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第二章 はじまりは春
1 桜舞う思ひ出 美琴Side
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あれは幾つの頃だったのかな。
あの時の私はまだほんの幼い子供で、ひらひらと舞い落ちる桜の花弁と一人で戯れていたの。
普通一般的な桜の花弁は薄桃色なのに、何故か私の記憶の中にある桜の花弁は真っ白で、私を包む風に揺られるまま……気の向くままに花弁は美しくも儚く空を舞っていた。
美しくも儚くそんな花弁を見て幼い私はきっと楽しかったのかもしれない。
自由に風に乗って何時の間にか私自身もそんな花弁と一緒に宙を舞っているかのような錯覚へと陥っていた……らしい。
このあたりの記憶はめっちゃ曖昧なのに何処か忘れ難く、ずっと記憶の中で刻まれていた。
ふふ、今にして思えば人間の子供が花弁と一緒に大空を舞うなんて出来ないのにね。
でもあの頃の私は出来ていたの。
勿論空想の中で……よ。
うん、でも当然の事ながら人間の、然も幼い子供の行動範囲には確実に限界はある訳で、それもあっけない程にね。
私は重力へ引き寄せられるままにベちゃん――――と勢いよくその場で転んだよ。
おまけに見事なくらいに泥んこになってね。
それまで夢の世界の住人若しくは妖精のお姫様みたいな気持になっていたと言うのに転倒したと同時にしっかりと、それももういっそ清々しい程に現実へと戻ってしまって、もう悲しいやら悔しくて転んで怪我をした膝小僧はズキズキと地味に痛むじゃない。
それに加えてズキズキと痛む膝小僧を見ればじんわりと赤い血が滲んでいるのを見てしまえば――――もう感情の爆発は直ぐ目の前だった。
また先程までお友達だった桜の花弁はじわじわと溢れる涙で滲んで綺麗に見えなくて、大好きなパパもママもだけじゃないっっ。
私の傍には誰もいなくてそれがめっちゃ悲しくて寂しくて心細くて……そんな時だった。
「…………お姫様?」
「お、お姫様じゃないもん。お姫様はこんなに悲しくも傷だらけじゃないもん。みことは桜のはなびらさんに嫌われたんだもん」
少し頬を膨らませて私はきっと……いやいやこれは確実に八つ当たりをしていたのだと思う。
でもそんな私をふわりと軽やかに抱き上げ、優し気に微笑む姿はまるで物語の王子様がそのまま現れたのだと思ったの。
「君は十分お姫様だ……よ」
「ほんと?」
「うん本当だよ。笑顔の可愛いお姫様さ」
それからその後の事はよく覚えてはいない。
だってこの後直ぐに私は抱き締められたやや高めの体温に、何とも言えない心地よさを感じたと同時にすっかり安心してしまったのだと思う。
わんわんと思い存分泣いた後には待っていましたとばかりに心地よい睡魔へ包まれて眠ったらしい。
目が覚めた時にはママと柾兄が傍にいて私の手を握っていてくれたの。
だからきっと私の王子さまは柾兄なのだと確信した。
だって柾兄は何時も優しくて温かい心を持った完璧な王子様なんだもの。
それからの私は何時もおまじないの様に柾兄へ抱き着いたと同時によく言っていたっけ。
何時かみことが大きくなったら、みことは柾兄のお嫁さんでお姫様になるの。
そして柾兄はみことの王子様でお婿さんになるの。
約束だよ。
ぜーったい忘れちゃダメだからね‼
そう言うと何時も柾兄は少しはにかんだような笑みを湛え――――。
「いつか……ね。美琴がもっと大きくなったらね」
私はずっと信じて疑わなかったの。
柾兄は私だけの王子様なんだって何があってもきっと私を迎えに来てくれると信じていた。
あの瞬間まで――――。
初恋は実らない。
そんな事……一体誰が最初に言ったのかなって言うかしっかり当たったじゃない。
信じたくないのにしっかりと現実を突き付けてくるなんて――――酷い。
酷いよ柾兄。
それも私がどんなに背伸びしても敵いっこない女性を連れてくるなんて……。
でもこの時の私はその見せつけられた現実に隠された真実にはほんの少しも気づく事もなかった。
もし――――気づいていれば……ううん、きっとそれでも運命は変わらなかったと思う。
そしてそんな見せつけられた現実に打ちのめされた私の前には、あの頃と同じ桜の花弁が今も変わらず風に乗って舞い踊っていた。
あの時の私はまだほんの幼い子供で、ひらひらと舞い落ちる桜の花弁と一人で戯れていたの。
普通一般的な桜の花弁は薄桃色なのに、何故か私の記憶の中にある桜の花弁は真っ白で、私を包む風に揺られるまま……気の向くままに花弁は美しくも儚く空を舞っていた。
美しくも儚くそんな花弁を見て幼い私はきっと楽しかったのかもしれない。
自由に風に乗って何時の間にか私自身もそんな花弁と一緒に宙を舞っているかのような錯覚へと陥っていた……らしい。
このあたりの記憶はめっちゃ曖昧なのに何処か忘れ難く、ずっと記憶の中で刻まれていた。
ふふ、今にして思えば人間の子供が花弁と一緒に大空を舞うなんて出来ないのにね。
でもあの頃の私は出来ていたの。
勿論空想の中で……よ。
うん、でも当然の事ながら人間の、然も幼い子供の行動範囲には確実に限界はある訳で、それもあっけない程にね。
私は重力へ引き寄せられるままにベちゃん――――と勢いよくその場で転んだよ。
おまけに見事なくらいに泥んこになってね。
それまで夢の世界の住人若しくは妖精のお姫様みたいな気持になっていたと言うのに転倒したと同時にしっかりと、それももういっそ清々しい程に現実へと戻ってしまって、もう悲しいやら悔しくて転んで怪我をした膝小僧はズキズキと地味に痛むじゃない。
それに加えてズキズキと痛む膝小僧を見ればじんわりと赤い血が滲んでいるのを見てしまえば――――もう感情の爆発は直ぐ目の前だった。
また先程までお友達だった桜の花弁はじわじわと溢れる涙で滲んで綺麗に見えなくて、大好きなパパもママもだけじゃないっっ。
私の傍には誰もいなくてそれがめっちゃ悲しくて寂しくて心細くて……そんな時だった。
「…………お姫様?」
「お、お姫様じゃないもん。お姫様はこんなに悲しくも傷だらけじゃないもん。みことは桜のはなびらさんに嫌われたんだもん」
少し頬を膨らませて私はきっと……いやいやこれは確実に八つ当たりをしていたのだと思う。
でもそんな私をふわりと軽やかに抱き上げ、優し気に微笑む姿はまるで物語の王子様がそのまま現れたのだと思ったの。
「君は十分お姫様だ……よ」
「ほんと?」
「うん本当だよ。笑顔の可愛いお姫様さ」
それからその後の事はよく覚えてはいない。
だってこの後直ぐに私は抱き締められたやや高めの体温に、何とも言えない心地よさを感じたと同時にすっかり安心してしまったのだと思う。
わんわんと思い存分泣いた後には待っていましたとばかりに心地よい睡魔へ包まれて眠ったらしい。
目が覚めた時にはママと柾兄が傍にいて私の手を握っていてくれたの。
だからきっと私の王子さまは柾兄なのだと確信した。
だって柾兄は何時も優しくて温かい心を持った完璧な王子様なんだもの。
それからの私は何時もおまじないの様に柾兄へ抱き着いたと同時によく言っていたっけ。
何時かみことが大きくなったら、みことは柾兄のお嫁さんでお姫様になるの。
そして柾兄はみことの王子様でお婿さんになるの。
約束だよ。
ぜーったい忘れちゃダメだからね‼
そう言うと何時も柾兄は少しはにかんだような笑みを湛え――――。
「いつか……ね。美琴がもっと大きくなったらね」
私はずっと信じて疑わなかったの。
柾兄は私だけの王子様なんだって何があってもきっと私を迎えに来てくれると信じていた。
あの瞬間まで――――。
初恋は実らない。
そんな事……一体誰が最初に言ったのかなって言うかしっかり当たったじゃない。
信じたくないのにしっかりと現実を突き付けてくるなんて――――酷い。
酷いよ柾兄。
それも私がどんなに背伸びしても敵いっこない女性を連れてくるなんて……。
でもこの時の私はその見せつけられた現実に隠された真実にはほんの少しも気づく事もなかった。
もし――――気づいていれば……ううん、きっとそれでも運命は変わらなかったと思う。
そしてそんな見せつけられた現実に打ちのめされた私の前には、あの頃と同じ桜の花弁が今も変わらず風に乗って舞い踊っていた。
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