71 / 75
第四章 夏の嵐
9 柾Side
しおりを挟む
目覚めた柾はベッドより少し離れた窓から見える雲一つない真っ青な空を静かに見つめていた。
今頃きっと美琴は龍とデートを楽しんでいるのかな。
龍はある意味めっちゃ律義な性格をしている。
これは僕と龍以外知らない事だけれども、龍は美琴とのデートプランや彼女との関わりについて逐一報告してくれているんだ。
まるで僕が龍の身体となって美琴と楽しげにデートをしているかのようにね。
因みに今日は海〇館でデートをして、それからクルージングをして隣に併設されているマーケットでショッピングをする。
優しい美琴はそこで多分……いや必ずだな、僕を含めて皆のお土産をどれにしようかとめっちゃ悩んで、その美琴の隣で龍太郎は表面上は然も面倒臭そうな仏頂面で何でもいいから勝手に選べばいいと言う様相をしているんやけれど、でもあいつの内心はそんな些細な時間でさえもめっちゃ幸せなんだろうな。
相手は何と言ってもこの世の可愛いを全て具現化した様な美琴なんだ。
美琴の一挙手一投足、大きな口を開けて欠伸をしていようが涎を垂らしてだらしなく寝ていようとも俺達にとってはどの様な、どんな姿であってもそれが美琴であれば全ては至福の瞬間なんだよな。
僕と龍は正反対な性格の様で実はめっちゃ似ているんだ。
初めて会った瞬間から趣味嗜好、それと愛する存在までも笑えないくらい同じなんだよ。
でも僕は龍太郎の気持ちを知っても尚美琴を龍太郎へと譲る気持ち等微塵もなく、それどころか美琴を好き過ぎるだけに龍の気持ちを無視した形で堂々と職場やそれ以外でも僕は美琴への愛の深さを朗々と高らかに語っていた。
流石に美琴のいる前では絶対に表情には出していないと思う……多分ね。
そしてそんな愚かな僕はそれを全て毎回壊れた玩具の様な僕から聞かされる龍太郎の切ない気持ちまで気づく事は一切なかったんだ。
だから僕は思う。
これはもし神様が本当に要るとすれば、これは愚かで自分本位な僕に下された罰なんだってね。
昔……もう十何年前になるだろう。
あの桜の花弁の舞い踊る中で見た光景を僕は最期まできっと忘れはしない。
ねぇ龍……出逢いに早いも遅いも関係はないんだと、僕はこの時になって初めてそう思うんだ。
こんな風に考えられるのは僕自身めっちゃ吃驚している。
でもね龍、本当に今僕は心の底から幸せなんだと思うよ。
身体はこの通りもう使い物にならないところまで来ているし、痛みも持続神経ブロックで大分ましなんだけれどもそれでも痛いものはやはり痛いな。
だけど不思議と心はめっちゃ凪いだ海の様に穏やかになってきている。
これってもしかして僕は心から死と言うモノを受け入れ始めているのかもしれない。
ふふ、あんなに死を、美琴の傍から離れるのを嫌がっていたのにね。
今はそれすらも仕方がないなぁって思えるんだよ。
日本へ、美琴の許へ戻って二ヶ月――――。
美琴と直接接したのは最初だけ。
うん初めはもっと、なんかもうめっちゃ美琴を何でもいいからめちゃくちゃにしてしまいたい衝動とそれでも近い将来僕のいない世界での美琴の幸せを、そして迫りくる死への恐怖で可笑しくなりそうだった僕はほんの少しでも長く生きていたいと、美琴の笑顔をもっと近くで見ていたいと縋りつくような心で生きていたんだ。
あれは……あの時は本当に狂気に晒されていたと思ったよ。
僕自身が思うんだから間違いはないな。
それから周平叔父さんと母さん。
二人は昔通り帰国する前と何も変わってはいない。
いや、やっぱり何も違う。
周平叔父さんも母さんも僕と美琴に何もないよと言う体を装い装いつつも、きっと僕達の見えないところで悲しみに耐えているんだ。
周平叔父さんは僕の父さんと周平叔父さんの唯一の存在でもある琴ちゃんを、母さんも同様に掛け替えのない存在を既に亡くしていると言うのに今度は僕なんだよね。
どうか僕がいなくなった後二人の悲しみが少しでも軽いものとなれますように、こればかりは本当に祈るしかないな。
幼い頃より二人にはめっちゃ可愛がられたな。
特に父さんを失って以降は周平叔父さんが父親として厳しくも優しさと愛に溢れていたし、母さんは勿論だけれど途中から琴ちゃんも実の母親の様に、そうだ、僕には二人の母さんがいたんだよな。
