はきちんと食事を取っているか?きちんと睡眠を取れているか?きちんと運動できているか?等
とにかく三寅のことを心配し、三寅の様子を伺うような内容ばかり書かれていた。
鎌倉では、"零(れい)"という名の侍女が三寅の身の回りの世話をしており、
まだ4歳の三寅の代わりに零が文の返答を書いていた。
零の祖父は、平治の乱にて、平重盛に殺されており、父もまた、先の治承・寿永の乱にて、平重盛に殺されている。
戦で男手を失った零の祖母と母は、女手のみで零を育てたが、都に攻め入ってきた源義仲軍に金品を略奪された後、祖母はその場で惨殺され、母は兵に犯し殺された。まだ幼かった零も義仲軍に捕まってしまったが、後からきた義経・範頼軍によって救出され、零の境遇を不憫に思った義経の計らいによって、鎌倉にて侍女として召し抱えられ、今に至る。なので、零にとっては、平重盛は亡き祖父・父の仇であり、源義経は恩人なのである。
そういう訳で、零は、親の愛情というものを知らずに育ったため、父からの愛情を受けている三寅を羨ましく思っていた。一方、文に綸子の文字が全くないことから、母から三寅への愛情が全く感じられず、不思議に思っていた。
文は、基本的には、三寅についての内容ばかりであったが、ここ最近は、何やら物騒な話も書かれている。
文によると、どうやら朝廷が倒幕に動いているらしく、そろそろ倒幕の戦が起こるとか起こらないとか。
戦によって、祖父母と両親を失っている零は大の戦嫌いなので、倒幕の戦など起こってほしくないと思っていたが、道家の予感は悪い方に当たってしまう。
後鳥羽上皇が倒幕の兵を挙げ、ここに承久の乱が勃発したのである。幕府は北条泰時を総大将にし軍を結成、宇治で上皇軍をあっさり打ち破った。承久の乱後、後鳥羽上皇は隠岐に、その息子の土御門上皇と順徳上皇はそれぞれ土佐と佐渡に配流(島流しの刑)となった。また、承久の乱再発防止の為、朝廷の監視と西国武士の統率を行う機関として、京都守護に代わって、六波羅探題を設置し、初代探題として北条泰時が北方に、その弟である北条時房が南方に就任し、幕府の力が西国にも直接及ぶようになり、幕府による全国支配の体制が整った。この六波羅探題は後に小幕府と呼ばれるようになる。この乱によって、朝廷は没落し、武家が一気に台頭することとなった。
この状況を見て、綸子は、やはり三寅を鎌倉へ送って正解だった、どれだけ朝廷が没落し、幕府が強大な力を持とうとも、三寅が将軍になれば、我が九条家は安泰だ、等と、調子の言いことをいう。そんなもの、結果論ではないか、と呆れ果てる道家。何はともあれ、三寅への負の影響が無くて良かったと安堵する道家であった。(続く)
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