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第三章 もう一つの春
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「龍に七海までっっ⁉」
突如現れた二人の存在に驚きを隠せないのは柾と周平の二人。
でもそんな二人に構う事なく龍太郎と七海は普通に部屋の中へと入っていく。
「芝居をするにしても先生と柾の二人だけでは役者は足りないでしょう」
「う……む確かに」
唸り声をあげたのは周平だ。
確かに指摘される通り美琴へ完璧に柾の病気を隠すならば役者は多い方がいい。
そしてその役者となるには確実に秘密を保持出来る者達でなければいけない。
「君達は今ここへ勤めているんだろう? 病気の柾と違い君達には仕事が、多くの患者さんが待っているだろう」
周平の至極真っ当な返しを受けた二人だが……。
「「問題はありません」」
綺麗に声を揃えて即座に否定した。
「いや問題はって……」
「先生、私は二ヶ月前既に帰国をする旨を病院側へ伝えております。私の関わった患者さんへの引継ぎはとっくにもう終えているんです。後は柾と一緒に帰国するだけですよ」
そう明るく答えたのは七海だった。
「それに……美琴ちゃんを騙すのならば女の私がいた方がいいでしょ。立場的にはそうですね、柾の恋人……若しくは婚約者として柾の傍にいれば流石に美琴ちゃんも容易には近づけないでしょう。そしてもう一つは美琴ちゃんに柾への恋心をも同時に諦めさせる事も出来る筈です。余り言いたくはありませんが柾が死んでからではなく生きている間に、美琴ちゃんが柾の死後ちゃんと前を向いて歩いていけるようにする為にも私と言うスケープゴードの存在は必要不可欠だと思います」
「七海……」
何時もよりも一層爽やかに、また清々しく言い放つその言葉の奥底には何が何でも譲らないと決意の漲った言葉でもあった。
「してそこに何のメリットがあるのかな。い、いや君の申し出はとても……そう柾の叔父……いや父親代わり……代わりはしてこの際もうどうでいいな。うん父親としてまた一人の医師として君の、七海君の意思は正直に言ってとても嬉しいものだがそこに君へのメリットは何も……ただの友情で仕事や君の大切な時間を奪うだけの理由にはならないだろう」
周平の言う事は至極最もで、これには柾もしっかりと……いやいや激しく同意した。
確かに心を許した友人には違いない。
そう違いはないけれども……。
「メリットなら十分ありますよ」
「それは何かな?」
ゆっくりと七海は、そして愛おし気に柾を見つめ……。
「私は柾を愛しているんです。ええ勿論これは私の、私だけの片思いでしかないんです。そしてこの役を演じるからと言って柾からの愛を無理に強請ろうなんて事を思っては……まあぶっちゃけて言えば少しは私の事を想ってくれると嬉しいかな~って気持ちはなくもないです。でも私の気持ちを柾へ押し付けるなんて事はしませんよ。柾がどれ程深く美琴ちゃんを愛しているかなんて、それはもう大学時代からずーっと毎日聞かされていましたし、私の想いはきっと柾へ永遠に届く事はないって何処か諦めてもいましたもん。でも、それでもいいんです。譬え愛されなくても形だけでもいい、柾の恋人若しくは婚約者として少しでも傍に居られれば私にとってこれ以上ないくらい幸せな事なんです。だから私に言わせればこれはまたとないメリットありまくりのものなんですよ先生」
「七海……」
「ふふ、到頭言っちゃった。ずーっと言葉にする心算なんてなかったのにね。でも言葉にして言えるのってとっても気持ちいいものなのね。然も公開処刑並みの告白だよ。あぁ龍だけでもすっごく恥ずかしいのにっ、まさかの周平先生の前で告るなんてっ、ついさっきまで想像だにもしなかったわよっっ。うぅっ、思い出しただけでも物凄~く恥ずかしいわっっ。うん、今なら羞恥心で十分死ねるしっ、もう顔と言うか身体中が熱いわよ〰〰〰〰っっ」
七海は笑顔でそう言うと両手でパタパタと自身の顔を扇いでいる。
「七海らしいな」
「ごめん七海……」
ぶふぉと噴き出す龍太郎と七海の優しさに謝らずにはいられない柾に対し七海は龍太郎へは思いっきりデコピンをし、柾には彼の頬をふにっと軽く掴んだ。
不公平だと不服を唱える龍太郎へ七海は――――。
「決まっているじゃない。そんなもの愛情の差よ、差っっ」
龍太郎へ即座に言い返すと次に七海は柾へはっきりと言ったのだ。
「柾は謝らなくていいの。これは私自ら望んだ事よ。私は昔も今も貴方の事を愛している。でもあなたからの愛を強請っている訳じゃあないの。ただお願いだから貴方の最期の瞬間まで最期私を傍に居させて。私はそれだけで十分幸せで、その思い出があればこれから先を生きていけるからっ、だから柾の我儘ではなく私の我儘に少しだけ付き合ってよ。ね、お願い」
「七海それでも僕は……」
「それ以上言わないで。心は皆自由なの。誰を想おうと嫌いであろうが嫌いであろうそれは皆自由なのよ。貴方は最期まで美琴ちゃんを想えばいいし私は貴方を想うだけ。それにね、これ以上ごめんとか言わないでくれる?」
「え、でも……」
「でもじゃあないってっっ。これ以上謝られればその分私の想いを否定されるようで嫌なの。そこは大好きな柾でも許せない。誰にも貴方を想う私の心を否定なんてさせないんだから……ね」
