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【第四章】サファイアの海の異変。
⑧
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「ミア様は北部は初めてなんですよね? 観光地はたくさんあるんですけど……どのような物にご興味が?」
「興味、ですか? そうですね……趣味で刺繍を少々」
「刺繍ですか! 女性らしくて素敵です……さぞかし美しい刺繍をなされるのでしょうね」
「いや……それは全然」
「いつか私にも下さい!」
「えっ」
皇子達といい、わたしの刺繍を集めるのが流行ってるのだろうか?
スタンプラリーのスタンプにでもなった気分だ。
とりあえず笑って誤魔化しつつ、貴族の子供とそれぞれの護衛は、四人でサファイア侯爵家の大きな馬車に揺られる。
少しすると御者は馬車を止め、リヒトのエスコートで馬車から降りた。
町外れの目立たない場所で下ろされたのは、ここからはお忍びということだろうか。
確かに領主の息子と他所の貴族令嬢が出掛けているのはさすがに不味い。
ただでさえ、わたしは皇室関連で近頃社交界で噂になっているのだ。
用意周到に準備されていたフードつきのケープを大人しく羽織ると、気分は赤ずきんだ。
夏の炎天下でこれは流石に暑かったけれど、それに気付いたカイ様はすぐに魔法を使って涼しくしてくれる。彼が最近使えるようになった氷魔法の応用らしい。
お礼を言うと、今度は彼が暑さにやられたように頬を染めていた。
そうして北の地で観光を開始したけれど、平和そうな町中で剣をぶら下げた護衛を連れているのだ、幾ら変装していても嫌でも目立つ。
時折目線を感じるものの、気付かない振りをして遣り過ごした。こういう時には堂々としている方がいい。
しかしカイ様は地元なだけあり既に顔が割れているのか、立ち寄る店店でVIP対応をされていた。正直わたしの正体がバレるのも時間の問題な気がする。
「ミア様、こちらの硝子細工は如何ですか?」
「わあ、綺麗ですね」
「ミア様、こちらのソフトクリームは如何でしょう?」
「えっと、美味しそうですね!」
「ミア様、チョコレートはお好きですか?」
「甘いものには目がありません……けど、あの……」
「ミア様、ミア様!」
「……、……」
店からVIP待遇を受けるカイ様から過剰な接待を受けるわたしは、いっそこの国の皇女様か何かと思われてやしないだろうか。
そうまでいかなくとも、この調子では確実に名前バレはしている。
彼に注意しようにも、その様子はご主人様に尻尾を振る子犬のようだ。とても何も言えない。
助けを求めるように護衛達へと視線を送るけれど、サファイア侯爵家の護衛は「こういう人なんです」と諦めた様子で苦笑を返して来るし、リヒトは視線の意味を理解していないようで小首を傾げる。……その様子は可愛いので許した。
「興味、ですか? そうですね……趣味で刺繍を少々」
「刺繍ですか! 女性らしくて素敵です……さぞかし美しい刺繍をなされるのでしょうね」
「いや……それは全然」
「いつか私にも下さい!」
「えっ」
皇子達といい、わたしの刺繍を集めるのが流行ってるのだろうか?
スタンプラリーのスタンプにでもなった気分だ。
とりあえず笑って誤魔化しつつ、貴族の子供とそれぞれの護衛は、四人でサファイア侯爵家の大きな馬車に揺られる。
少しすると御者は馬車を止め、リヒトのエスコートで馬車から降りた。
町外れの目立たない場所で下ろされたのは、ここからはお忍びということだろうか。
確かに領主の息子と他所の貴族令嬢が出掛けているのはさすがに不味い。
ただでさえ、わたしは皇室関連で近頃社交界で噂になっているのだ。
用意周到に準備されていたフードつきのケープを大人しく羽織ると、気分は赤ずきんだ。
夏の炎天下でこれは流石に暑かったけれど、それに気付いたカイ様はすぐに魔法を使って涼しくしてくれる。彼が最近使えるようになった氷魔法の応用らしい。
お礼を言うと、今度は彼が暑さにやられたように頬を染めていた。
そうして北の地で観光を開始したけれど、平和そうな町中で剣をぶら下げた護衛を連れているのだ、幾ら変装していても嫌でも目立つ。
時折目線を感じるものの、気付かない振りをして遣り過ごした。こういう時には堂々としている方がいい。
しかしカイ様は地元なだけあり既に顔が割れているのか、立ち寄る店店でVIP対応をされていた。正直わたしの正体がバレるのも時間の問題な気がする。
「ミア様、こちらの硝子細工は如何ですか?」
「わあ、綺麗ですね」
「ミア様、こちらのソフトクリームは如何でしょう?」
「えっと、美味しそうですね!」
「ミア様、チョコレートはお好きですか?」
「甘いものには目がありません……けど、あの……」
「ミア様、ミア様!」
「……、……」
店からVIP待遇を受けるカイ様から過剰な接待を受けるわたしは、いっそこの国の皇女様か何かと思われてやしないだろうか。
そうまでいかなくとも、この調子では確実に名前バレはしている。
彼に注意しようにも、その様子はご主人様に尻尾を振る子犬のようだ。とても何も言えない。
助けを求めるように護衛達へと視線を送るけれど、サファイア侯爵家の護衛は「こういう人なんです」と諦めた様子で苦笑を返して来るし、リヒトは視線の意味を理解していないようで小首を傾げる。……その様子は可愛いので許した。
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