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【第一章】母が聖女で、悪役令嬢はわたし。
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午後からは自室に招く家庭教師の時間。
やるのは文字の読み書きや計算など、前世で言う小学生の内容だ。足し算や引き算なら普通に出来るものの、この国の文字は未知の物で、簡単なものなら何と無く読めるけれど、正直全く書けない。
ミアも読み書きが嫌いだったようで、よく教科書を破いていた。お陰で今のわたしにもほとんど知識はなく……開始三分でギブアップだ。ここは諦めて、素直に教えを乞うことにした。
「ペリドット先生、これは何て読むんですか?」
「……! お、お嬢様が質問を……!?」
読み書きはこの世界に生きる上で必須科目だ。いつになく熱心に勉強する様に、わたしの家庭教師であるペリドット先生は、その名の通り明るい黄緑色の瞳を真ん丸にしていた。
挙げ句、その後一度も暴れずに授業を終えただけで感涙されてしまった。……ミアはどれだけ手のかかる生徒だったんだろう。我ながらとても申し訳ない。
翌日、暖かくなってきたので、庭園の散歩に出られることになった。
いつもなら、少しでも外に出掛ける時には「あれも嫌これも嫌」と何度もドレスや装飾品を取っ替え引っ替えしては、着付け担当のメイド達を困らせていたミア。
正直今の感覚だと庭くらいパジャマで出ても全然良いのだが、公爵令嬢としては好ましくないだろう。
わたしは部屋に併設された豪華過ぎるウォークインクローゼットを覗き込み、適当に近くの服を指差す。
「あっ、わたしこれが良い……そう、その白いやつ」
「お、お嬢様……大変申し上げ難いのですが、庭園はまだ雪解けしたばかりでぬかるんだ場所もございます、白ですと万が一泥が跳ねでもしたら……」
「あ……それもそうか。ならそっちのネイビーなら、濃くて汚れも目立たないかな?」
「お嬢様……!?」
「えっ、ネイビーもダメ?」
「い、いえ! 今すぐ御用意いたします!」
わたしに物申すなんて、最悪物を投げられたり打たれるの覚悟だっただろう。震えながらアドバイスしてくれたのは、メイドの一人、ラナ。肩まで伸びた青みがかった菫色の髪に、新緑の瞳が美しい控え目な少女だ。
決死の覚悟をした彼女の意見に対しわたしが何の文句もなくあっさり要求を変えたことに、わたし専属の五人のメイド達は大変驚いた様子だった。
ドレスがあっさり決まったことで、支度もいつもの半分以下の時間で済み、侍女のアメリアとゆっくりと庭園を散歩して来る事が出来た。
モルガナイト公爵家の広い庭園は、もう少しすると色とりどりの花が咲き乱れる綺麗な場所になるはずだ。今からわくわくしてしまう。
やがて陽当たりの良い場所に出ると、花壇のすみに咲きかけの花を見付けた。少し考えてから、子供らしくそれを無邪気に引き抜いて、アメリアにプレゼントする。春の先取りだ。
花を差し出しながら、ふと「行儀が悪い」と叱られるかもと考えたけれど、そんな心配は杞憂で、アメリアには「お嬢様からの初めてのプレゼントだ」と泣かれてしまった。
日頃散々迷惑をかけて来たのに、お金持ちである令嬢からの初めての贈り物が無造作に摘んだ花で、むしろ申し訳ない。後日改めて何か贈ろうと心に決めた。
やるのは文字の読み書きや計算など、前世で言う小学生の内容だ。足し算や引き算なら普通に出来るものの、この国の文字は未知の物で、簡単なものなら何と無く読めるけれど、正直全く書けない。
ミアも読み書きが嫌いだったようで、よく教科書を破いていた。お陰で今のわたしにもほとんど知識はなく……開始三分でギブアップだ。ここは諦めて、素直に教えを乞うことにした。
「ペリドット先生、これは何て読むんですか?」
「……! お、お嬢様が質問を……!?」
読み書きはこの世界に生きる上で必須科目だ。いつになく熱心に勉強する様に、わたしの家庭教師であるペリドット先生は、その名の通り明るい黄緑色の瞳を真ん丸にしていた。
挙げ句、その後一度も暴れずに授業を終えただけで感涙されてしまった。……ミアはどれだけ手のかかる生徒だったんだろう。我ながらとても申し訳ない。
翌日、暖かくなってきたので、庭園の散歩に出られることになった。
いつもなら、少しでも外に出掛ける時には「あれも嫌これも嫌」と何度もドレスや装飾品を取っ替え引っ替えしては、着付け担当のメイド達を困らせていたミア。
正直今の感覚だと庭くらいパジャマで出ても全然良いのだが、公爵令嬢としては好ましくないだろう。
わたしは部屋に併設された豪華過ぎるウォークインクローゼットを覗き込み、適当に近くの服を指差す。
「あっ、わたしこれが良い……そう、その白いやつ」
「お、お嬢様……大変申し上げ難いのですが、庭園はまだ雪解けしたばかりでぬかるんだ場所もございます、白ですと万が一泥が跳ねでもしたら……」
「あ……それもそうか。ならそっちのネイビーなら、濃くて汚れも目立たないかな?」
「お嬢様……!?」
「えっ、ネイビーもダメ?」
「い、いえ! 今すぐ御用意いたします!」
わたしに物申すなんて、最悪物を投げられたり打たれるの覚悟だっただろう。震えながらアドバイスしてくれたのは、メイドの一人、ラナ。肩まで伸びた青みがかった菫色の髪に、新緑の瞳が美しい控え目な少女だ。
決死の覚悟をした彼女の意見に対しわたしが何の文句もなくあっさり要求を変えたことに、わたし専属の五人のメイド達は大変驚いた様子だった。
ドレスがあっさり決まったことで、支度もいつもの半分以下の時間で済み、侍女のアメリアとゆっくりと庭園を散歩して来る事が出来た。
モルガナイト公爵家の広い庭園は、もう少しすると色とりどりの花が咲き乱れる綺麗な場所になるはずだ。今からわくわくしてしまう。
やがて陽当たりの良い場所に出ると、花壇のすみに咲きかけの花を見付けた。少し考えてから、子供らしくそれを無邪気に引き抜いて、アメリアにプレゼントする。春の先取りだ。
花を差し出しながら、ふと「行儀が悪い」と叱られるかもと考えたけれど、そんな心配は杞憂で、アメリアには「お嬢様からの初めてのプレゼントだ」と泣かれてしまった。
日頃散々迷惑をかけて来たのに、お金持ちである令嬢からの初めての贈り物が無造作に摘んだ花で、むしろ申し訳ない。後日改めて何か贈ろうと心に決めた。
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