最後はほんの少し目尻に涙滲じませながら七海は言葉を発した。
突如現れた二人の存在に驚きを隠せないのは柾と周平の二人。
でもそんな二人に構う事なく龍太郎と七海は普通に部屋の中へと入っていく。
「芝居をするにしても先生と柾の二人だけでは役者は足りないでしょう」
「う……む確かに」
唸り声をあげたのは周平だ。
確かに指摘される通り美琴へ完璧に柾の病気を隠すならば役者は多い方がいい。
そしてその役者となるには確実に秘密を保持出来る者達でなければいけない。
「君達は今ここへ勤めているんだろう? 病気の柾と違い君達には仕事が、多くの患者さんが待っているだろう」
周平の至極真っ当な返しを受けた二人だが……。
「「問題はありません」」
綺麗に声を揃えて即座に否定した。
「いや問題はって……」
「先生、私は二ヶ月前既に帰国をする旨を病院側へ伝えております。私の関わった患者さんへの引継ぎはとっくにもう終えているんです。後は柾と一緒に帰国するだけですよ」
そう明るく答えたのは七海だった。
「それに……美琴ちゃんを騙すのならば女の私がいた方がいいでしょ。立場的にはそうですね、柾の恋人……若しくは婚約者として柾の傍にいれば流石に美琴ちゃんも容易には近づけないでしょう。そしてもう一つは美琴ちゃんに柾への恋心をも同時に諦めさせる事も出来る筈です。余り言いたくはありませんが柾が死んでからではなく生きている間に、美琴ちゃんが柾の死後ちゃんと前を向いて歩いていけるようにする為にも私と言うスケープゴードの存在は必要不可欠だと思います」
「七海……」
何時もよりも一層爽やかに、また清々しく言い放つその言葉の奥底には何が何でも譲らないと決意の漲った言葉でもあった。
「してそこに何のメリットがあるのかな。い、いや君の申し出はとても……そう柾の叔父……いや父親代わり……代わりはしてこの際もうどうでいいな。うん父親としてまた一人の医師として君の、七海君の意思は正直に言ってとても嬉しいものだがそこに君へのメリットは何も……ただの友情で仕事や君の大切な時間を奪うだけの理由にはならないだろう」
周平の言う事は至極最もで、これには柾もしっかりと……いやいや激しく同意した。
確かに心を許した友人には違いない。
そう違いはないけれども……。
「メリットなら十分ありますよ」
「それは何かな?」
ゆっくりと七海は、そして愛おし気に柾を見つめ……。
「私は柾を愛しているんです。ええ勿論これは私の、私だけの片思いでしかないんです。そしてこの役を演じるからと言って柾からの愛を無理に強請ろうなんて事を思っては……まあぶっちゃけて言えば少しは私の事を想ってくれると嬉しいかな~って気持ちはなくもないです。でも私の気持ちを柾へ押し付けるなんて事はしませんよ。柾がどれ程深く美琴ちゃんを愛しているかなんて、それはもう大学時代からずーっと毎日聞かされていましたし、私の想いはきっと柾へ永遠に届く事はないって何処か諦めてもいましたもん。でも、それでもいいんです。譬え愛されなくても形だけでもいい、柾の恋人若しくは婚約者として少しでも傍に居られれば私にとってこれ以上ないくらい幸せな事なんです。だから私に言わせればこれはまたとないメリットありまくりのものなんですよ先生」
「七海……」
「ふふ、到頭言っちゃった。ずーっと言葉にする心算なんてなかったのにね。でも言葉にして言えるのってとっても気持ちいいものなのね。然も公開処刑並みの告白だよ。あぁ龍だけでもすっごく恥ずかしいのにっ、まさかの周平先生の前で告るなんてっ、ついさっきまで想像だにもしなかったわよっっ。うぅっ、思い出しただけでも物凄~く恥ずかしいわっっ。うん、今なら羞恥心で十分死ねるしっ、もう顔と言うか身体中が熱いわよ〰〰〰〰っっ」
七海は笑顔でそう言うと両手でパタパタと自身の顔を扇いでいる。
「七海らしいな」
「ごめん七海……」
ぶふぉと噴き出す龍太郎と七海の優しさに謝らずにはいられない柾に対し七海は龍太郎へは思いっきりデコピンをし、柾には彼の頬をふにっと軽く掴んだ。
不公平だと不服を唱える龍太郎へ七海は――――。
「決まっているじゃない。そんなもの愛情の差よ、差っっ」
龍太郎へ即座に言い返すと次に七海は柾へはっきりと言ったのだ。
「柾は謝らなくていいの。これは私自ら望んだ事よ。私は昔も今も貴方の事を愛している。でもあなたからの愛を強請っている訳じゃあないの。ただお願いだから貴方の最期の瞬間まで最期私を傍に居させて。私はそれだけで十分幸せで、その思い出があればこれから先を生きていけるからっ、だから柾の我儘ではなく私の我儘に少しだけ付き合ってよ。ね、お願い」
「七海それでも僕は……」
「それ以上言わないで。心は皆自由なの。誰を想おうと嫌いであろうが嫌いであろうそれは皆自由なのよ。貴方は最期まで美琴ちゃんを想えばいいし私は貴方を想うだけ。それにね、これ以上ごめんとか言わないでくれる?」
「え、でも……」
「でもじゃあないってっっ。これ以上謝られればその分私の想いを否定されるようで嫌なの。そこは大好きな柾でも許せない。誰にも貴方を想う私の心を否定なんてさせないんだから……ね」
最後はほんの少し目尻に涙滲じませながら七海は言葉を発した。
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