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【最終章】ダイヤモンドの消失。

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(sideステラ)

「っ……ステラ!」
「ミア!」

 すっかり泣き疲れて眠ってしまった二人の少女を撫でながら、不意に耳に届いた声に顔を上げる。

 牢の向こう、こちらへと駆け寄ってくる愛しい子。
 たくさん走って、途中転んだりしたのだろう。髪は乱れて、ドレスは泥だらけ。それでも、歩みを止めずにここまで来てくれた。

 ああ、やっぱり。この子は私にとっての光だ。

「ステラ、大丈夫!? 怪我してない!?」
「大丈夫よ、ミアこそ…ぼろぼろじゃない、危ないことしてない?」
「うん、わたしは平気。ここまでみんなが守ってくれたから……、無事で良かった……お母さん」

 久しぶりに呼ばれた『お母さん』という響き。
 鉄柵越しに手を伸ばすと、ミアの手もこちらへと伸ばされる。
 近付くと薄暗い中でもわかるくらいお互いぼろぼろで、心配を通り越して笑ってしまう。
 そしてようやく掌が触れ合った瞬間、二人の間にふわりと光が溢れて、隔てる鉄柵が光の粒のようになって消えた。

「今の……ステラの魔法?」
「……え、いえ、私は何も……」
「じゃあ、何で消えたの?」
「もしかして、ミアの……」

 掌の間で、確かに魔法の気配がした。
 改めて確かめようとするけれど、僅かな地響きが身体を揺らすのを感じ、思わず暗い天井を見上げた。
 地下に位置する鉄柵が消えた事で、歪みが生じたのかもしれない。

「ステラ! 良かった、無事か!」
「ミア嬢、ステラ嬢、この揺れはまずい、早く脱出しましょう!」
「二人とも早く! 崩れますわ!」

 殿下達が駆け寄ってきて、私達の手を取ろうとする。
 国の未来を担う彼らがこんな危険な場所に居るなんて、皇帝陛下が知ったら憂鬱どころじゃ済まないだろう。

 眠る少女達を起こして一緒に走ろうとするけれど、地響きがどんどん大きくなり、歩くのも困難だ。
 この様子だと地上まで建物が耐えられそうにない。
 殿下達が居ると言うことは、私を助けに、きっと皆で来てくれたのだろう。彼等を巻き込む訳にはいかなかった。

「私が倒壊を食い止めます、今の内に避難を!」
「ステラ!?」

 さすがに建物の崩落を食い止める魔法なんて初めてだし、正直余裕もない。
 けれど光属性の、聖女の魔法だ。皆を守るために使うのなら、きっと最大出力で頑張れる。
 私はミアの手を離し、先に逃がそうとした。

「リオ様、ミアをお願いします!」
「はい、ミア嬢、こちらに!」
「……わたしもやる」
「え……?」
「さっきのがもしわたしの魔法なら……わたしの責任だもん。人を巻き込む魔法なんて、やっぱり悪役令嬢かも」
「そんなこと……元はと言えば私が……!」

 私の言葉を遮るように、ミアは首を振る。不安で一杯であろうこの状況で、彼女は強気に笑みを浮かべた。

「でも、闇が濃くなればなるほど、相対的に光は大きく強くなると思わない?」
「ミア……?」
「それに、わたしが居ると、ステラはモチベーションアップするんだよね?」

 そう、いつか私が言った台詞だ。ミアは私の手に再び触れ、悪戯に笑みを浮かべてから目を閉じる。
 私の魔力の流れを感じ取ろうとしているようだった。その手は、少し震えている。
 当然だ、魔法なんて初めて使うのだろう。先程牢を消したのだって、意図的ではない。それでも、自分に出来ることを精一杯やり遂げようとしているのだ。

 こうなったこの子は、いくら言っても聞かないだろう。こんな所ばかり、私に似たものだ。

 戻らない私達を心配して、避難よりも救助に来た公爵とミアの護衛騎士が、早く逃げるようにと声を上げる。
 殿下達の戸惑いと焦りの視線に、私は笑みを浮かべて、小さな手を握り返した。

「そうね、ミアと一緒に居るだけで、私のモチベーションは一万倍アップなんだから!」

 いつか告げた言葉を誓いとして、互いに染まる瞳で視線を交わす。私達は光と闇、相反するようで補い合う魔法を発動させた。

 初めての魔法は不安定で、ミアはすぐに揺らぎそうになる。
 けれど不意に、私や殿下達、公爵様や護衛騎士、遠くに居る彼女のメイドや使用人、あらゆる親しい人に贈ったという彼女のハンカチから、ふわふわと細かい光の粒が集まっていく。

「これって……?」
「皆が、力を貸してくれてる……?」

 皆がミアを支えて、そのミアが私を支えてくれる。そんなの、どうしたって最強だった。

 真っ直ぐ伸びる光の柱は揺らぐ建物を支え、光を纏う濃い影を添えることで、その存在を強くする。

「揺れが……収まった?」
「すげぇ……」

 やがて人身売買一味を含め全員が無事避難を終えた頃、光の柱は消滅し、廃墟は脆くも崩れ去る。
 地盤沈下のような大規模な倒壊にも関わらず、この一件で死者を一人も出すことはなかった。

 崩れた建物を安全な場所で呆然と見ながら、危険なことをしたと公爵や殿下には叱られ、私達は皆に抱き締められながら泣かれてしまった。

「でも……一件落着、だね」

 ミアは初めての魔法の高揚感と疲労感、闇属性でも誰かを助けられた喜びに、ふにゃりと気の抜けた笑みを見せてくれた。


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