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番外編
番外編 アイザックの苦い過去 16
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「初めてお目に掛かります、旦那様……」
クラウディアと再会した時にも思ったのだがカリナ自身もかなり痩せている――――いや、まだましになったのかもしれない。
1年間この屋敷で栄養も管理されてきたのだから……。
それでもまだまだ痩せ細った身体を屈めて彼女はアイザックへ深々と礼をするが彼は直ぐにソファーへ腰を掛ける様に促す。
そう、まだ回復したと言っても弱々しい身体なのだ。
ヨルムはそんなカリナの腰を支えてゆっくりと彼女を座らせ、自身もその隣へと腰を掛ける。
「申し訳ありません旦那様……」
カリナは本当に申し訳なさげにアイザックへ謝罪をするが彼はそんな彼女へ向かって柔らかく微笑んで言う。
「いやいや謝らなくてもいいよ、無理を承知で頼んだのは私だからね。ほら、それよりあなたのをこれ以上苛めたりするとあなたの横にいる番犬が今にも私に噛みつきそうだからね」
「まぁ……」
「――――私は犬ですか?」
普段ならば絶対に無表情を崩さないヨルムが、ややムスッとした表情で言い返す彼にアイザックは笑いながら「どうみても凶暴犬だな」と負けずに言う。
そう、この1年カリナを愛し支えたのはヨルムだった。
アイザックには出来ない事をヨルムは最初こそ同情より始まった想いが、何時しか2人の間に穏やかで揺るぎのない愛情へと変わっていったのである。
ヨルム自身も愛情というものと縁遠い人生だったのだが、37歳となり漸く激しい恋情ではないにせよカリナと接していく間に温かく穏やかな愛を育んでいたのだ。
彼女もまた穢れた身体を持つ者として彼へ惹かれる気持ちをひた隠し、また彼よりの愛情を頑なに拒んでいたのだが、ヨルムが自身の過去を彼女に打ち明け「身体が穢れているのはお互い様だ」と言って笑ってくれたのを機に彼女は徐々に彼へ心を開いていったのだ。
勿論アイザックはこの事を知っていた。
ヨルムより報告も受けていたし、何より2人には幸せになって欲しかったのだ。
半年前――――ヨルムよりカリナを伴侶として娶りたいとアイザックは相談を受けていたのだ。
アイザックにとってヨルムという存在は単なる執事ではない。
彼の中で家族と呼べる唯一の存在ともなってしまったのだ。
血の繋がり等なくとも父が心を許した相手なのだ。
そしてアイザック自身も兄の様に昔から慕っていた。
だから――――。
カリナを説き伏せて妻に出来たのならこの思い出深い愛するクラウディアの眠る別邸を彼らの新居にと譲る約束をしていたのだ。
そう、今やこの別邸の主はアイザックではなくヨルム夫妻なのだ。
自分は愛するディアと生涯を共にする事を叶わなかったが、せめて彼らには幸せになってもらいたいと願ったのだ。
そして今日訪問したのはヨルムの妻となったカリナの幸せそうな姿を見に来たのもあるが、彼女の了承を得て彼女がこれまで体験した事を夫であるヨルムによって間違いないか裏付け調査の結果と、夫だけでなくアイザックにも伝える事があるとカリナが申し出た事なのであった。
「辛ければ無理に話さなくともいいよカリナ……」
訊き出したい気持ちを抑えてアイザックは彼女の心を第一だと配慮する。
だがそんな思い遣る気持ちを察してカリナは重い口を開いたのだ。
「大丈夫です旦那様、ここには彼もいますので……」
「カリナ……」
ヨルムはカリナの手をしっかり握るとカリナは深く深呼吸をして話し始めた。
それはアイザックの知らなかった10年前の話だ――――。
クラウディアと再会した時にも思ったのだがカリナ自身もかなり痩せている――――いや、まだましになったのかもしれない。
1年間この屋敷で栄養も管理されてきたのだから……。
それでもまだまだ痩せ細った身体を屈めて彼女はアイザックへ深々と礼をするが彼は直ぐにソファーへ腰を掛ける様に促す。
そう、まだ回復したと言っても弱々しい身体なのだ。
ヨルムはそんなカリナの腰を支えてゆっくりと彼女を座らせ、自身もその隣へと腰を掛ける。
「申し訳ありません旦那様……」
カリナは本当に申し訳なさげにアイザックへ謝罪をするが彼はそんな彼女へ向かって柔らかく微笑んで言う。
「いやいや謝らなくてもいいよ、無理を承知で頼んだのは私だからね。ほら、それよりあなたのをこれ以上苛めたりするとあなたの横にいる番犬が今にも私に噛みつきそうだからね」
「まぁ……」
「――――私は犬ですか?」
普段ならば絶対に無表情を崩さないヨルムが、ややムスッとした表情で言い返す彼にアイザックは笑いながら「どうみても凶暴犬だな」と負けずに言う。
そう、この1年カリナを愛し支えたのはヨルムだった。
アイザックには出来ない事をヨルムは最初こそ同情より始まった想いが、何時しか2人の間に穏やかで揺るぎのない愛情へと変わっていったのである。
ヨルム自身も愛情というものと縁遠い人生だったのだが、37歳となり漸く激しい恋情ではないにせよカリナと接していく間に温かく穏やかな愛を育んでいたのだ。
彼女もまた穢れた身体を持つ者として彼へ惹かれる気持ちをひた隠し、また彼よりの愛情を頑なに拒んでいたのだが、ヨルムが自身の過去を彼女に打ち明け「身体が穢れているのはお互い様だ」と言って笑ってくれたのを機に彼女は徐々に彼へ心を開いていったのだ。
勿論アイザックはこの事を知っていた。
ヨルムより報告も受けていたし、何より2人には幸せになって欲しかったのだ。
半年前――――ヨルムよりカリナを伴侶として娶りたいとアイザックは相談を受けていたのだ。
アイザックにとってヨルムという存在は単なる執事ではない。
彼の中で家族と呼べる唯一の存在ともなってしまったのだ。
血の繋がり等なくとも父が心を許した相手なのだ。
そしてアイザック自身も兄の様に昔から慕っていた。
だから――――。
カリナを説き伏せて妻に出来たのならこの思い出深い愛するクラウディアの眠る別邸を彼らの新居にと譲る約束をしていたのだ。
そう、今やこの別邸の主はアイザックではなくヨルム夫妻なのだ。
自分は愛するディアと生涯を共にする事を叶わなかったが、せめて彼らには幸せになってもらいたいと願ったのだ。
そして今日訪問したのはヨルムの妻となったカリナの幸せそうな姿を見に来たのもあるが、彼女の了承を得て彼女がこれまで体験した事を夫であるヨルムによって間違いないか裏付け調査の結果と、夫だけでなくアイザックにも伝える事があるとカリナが申し出た事なのであった。
「辛ければ無理に話さなくともいいよカリナ……」
訊き出したい気持ちを抑えてアイザックは彼女の心を第一だと配慮する。
だがそんな思い遣る気持ちを察してカリナは重い口を開いたのだ。
「大丈夫です旦那様、ここには彼もいますので……」
「カリナ……」
ヨルムはカリナの手をしっかり握るとカリナは深く深呼吸をして話し始めた。
それはアイザックの知らなかった10年前の話だ――――。
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