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第四章 夏の嵐
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「逃げても何も、何一つ解決する訳じゃあないのに……それに真凜だったらこんな時どうするんだろ」
虚ろな表情のまま美琴は自分のスマホの真っ黒な画面をじーっと見つめていた。
まあ見つめていたからと言ってスマホが答えを出してくれる訳ではない。
そのくらいは美琴自身もよく理解はしている。
そう理解をしているのだが……それでも何かに縋り付きたくなってしまうのである。
ただその対象が充電の切れたスマホ――――だったらしい。
あの時は何も考えずと言うか、唐突に心の中で既に芽生えていただろう感情に気づき驚愕の余りに後先考えずに龍太郎より距離を取ったに過ぎないのだ。
そうしてやっと自分を何とか取り戻せば頼りのスマホは充電切れ。
真凜に相談したくとも公衆電話はそう簡単に見つからないし、タッチパネルをぽ通すだけの生活に慣れていた所為もあり自分のスマホの番号と固定電話の番号はわかるけれどもっ、真凜いや寧ろ優先させるべき相手である龍太郎の番号なんて覚えてはいない。
だから今龍太郎は何処で何をしているのか、何処でもしかしなくともこんなお子様に呆れてのんびりと魚達を見ているのかそれともだっ、もう先に京都へ帰ったのかもしれない。
そんな事を思うのならば直ぐにでも龍太郎の車の置いてあるパーキングへ行けばいいだけの事なのだが、行ってもし本当に車がなかった時に美琴は果たして冷静でいられるのだろうか。
龍太郎の車のあるなしだけでこんなにも美琴の心は大きく揺す振られてしまう。
またそれとは別にここである問題も浮上する。
そう、美琴は超のつく程の方向音痴なのだっっ。
それ故昔から自ら進んで、然も一人で京都市以外、いやはっきり言って知っている場所以外は無暗に冒険へ出たりはしなかった。
まあ何も考えずに出れば美琴は100%の確率で迷子になるだろう。
それに関しては誰よりも美琴自身がよく知っている事実である。
そして今突きつけられた現実に美琴は思いっきり頭を抱えたくなる程に悩んでもいた。
「ど、どうしよう。ここは京都やないし近場にお巡りさんもおらへん。頼りのスマホも……」
なのに海の中へと沈もうとする夕焼けは心が痛くなるくらい、切なくなる程に美しい。
「あかん、違う意味でまた泣けてくるわ」
美琴はこれから本当にどうすればいいのかと、無事に京都へ、我が家へ帰りつく事が出来るのかと不安に駆られ渇いていただろう瞳からはまた涙が再び生成されかけた瞬間――――。
「美琴っ、お前っ、ここに――――っっ⁉」
聞き覚えのある低く力強い大人の男性の声と共に美琴の背後よりそっと、いやいやしっかりがっしりと強く抱き寄せられる温かくも何故か安心の出来る頑丈な檻。
「り、龍……っっ⁉」
「心配した。物凄く心配した。何処を探しても美琴を見つけられなくてっ、スマホへ掛けても美琴は出ないしまさかここにいたとは……でも、よかったっ、お前が無事で本当に良かったっっ!!」
「龍……太郎、ごめ、ごめんね。心配かけてごめん、なさい〰〰〰〰っっ」
美琴は背後よりしっかりと龍太郎に抱き締められたまま鮮やかで美しい夕日を見つめる形で、子供の様に泣いて謝っていた。
虚ろな表情のまま美琴は自分のスマホの真っ黒な画面をじーっと見つめていた。
まあ見つめていたからと言ってスマホが答えを出してくれる訳ではない。
そのくらいは美琴自身もよく理解はしている。
そう理解をしているのだが……それでも何かに縋り付きたくなってしまうのである。
ただその対象が充電の切れたスマホ――――だったらしい。
あの時は何も考えずと言うか、唐突に心の中で既に芽生えていただろう感情に気づき驚愕の余りに後先考えずに龍太郎より距離を取ったに過ぎないのだ。
そうしてやっと自分を何とか取り戻せば頼りのスマホは充電切れ。
真凜に相談したくとも公衆電話はそう簡単に見つからないし、タッチパネルをぽ通すだけの生活に慣れていた所為もあり自分のスマホの番号と固定電話の番号はわかるけれどもっ、真凜いや寧ろ優先させるべき相手である龍太郎の番号なんて覚えてはいない。
だから今龍太郎は何処で何をしているのか、何処でもしかしなくともこんなお子様に呆れてのんびりと魚達を見ているのかそれともだっ、もう先に京都へ帰ったのかもしれない。
そんな事を思うのならば直ぐにでも龍太郎の車の置いてあるパーキングへ行けばいいだけの事なのだが、行ってもし本当に車がなかった時に美琴は果たして冷静でいられるのだろうか。
龍太郎の車のあるなしだけでこんなにも美琴の心は大きく揺す振られてしまう。
またそれとは別にここである問題も浮上する。
そう、美琴は超のつく程の方向音痴なのだっっ。
それ故昔から自ら進んで、然も一人で京都市以外、いやはっきり言って知っている場所以外は無暗に冒険へ出たりはしなかった。
まあ何も考えずに出れば美琴は100%の確率で迷子になるだろう。
それに関しては誰よりも美琴自身がよく知っている事実である。
そして今突きつけられた現実に美琴は思いっきり頭を抱えたくなる程に悩んでもいた。
「ど、どうしよう。ここは京都やないし近場にお巡りさんもおらへん。頼りのスマホも……」
なのに海の中へと沈もうとする夕焼けは心が痛くなるくらい、切なくなる程に美しい。
「あかん、違う意味でまた泣けてくるわ」
美琴はこれから本当にどうすればいいのかと、無事に京都へ、我が家へ帰りつく事が出来るのかと不安に駆られ渇いていただろう瞳からはまた涙が再び生成されかけた瞬間――――。
「美琴っ、お前っ、ここに――――っっ⁉」
聞き覚えのある低く力強い大人の男性の声と共に美琴の背後よりそっと、いやいやしっかりがっしりと強く抱き寄せられる温かくも何故か安心の出来る頑丈な檻。
「り、龍……っっ⁉」
「心配した。物凄く心配した。何処を探しても美琴を見つけられなくてっ、スマホへ掛けても美琴は出ないしまさかここにいたとは……でも、よかったっ、お前が無事で本当に良かったっっ!!」
「龍……太郎、ごめ、ごめんね。心配かけてごめん、なさい〰〰〰〰っっ」
美琴は背後よりしっかりと龍太郎に抱き締められたまま鮮やかで美しい夕日を見つめる形で、子供の様に泣いて謝っていた。
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