二人の父さんと二人の母さん。
ひょっとしなくても僕は美琴以上に幸せだったのかも……。
そして七海……。
君はこの二ヶ月でめっちゃ変わったね。
君程の美人な女性がなんで半分以上死んでいる僕の傍で今もこうして付き添ってくれているんだろう。
まあ答えは君に聞かなくても……。
「七海……有難う、な」
「ど、どうしたの柾……ど、何処かしんどい? 痛みが強くなったの? 呼吸もしずらく――――っっ⁉」
「僕の心は救いようのない、くらい、美琴への愛で満たされ、て、いる。でも――――こんな、この役に立たない身体、でいいのなら……君に、七海に、あげるよ……ほんとに、申し訳ない、けれど……ね」
そう、こんな僕へ献身的な愛を注いでくれる七海には本当に申し訳ない気持ちで一杯だけれども、一杯情けないかな……今の僕に残されたのはこんなボロボロの身体しかないんだ。
それでも七海がいいと言ってくれれば……。
「う、嬉、嬉しい。凄く嬉しい……よ、本当にいいの? 最期まで……ううん、ずっと柾の傍にいて、いいの?」
馬鹿だな七海は……。
本当に底なしのお馬鹿さんだよ君は……。
こんな死にぞこないの何処がいいのか……それでも――――。
「うん、七海が良ければ……ね」
「ま、柾っっ!!」
七海は僕の名前を叫ぶと色々点滴のルートやチューブ類を注意、そこは流石医師だなって思う。
それ等を注意しながら、そして僕の身体をそっと抱き締めて泣いていた。
そして僕は七海を思う様に慰める動作も何も出来ないまま、ただ幸せってこんなところにもまだまだあるのだと、気づけば一筋の涙を流していた。
またこんな時でも美琴への愛は変わる事はないんだ。
ごめんね七海……。
今頃きっと美琴は龍とデートを楽しんでいるのかな。
龍はある意味めっちゃ律義な性格をしている。
これは僕と龍以外知らない事だけれども、龍は美琴とのデートプランや彼女との関わりについて逐一報告してくれているんだ。
まるで僕が龍の身体となって美琴と楽しげにデートをしているかのようにね。
因みに今日は海〇館でデートをして、それからクルージングをして隣に併設されているマーケットでショッピングをする。
優しい美琴はそこで多分……いや必ずだな、僕を含めて皆のお土産をどれにしようかとめっちゃ悩んで、その美琴の隣で龍太郎は表面上は然も面倒臭そうな仏頂面で何でもいいから勝手に選べばいいと言う様相をしているんやけれど、でもあいつの内心はそんな些細な時間でさえもめっちゃ幸せなんだろうな。
相手は何と言ってもこの世の可愛いを全て具現化した様な美琴なんだ。
美琴の一挙手一投足、大きな口を開けて欠伸をしていようが涎を垂らしてだらしなく寝ていようとも俺達にとってはどの様な、どんな姿であってもそれが美琴であれば全ては至福の瞬間なんだよな。
僕と龍は正反対な性格の様で実はめっちゃ似ているんだ。
初めて会った瞬間から趣味嗜好、それと愛する存在までも笑えないくらい同じなんだよ。
でも僕は龍太郎の気持ちを知っても尚美琴を龍太郎へと譲る気持ち等微塵もなく、それどころか美琴を好き過ぎるだけに龍の気持ちを無視した形で堂々と職場やそれ以外でも僕は美琴への愛の深さを朗々と高らかに語っていた。
流石に美琴のいる前では絶対に表情には出していないと思う……多分ね。
そしてそんな愚かな僕はそれを全て毎回壊れた玩具の様な僕から聞かされる龍太郎の切ない気持ちまで気づく事は一切なかったんだ。
だから僕は思う。
これはもし神様が本当に要るとすれば、これは愚かで自分本位な僕に下された罰なんだってね。
昔……もう十何年前になるだろう。
あの桜の花弁の舞い踊る中で見た光景を僕は最期まできっと忘れはしない。
ねぇ龍……出逢いに早いも遅いも関係はないんだと、僕はこの時になって初めてそう思うんだ。
こんな風に考えられるのは僕自身めっちゃ吃驚している。
でもね龍、本当に今僕は心の底から幸せなんだと思うよ。
身体はこの通りもう使い物にならないところまで来ているし、痛みも持続神経ブロックで大分ましなんだけれどもそれでも痛いものはやはり痛いな。
だけど不思議と心はめっちゃ凪いだ海の様に穏やかになってきている。
