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第一章【恋と魔法の出会い】
放課後の目的地。
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小テストダメージを引きずったまま、あっという間に放課後を迎える。
姫乃ちゃんは習い事があるからと早々に帰ってしまい、わたしは気を取り直してシオンくんを探すことにした。
一緒に帰るのは無理だとしても、せめて一言話したかった。
「シオンくん……いない……」
すでに教室にはいない、急いで昇降口まで向かうけれど、途中で追い越すことはなかった。
少し考えてから下駄箱を確認すると、汚れのない綺麗な黒い外靴が入っている。まだ帰ってはいないようだった。
「わあ、シオンくん、靴まで綺麗……」
ラブレターのひとつでも忍ばせるなら可愛げもあるものの、特にそういう訳でもなく、好きな子の下駄箱をじろじろ見詰めるなんて、端から見るとやばい奴である。
「……あれ、みゆりちゃんまだ帰ってなかったの?」
「わっ、若菜ちゃん!? あはは、うん……ちょっとね」
そんな中、不意に声をかけられて、わたしは思わずびくりとする。別に悪いことはしていないけれど、何となく見られないに越したことはない。
わたしが下駄箱を背に隠すように振り返ると、三つ編みメガネ姿のおっとりとした若菜ちゃんが、不思議そうに首を傾げる。
「ふうん? さっき紫音くんも誰か待ってる風だったし、今日って何かあったっけ?」
「えっ、シオンくん見たの!? どこで!?」
若菜ちゃんからの思わぬ目撃情報に、わたしは一気に詰め寄る。その迫力に気圧されたように、若菜ちゃんはレンズ越しの視線を彷徨わせた。
「え、と……第二音楽室の方」
「第二音楽室……? 今使ってないところだよね」
「うん、迷子かなって思ったんだけど、扉の前で誰か待ってるみたいだったから、声かけなかったんだぁ」
第二音楽室。教室からも第一音楽室からも離れていて使い勝手も悪く、六年間一度も授業に使ったことのない教室だ。
通りすがりに窓越しに中を覗いたこともあるけれど、どうやら今は物置のようになっているらしいただの空き教室だった。
そんなところに居るなんて、珍しい。けれど転校初日だ、何かと先生との話もあるかもしれない。もしかしたら、とーや先生がこの後校内を案内するのかもしれない。
それなら邪魔できないと思ったけれど、もしも、万が一、他の女子からの呼び出しだったとしたら。
そう思うと、わたしはいてもたってもいられなくなった。
「ありがとう、若菜ちゃん!」
「え……うん? どういたしまして?」
「それじゃあ、わたし行くね!」
「よくわかんないけど、いってらっしゃい。また明日ね~」
若菜ちゃんに大きく手を振って、わたしは早足で元来た道を戻る。
まだ一人そこに居るなら、わたしが先に声をかけよう。ほんの僅かな希望を胸に、わたしは第二音楽室まで向かった。
*******
姫乃ちゃんは習い事があるからと早々に帰ってしまい、わたしは気を取り直してシオンくんを探すことにした。
一緒に帰るのは無理だとしても、せめて一言話したかった。
「シオンくん……いない……」
すでに教室にはいない、急いで昇降口まで向かうけれど、途中で追い越すことはなかった。
少し考えてから下駄箱を確認すると、汚れのない綺麗な黒い外靴が入っている。まだ帰ってはいないようだった。
「わあ、シオンくん、靴まで綺麗……」
ラブレターのひとつでも忍ばせるなら可愛げもあるものの、特にそういう訳でもなく、好きな子の下駄箱をじろじろ見詰めるなんて、端から見るとやばい奴である。
「……あれ、みゆりちゃんまだ帰ってなかったの?」
「わっ、若菜ちゃん!? あはは、うん……ちょっとね」
そんな中、不意に声をかけられて、わたしは思わずびくりとする。別に悪いことはしていないけれど、何となく見られないに越したことはない。
わたしが下駄箱を背に隠すように振り返ると、三つ編みメガネ姿のおっとりとした若菜ちゃんが、不思議そうに首を傾げる。
「ふうん? さっき紫音くんも誰か待ってる風だったし、今日って何かあったっけ?」
「えっ、シオンくん見たの!? どこで!?」
若菜ちゃんからの思わぬ目撃情報に、わたしは一気に詰め寄る。その迫力に気圧されたように、若菜ちゃんはレンズ越しの視線を彷徨わせた。
「え、と……第二音楽室の方」
「第二音楽室……? 今使ってないところだよね」
「うん、迷子かなって思ったんだけど、扉の前で誰か待ってるみたいだったから、声かけなかったんだぁ」
第二音楽室。教室からも第一音楽室からも離れていて使い勝手も悪く、六年間一度も授業に使ったことのない教室だ。
通りすがりに窓越しに中を覗いたこともあるけれど、どうやら今は物置のようになっているらしいただの空き教室だった。
そんなところに居るなんて、珍しい。けれど転校初日だ、何かと先生との話もあるかもしれない。もしかしたら、とーや先生がこの後校内を案内するのかもしれない。
それなら邪魔できないと思ったけれど、もしも、万が一、他の女子からの呼び出しだったとしたら。
そう思うと、わたしはいてもたってもいられなくなった。
「ありがとう、若菜ちゃん!」
「え……うん? どういたしまして?」
「それじゃあ、わたし行くね!」
「よくわかんないけど、いってらっしゃい。また明日ね~」
若菜ちゃんに大きく手を振って、わたしは早足で元来た道を戻る。
まだ一人そこに居るなら、わたしが先に声をかけよう。ほんの僅かな希望を胸に、わたしは第二音楽室まで向かった。
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