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第二部 序章
昔語り 中編
しおりを挟む創造主クレアーレが長い時を経て焦がれる様に望んでいただろう楽園は、今まさに幸せの絶頂期であった。
そして彼より創り出された楽園での幸せは何時までも……いや永遠に続くものだと、それはクレアーレだけではなく勿論彼の妻神であるエヴァンジェリン、それに楽園に住む者皆が何一つ疑う事無く信じていた。
しかしそれは……悲しいかな永遠に続くものではなかったのだ。
始まりがあれば終わりもまたある。
どの様に素晴らしい文明であろうとも、発達し円熟した先に待っているのは終焉。
ただそれが静かに終えられるのか、はたまた激動の内に終わってしまうのかは定かではない。
その対象が人間であろうが、世界を造りし神であろうともその運命より逃れられる術はない。
何故なら数多ある運命を強靭な心で以って見守る神ミルヴァ、またの名を時空の番人とも呼ばれるている者が常に見張っているのだ。
そして彼の女神の心に例外は――――ない。
とある日、1人の人間の男が何時もの様に神殿で祭事を行っていたエヴァンジェリンの許へ音もなく静かに近づいていったのだ。
その男に気付いたエヴァンジェリンは何時もの様に優しく微笑んで迎え入れた。
元々クレアーレもだが特にエヴァンジェリンは神と人間、いやこの世に存在する生きとし生ける物達に対し分け隔てなく愛情を注ぎ、また心易く皆へ接していたのだがしかしその男は違ったのだ。
じりじりとエヴァンジェリンへと近づく人間の男は明らかに彼女へ崇拝によるものではなく、明らかな恋情、劣情を抱いていた。
その想いは神である乙女をひっそりと静かに見つめ続けるだけでもいいと言う可愛いらしいモノではなく、あわよくば神の座より引き摺り下ろし、たおやかで甘く芳しい、マシュマロの様に柔らかそうな身体を力で以って余す事無く蹂躙したいという欲望をありありと滲ませていた。
だがそんな禍々しい欲望を孕んだ男に全く気づかず無垢な心を持つエヴァンジェリンは、ごく普通に慈しむべき人間として自身の傍近くにいる事を許したのだがしかし――――邪な想いを抱く男の存在を、彼女の夫でもある創造主クレアーレが気付かない筈はなかったのだ。
そう、この世界に置いてクレアーレは創造主なのである。
クレアーレ自身より創られたのがこの世界とそこに住まう者達。
だから邪な想い等、特にクレアーレ自身がその命と同等……運命の半身なんて言葉で表現する以上に愛してやまないエヴァンジェリンに対してなのだっっ。
誰よりも何よりも容易に察知出来たと共に、激しく動揺する自身の心へ驚愕するばかりであった。
それはクレアーレ自身今迄に決して抱く事のなかった新たな感情。
また妻であるエヴァンジェリンをこよなく愛していたからこそ、芽生えた想いの一つでもあったのだ。
そう常に平等を旨としていたクレアーレの心の内に芽生えたのは、どす黒い焔が己が身の内を激しく焼き焦がしていく醜い嫉妬。
エヴァンジェリンを、自身の半身を愛し過ぎていた故にクレアーレは神であるのにも拘らず、己の感情を容易に御す事が出来なかったのだ。
だから醜くも激しい嫉妬心を抱き、燃え盛る焔へ自身の心を焼かれながらクレアーレは本能の赴くまま、愛する妻の前で一瞬の躊躇いもなく男の命を奪ってしまった。
それを見せつけられたエヴァンジェリンはショックを受け、クレアーレの制止を振り払うと彼の創った楽園より出て、そこより遠く北にある閉ざされた地へと彼女はその身を隠してしまった。
エヴァンジェリンの心は余りにも無垢過ぎたのだ。
彼女を生み出しそして乞われるままにクレアーレの妻となり、彼を愛すると同時に崇拝もしていたのだ。
完璧な神として君臨するクレアーレを尊敬し、また自身も常にそうあるべきだと己を厳しく律していた。
エヴァンジェリンは心の底よりクレアーレを絶対的なまでに信じていたのだ。
クレアーレの教えこそがエヴァンジェリンにとっての全てであり、生きて行く為の指標。
だがそう信じきっていた創造主が何故に愛し慈しむべき脆弱なる存在を、その命を奪ってしまった。
然もその理由は完全なる私怨によるものなのだっっ。
その事実がどうしてもエヴァンジェリンには理解出来なかったのと同時に――――許せなかった。
エヴァンジェリンにとって今まで信じていた存在に裏切られたと言ってもいい。
だから……エヴァンジェリンはクレアーレの許より一先ず離れるしかなかった。
遠くまだ何もない北の大地でひっそりと、ゆっくりと時が流れるのを静かに見守る事で、何かしら答えが出るかもしれないと彼女は思い至ったのだろう。
だが現実はそう甘くはない。
そして当然の様に異変は起こった!!
そう、世界の終焉へと向かって……。
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