丘のむこうは海蛇座

第36話 ビイドロ Vitoroj

　恋こいに疲つかれているときは、眠ねむりのなかで夜よるの海辺うみべを歩く。

　くりかえす波がよせた、丸くなったびいどろの数々かずかず。指先ゆびさきでつまみ手のひらにのせる。

　それは濡ぬれているのにおさなごの耳のようにほんのりあたたかい。

　だれの恋ごころだったのだろう、と思う。割れて大海たいかいに散ったすえ、どれほどの時ときを経へてか、ここにたどりついたのだ。

　わたしの声がとどくことはなかろうけれど、励はげましの言葉ことばをつぶやきたくなる。

　だいじょうぶ、あなたの恋はうそやまぼろしではありませんでしたよ。いまでも小さな欠片かけらにまでぬくもりが残っているのですから。――

　わたしの恋も、割れたらこの広い海辺うみべに流れつく、そしてひと知れず息いきづきつづけるはず、そう思えば臆病おくびょうなわたしにも多少たしょうの勇気ゆうきがにじみでてくる。

　波音なみおとのなかに冷たい吐息といきをひとつ残して、わたしは目めざめる。




　Fino