これってもしかして僕は心から死と言うモノを受け入れ始めているのかもしれない。
ふふ、あんなに死を、美琴の傍から離れるのを嫌がっていたのにね。
今はそれすらも仕方がないなぁって思えるんだよ。
日本へ、美琴の許へ戻って二ヶ月――――。
美琴と直接接したのは最初だけ。
うん初めはもっと、なんかもうめっちゃ美琴を何でもいいからめちゃくちゃにしてしまいたい衝動とそれでも近い将来僕のいない世界での美琴の幸せを、そして迫りくる死への恐怖で可笑しくなりそうだった僕はほんの少しでも長く生きていたいと、美琴の笑顔をもっと近くで見ていたいと縋りつくような心で生きていたんだ。
あれは……あの時は本当に狂気に晒されていたと思ったよ。
僕自身が思うんだから間違いはないな。
それから周平叔父さんと母さん。
二人は昔通り帰国する前と何も変わってはいない。
いや、やっぱり何も違う。
周平叔父さんも母さんも僕と美琴に何もないよと言う体を装い装いつつも、きっと僕達の見えないところで悲しみに耐えているんだ。
周平叔父さんは僕の父さんと周平叔父さんの唯一の存在でもある琴ちゃんを、母さんも同様に掛け替えのない存在を既に亡くしていると言うのに今度は僕なんだよね。
どうか僕がいなくなった後二人の悲しみが少しでも軽いものとなれますように、こればかりは本当に祈るしかないな。
幼い頃より二人にはめっちゃ可愛がられたな。
特に父さんを失って以降は周平叔父さんが父親として厳しくも優しさと愛に溢れていたし、母さんは勿論だけれど途中から琴ちゃんも実の母親の様に、そうだ、僕には二人の母さんがいたんだよな。
二人の父さんと二人の母さん。
ひょっとしなくても僕は美琴以上に幸せだったのかも……。
そして七海……。
君はこの二ヶ月でめっちゃ変わったね。
君程の美人な女性がなんで半分以上死んでいる僕の傍で今もこうして付き添ってくれているんだろう。
まあ答えは君に聞かなくても……。
「七海……有難う、な」
「ど、どうしたの柾……ど、何処かしんどい? 痛みが強くなったの? 呼吸もしずらく――――っっ⁉」
「僕の心は救いようのない、くらい、美琴への愛で満たされ、て、いる。でも――――こんな、この役に立たない身体、でいいのなら……君に、七海に、あげるよ……ほんとに、申し訳ない、けれど……ね」
そう、こんな僕へ献身的な愛を注いでくれる七海には本当に申し訳ない気持ちで一杯だけれども、一杯情けないかな……今の僕に残されたのはこんなボロボロの身体しかないんだ。
それでも七海がいいと言ってくれれば……。
「う、嬉、嬉しい。凄く嬉しい……よ、本当にいいの? 最期まで……ううん、ずっと柾の傍にいて、いいの?」
馬鹿だな七海は……。
本当に底なしのお馬鹿さんだよ君は……。
こんな死にぞこないの何処がいいのか……それでも――――。
「うん、七海が良ければ……ね」
「ま、柾っっ!!」
七海は僕の名前を叫ぶと色々点滴のルートやチューブ類を注意、そこは流石医師だなって思う。
それ等を注意しながら、そして僕の身体をそっと抱き締めて泣いていた。
そして僕は七海を思う様に慰める動作も何も出来ないまま、ただ幸せってこんなところにもまだまだあるのだと、気づけば一筋の涙を流していた。
またこんな時でも美琴への愛は変わる事はないんだ。
ごめんね七海……。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨
悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。
会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。
(霊など、ファンタジー要素を含みます)
安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き
相沢 悠斗 心春の幼馴染
上宮 伊織 神社の息子
テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。
最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる