魔法探偵の助手。

雪月海桜

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第一章【恋と魔法の出会い】

契約。

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「こんな風に、魔力が道具に宿ったものを『魔法道具』というんだ。大昔はそんなものに頼らなくても、『魔法使い』はその名の通り自在にいろんな魔法を使えてたみたいなんだけどね、今はそんなのはほとんど居ない」
「……そうなの?」
「うん。だから現存する大半の魔法使いは『魔力と調和して、魔法道具を上手く扱える存在』ってところかな」

 魔力、魔法使い、魔法道具。彼の言葉は、まるでお伽話の中のようだ。

 けれど嘘にしては凝りすぎているし、転校初日からこんな場所を用意したり、わざわざわたしなんかを騙すメリットもない。

 暗幕の外にまで届く光のカケラに、空とぶ紙に、傍に居ても聞こえなかった声や音。開かずの空き教室に存在する秘密基地のようなこの空間。すべて本物としか思えなかった。

「……シオンくんは、魔法使いってこと?」
「うん、そう。僕もトーヤも魔法使い。びっくりした?」
「……どうして、わたしに正体を明かすの? こういうのって、普通全部秘密なんじゃ……?」

 本物としか思えない。けれどいきなり魔法だ何だと言われても、正直なところわけがわからなかった。
 魔法なんて所詮、子供騙しの絵空事。そう思ってしまう自分も居る。

 けれど大人である先生も、茶化すことなくシオンくんの話を聞いている。その顔は、いつもの気怠げなものと違って、思い詰めたような表情だ。
 まるでそんな大事な秘密を話してしまっていいのかと、心配しているようだった。

「さっき話した『探し物』に、協力して欲しいから」
「それならわたし、秘密なんて話さなくても何でも協力するよ?」
「ふふ、そう言ってくれたね。でも、そんなのフェアじゃないだろう?」

 信じて貰えるかもわからない、大切な秘密を話してまで彼はわたしに真摯に向き合ってくれたのだと、改めて気付く。
 わたしはそれ以上魔法について疑うことなく、受け入れることにした。
 シオンくんは改めて、わたしの手を握る。

「僕はそれを探すために、この学校に来たんだ。……小日向みゆりさん。魔法使いシオンとして、改めて頼むよ。見返りは何もあげられないけれど……よければ僕の探し物に協力して欲しい」
「……うん! もちろん! 探し物も見付けるし、シオンくんたちの秘密も守るからね!」
『契約が完了しました』
「……え?」

 不意にどこからか声がして、わたしは辺りを見回す。すると、わたしの前にひらひらと羊皮紙のようなしっかりとした紙が降ってきた。

「あー、小日向、今のは良くない」
「……? とーや先生?」
「今のは、シオンの『使い魔契約』だな」
「つかい、ま?」

 キラキラ光って見えるペンを片手に、先生はその紙を指差す。
 わたしは紙を受け取り、視線を落とした。

「魔法使いシオンが、小日向みゆりに、見返りなしの協力依頼。それを了承した時点で、契約が結ばれた……っていう、契約書」
「契約書」
「……まあ、あれだ。探し物が見付かるまで、お前は何があってもシオンに絶対に協力しないといけないし、秘密も厳守しなくちゃならない」
「えっ、そんながっちがちのあれでした? もっとこう、友達同士の約束みたいな……」

 本格的な契約書なんて、さすがに交わすのは初めてだ。受け取った瞬間、羊皮紙のすみにわたしの名前が浮かび上がった。

「あはは。魔法使いとしての契約だからね。破ることは許されないよ」

 先程までの王子様然とした微笑みとは少し違う、小悪魔のような少し意地悪なシオンくんの笑み。

 彼が正体を明かしたのは、わたしの信頼を得るためだとか、協力を頼むのに隠し事をするのはフェアじゃないとか、そんなことじゃない。
 魔法使いの名のもとに契約をして、わたしを絶対的な管理下に置くためだと理解した。

「えっと、あの……」
「これからよろしくね、みゆりさん」
「は、はい喜んで……っ!!」

 なんとなく理不尽かつヤバイことに足を突っ込んだ気はしなくもなかったけれど。
 好きなひとと秘密の契約を結んだ高揚感と、初めて名前を呼んで貰えた喜びに、単純なわたしは何度も頷くのだった。



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