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第二章 はじまりは春
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しおりを挟む家族揃って……少なくとも美琴にとっては完全な形ではない。
そう美琴の言う家族とは父親の周平と伯母の美咲に柾の三人なのである。
なのに現実にはそこへ柾の婚約者である七海と自称なのかはたまた確定なのかは定かではないのだが、美琴の婚約者としてこの家にいる片岡龍太郎も含まれているのだっっ。
しかし一応家族揃っての夕食の席でそれを声高に異を唱える程美琴はもう子供ではない。
従って今絶賛空気と化した美琴は何とか騙し騙しで胃の中へ納めた茶碗蒸しを食べた後、一人黙々と夕食の片づけをしていた所へ事件は勃発する。
「美琴ちゃん私も手伝うわ」
「――――っっ⁉」
美琴がアイランド型のキッチンで一人黙々と洗い物をしていると、何時の間にか直ぐ隣にいた七海はそう声を掛けてきたのである。
美琴は思わずこの人忍者なん⁉――――等とお馬鹿な事を思ったのは、美琴の隣へ来るまでに一切の気配を感じなかったからなのだ。
だが七海からすれば至って普通に歩いてきたのに過ぎない。
目の前で年下の、然もまだ未成年の少女が一人で夕食の後片付けをしているのだ。
なのに周りの、その中でも一番年齢が近い柾と七海でさえも美琴とは一回りも違う大人なのである。
そんな大人達は食後のお茶を優雅に愉しんだり、TVを見る者もいれば……洗い物を勤しんでいる美琴の一挙手一投足を見逃さない様に凝視している者もいた。
その中で七海は何ともこの不思議な空間に馴染めないのもあり目の前の少女を手伝う事を選択したのだが……。
「だ、大丈夫ですから七海さんはお客様なのですから皆と一緒に座っていて下さいっっ」
「え、でも……」
「い、いえっ、ここは私一人で大丈夫ですからっっ」
頑なに美琴は七海の、キッチンスペースの侵入を拒んだのである。
しかし七海もそれで『じゃあお願いね』と言って引こうとはしなかった。
だからつい言ってしまった。
「あら、いいのよそんなに気を遣わないで。第一柾と結婚すれば苦手な家事もしなきゃだし、今から慣れておくに越したことはないでしょ」
「――――っっ⁉」
そうして知らず知らずキッチンエリアでは戦いのゴング……多分にそれは美琴の一方的なモノなのだが、こうして事件は大きく発展していくのであった。
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