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第一章 回想
9 柾Side Ⅱ
しおりを挟むやがて告別式が終わり、親族達と一緒に火葬場へと向かう。
それから琴ちゃんと最期の別れを済まし彼女が天へと昇って行く間、直ぐには美琴の傍に行けないもどかしさを感じつつも遠方より来た親族と世間話へ曖昧に相槌を打っていると、何時の間にか皆の前より美琴の姿がいなくなっていた。
何処に――――と思っていた時にはもう僕の身体は自然に動いていた。
広いホールを見廻し、トイレやロビーへも探しに行くが美琴の姿は見当たらない。
まさか迷子になっている訳でも……と何気に窓の外を見ると――――いた!!
斎場の裏手よりにある何もない所で一人、美琴が何処を見ている風でもなくその場で静かに佇んでいた。
その姿を捉えると足早に外へと駆け出し、美琴へ近づくにつれて歩みがどんどん速くなる。
後数歩――――と言う所まで近づくと、美琴の身体は微かに震えていた。
本人が気づいているかどうかは知らないが、微かに震え湧き上がる悲しみを必死に耐えている様相だった。
儚げな、そのか細い後ろ姿に僕は何とも言えない気持がせり上がってくるのだが、兎に角今だけはとその想いをゴクンと――――呑み込んで、震えている美琴の両肩へと腕を伸ばしたまでは冷静だったと思うし思いたいっっ。
だがその背後から抱き締めてしまったその瞬間、冷静だった心は見事に霧散し、さっきとは比べようもないくらい胸の奥より甘酸っぱくも熱い想いが込み上げてくるのがもう……止まらない。
それでも悲しむ美琴を想い必死で自制心を総動員させて自分の本能よりも……本能???
あぁいや、感情よりも先ずは美琴を労わりたい気持ちを優先させる。
「――――美琴、よく頑張ったね」
「ま、柾兄……っっ」
「もういいんだよ美琴。もう我慢なんかしなくてもいい」
そう、もう我慢する必要はない。
安心して思いっきり泣いていいんだよ。
だからそんな切なげな表情をしないで……。
心の中で思っていた言葉が美琴に聞こえてしまったのだろうか。
美琴は一層身体を小刻みに震わせ、目に一杯涙を溜めたまま僕の方へと振り返ると、そっと何か窺う様でいて不安げな表情で、濡れた漆黒の睫毛を押し上げると同時に僕へ上目遣いで見つめてきたっっ⁉
「み、美琴……っっ!?」
何と言う破壊力!!
可愛い……何てものじゃあないっっ!!
い、いや、美琴が可愛いのは生まれた瞬間からなのにっ、この何とも形容し難い庇護慾を掻きたてられるのは一体……⁉
「も、もう、我慢……せえへんでもいいの? 泣いてもいい? 叫んでも……いいのっっ!?」
何時もなら悲しい事があればわんわんと大声で子供みたいに泣いていたのに、こうして態々許可を取る程――――美琴は、この三日間必死に我慢していたんだっっ。
「あぁ、我慢しなくてもいいよ美琴っ、昔から美琴の傍には僕がいたやろ?」
そう、君が生まれた瞬間から僕は傍にいた。
なのに肝心な所で大切な美琴を一人きりにしてしまったね。
ごめん美琴……。
「うん、うん、うん……う、ふ、うぇ〰〰〰〰っっ」
そうして美琴は何度も僕の腕の中で頷きながら漸く声をあげて泣く事が出来た。
どんなに我慢していたんだろう、いや、我慢させてしまっていたのかっっ。
こんなに細くて小さく可愛い存在が、母親という大きな存在を失って三日間とはいえ、泣く事も感情をぶつける事も出来ないくらい大きな悲しみに呑まれながらも頑張って耐えていた事実に僕は眩暈を覚えた。
もっと早く、そう一刻も早く美琴の悲しみを取り除く……いや、取り除くなんておこがましい。
琴ちゃんと言う存在の代わりなんて誰にも出来ないけれどもっ、君が抱える大きな悲しみを少しでも僕が一緒に抱える事が出来るのであれば……!?
はっ、あ、いや、今僕は――――っっ!?
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