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第四章  夏の嵐

2  美琴Side

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「ん……で、相変わらずなん?」

 私の対面へ座りめっちゃ嬉しそうに開いたお弁当を見てほくそ笑む様な表情をしながら真凜は、私を一切見る事無くぽつりと呟く。
 一方私はと言えばはちみつ梅干しの入ったおにぎりへ一口嚙り付く。

「ふん、変わらずや」
「ふーん、おじさんはどんな反応なん?」

 真凜はアルト〇イエルンのタコさんウィンナーを頭から嚙り付いた。

 むぎゅむぎゅ。

「うーん、なんか微妙……かな」
「微妙って?」
「うん、めっちゃ微妙。二ヶ月前あんなにはっきり言いきったパパと今のパパがほんまに同一人物なんか―って本気で思うくらい微妙やで。ま、実の娘やからそこはまあ疑わへんけれどね」

 私は曖昧に返事を返せば、次にほうれん草とキノコの煮浸しへと箸を進める。
 醤油ベースの、その季節にお買い得なキノコを数種類入れて煮たお出汁に、固く絞りキッチンペーパでしっかりと水気を切った茹でたほうれん草との和え物が、私は大好物なのである。

 まあこれは余談だけれどもほうれん草が高い時には水菜や三つ葉、要はお買い得な葉物野菜があればいいのである。
 それにしても私はまだ18歳なのに、ここまで主婦になりきってしまい今一若さが足りないと言われても反論なんて一つも出来ないよね。

 だって、実際にお買い得な食材ってめっちゃ魅力的なんやもん。


「それはそうとあん時は時めっちゃ大変やったなぁ。私は今でもよう忘れられへんわ。うん、実際他人さんの、しかもあんたのキスシーンを見る日が来るなんてしか考えられへんかったのに、それもさあんなめっちゃ小説家漫画の主人公みたいなスパダリ相手なんて――――」
「ちょっとその話を蒸し返さんといてやっ、めっちゃ気分が悪うなるさかいっっ」

 私は思わず真凜の言葉へと被せる様に反論する。
 あれは今思い出しても私の人生唯一の黒歴史……唯一⁇

 うーんぶっちゃけてと言うか、今現在進行形で私の黒歴史は続いていると言ってもいいのかもしれない。

 だってあいつは、片岡龍太郎はいまだに私に何故か執着をしている……のだ。

 理由はわからない――――と言うか、私自身是が非ともその理由を知りたい……様な知ってしまいたくない様な様めっちゃ微妙なモノなのだ。

 私は自分で言って悲しいくらい容姿は平々凡々。
 スタイル――――は敢えて訊かないで欲しい。
 家で同居中の七海さんと目の前で私の作ったお弁当へ美味しそうに食らいついている真凜は容姿も然る事ながら芸能人だと言っても十分通るくらいの立派なスタイルをお持ちですよ。
 
 美人な上にボン・キュ・ボンな身体なんてめっちゃ羨ま~です。
 
 それに引き換え私ははっきり言ってザ・日本人……いやいやお子様体型。
 でも胸は小振りだけれど形は悪くない……そう、自分では思ってはいるんだけれどなぁ。
 そう私みたいな容姿と体型なんて世の中にはめっちゃいるのに何で片岡さんは私へ拘るのだろうか。

「まあ多少強引な所はあるけれど、柾さんが推さはるくらいええ男なんやろ?」

 真凜は野沢菜のお漬物の葉っぱで巻いた一口サイズのおにぎりを口の中へと放り込む。

「う、うん、確かに外科医としても腕がいいってパパがめっちゃ褒めていたよ」

 直接には聞いてはいない。
 ただ同じ家の中だから偶然聞こえてしまっただけ。

「で、でも私は絶対にあんな荒唐無稽な話なんて、今でも絶対に受け入れへんって言うか、受け入れたくないよ」
「せやな……美琴はずっと柾さんを好きやったもんな。でもうちは柾さんも美琴の事を好きやと思ってたんやけどなぁ」

 私の心眼がちょっと曇ったんやろか……何て言いつつ真凜は、最後まで取っておいたミニハンバーグへと箸を進めた。

 それはもう瞳を幼子の様にキラ付かせて――――だっっ。

 私はと言えばまんじりともせず、はてさてこの先どうなっていくのだろうかと、何故か自分の未来未来の事なのに何故かめっちゃ憂いを感じてしまう。

 その原因は……そう今から二ヶ月前、柾兄が帰国したあの日の柾兄による爆弾宣言も問題っちゃ問題なのは否定しない。

 でもその問題を大問題へと発展したのは私のプチ過ぎる家出をした日なのだっっ。

 今現在我が家には私とパパ、そして柾兄宅には柾兄と七海さんと美咲伯母さんからの片岡さん。
 部屋としては一応離れてはいるのだけれどもっ、リビングで繋がっている時点で一つの大きな家での共同生活と何ら変わりがない。

 まあ言ってみれば某アニメのサ〇エさん一家的な状態である。

 ここで突っ込みを入れるとすれば私がワ〇メで、片岡さんはカ〇オかな?
 あー何変なところでほのぼのとしているんだろうっっ。

 第一あいつと私は敵同士!!

 決して慣れ合う事のない間柄。
 そう絶対に慣れ合ったりはしない!!

 私は最後にデザートの苺を口に放り込みガシガシと、決して可愛らしい苺さんには罪はない――――けれどもこの収まりようのない怒りを、悪いと思いつつ苺さんへとぶち当てる事にした。
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