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第一部 第二章 (1)過去2年半前
14 フィオ視点
しおりを挟むふぅ、今日は何か疲れてしまった。
お仕事が忙しいのは今更ではない。
戻ると――――マックスの診療所へ復職すると決めたあの時……。
あの宿屋でマックスとお話しして確かに彼の言いたい事もわかる、いえ正確には想像でしかわからない。
何故なら私は戦争というものを体験した事がない。
確かにルガートへ来てから何度か戦場へ赴く騎士達と、その中にはきっと陛下もいらっしゃった筈……。
でもその時の私はこの離宮より一歩も外の世界へ出られなかった。
いいえ、外へ行こうとすれば隠し通路より容易に出られたにも拘らず私の心と身体がそれを拒否していたわ。
本当に情けないけれども15歳になるまで私は自分自身でこの離宮という小さな世界に閉じ込められていると思う事で自分を生かしていた。
そうして徐々に外へ出て少しずつだけれど私の世界は広がっていった。
故国にいた頃とは全く違う私というエヴァンジェリンを知る事も出来たし、働く喜び、そしてアナベル以外の人と触れ合う楽しさも知ったわ。
マックスと出会って診療所で働いていなければ多分……いえきっと今の私はここにこうしていなかったでしょうね。
病気や怪我でやってくる患者さんと触れ合えていたからこそ、私は自分とも向き合えた。
それにマックスとも……。
そ、それにそうよっ、第一あんなに破格のお給金が頂けるなんてっっ!!
週3日だけで65000ルトよっ!!
お買い物をしながら求人広告を見てわかったのは普通その半額が相場みたい。
だからアナベルの食堂にしても破格と言っていいのに、診療所はそれを上回る金額なの!!
然も食材費込みだから今は85000ルトを頂いている。
でもね、ここだけの話なのだけれど……お野菜等大半は菜園で賄えているし、お肉もアナベルの分を入れてもお店のおじさんがおまけしてくれるから1ヶ月で10000ルトも遣わないの。
うふふ……だからその余った分はちゃんと臍繰りしていますっっ。
でも本当はね、一時退職の原因となったあの出来事でマックスやこの国の人々の心に触れて遣る瀬無いの想いと申し訳なさが綯い交ぜ状態となり、私はまだまだ何も分かってないお子様なのだと言う事が十分にわかったの。
それに私だけならば構わないけれど、もし彼らの怒りの矛先がアナベルへ向けられたらそれこそ今まで尽くしてくれた彼女に申し訳なさ過ぎる。
彼女は確かに強いけれど……強いからこそ自分が倒れるまで彼女は私を護るでしょう。
私は何としてでも私を護ろうとしてくれるアナベルを護りたい。
あぁ勿論物理的に敵わないのは十分わかってはいる。
そう、私が言いたいのは彼女の精神的負担を少なくしたいの。
何時までも護られているだけの子供ではないのだと、だからアナベルにも彼女の幸せを見つけて欲しいのだと私は願っている。
それにしても今回の逃亡はとても残念な結果だったわ。
まさか私が体調を崩すなんて考えてもみなかったのですもの。
それにしても何故あんなに急に眠くなったのかしらね?
やはり疲れと緊張もあったのかしらん。
でも改めて診療所でのお仕事は私には合っているみたい。
マックスも謝罪してくれたし、何と言っても復職の決定打はお給料アップ。
10000ルト――――ふふ、今月より上乗せしてくれるらしい。
そう、だから今月より85000ルトというお給金を頂けるのよね。
正直なところお給料アップがなければ流石に躊躇ってしまうのは否めないけれども、やはり生活する上でお金はなくてはならないもの。
これで後2年と3カ月で――――約束(一方的な)10年になる。
それまでにこの分だとしっかり蓄えも出来るわ。
今度こそ最初に決めた10年を務めあげて私達は自由を勝ち取るのよっっ!!
それにね、現実的に考えればお金は必要なもの。
だから私は大人としての答えを出したのよ。
何時までもお子様ではないわ。
だから一々気に入らない事でまぁ多少は落ち込む事もあるけれども、それでも高給取りに徹する方が脱出後の生活が楽になるもの。
そうよっ、働く限りお給金の低い所よりも高い方が良いと私は思い至ったの。
だから復職を決意したわ。
アナベルに相談しても文句は言わせなかったわ。
そうよ、私はこれからキリキリと働いて自由の為の資金を――――と思っていた時に今日のアレはなんだったの??
燃える様な紅い髪の騎士は……。
然も行き成り来て惚れたって何の事??
おまけに『惚れたから結婚して欲しい』ってなに??
普通は物語に出てくる王子様達は、『姫、愛しています。どうか私と結婚をして下さい』と言うものでしょう??
第一『惚れた』と言う意味がわからない。
それに王子様じゃないし……。
物語の様にドキドキもないし……。
筋骨隆々と言うのもなんだかね。
なのに如何して結婚に至るのかがわからない。
まぁわからなかったから『御用のない方はどうぞお引き取り下さい』って言ってしまったけれど仕方ない。
だって私はまだ恋なんてした事もないし、この先どうなのかもわからない。
それに一応……そう、一応なのだけれど私は既婚者ですものね。
う~ん何にしても実感がないわ。
ふぁ~もう考えるのも疲れてしまったのでそろそろ休みます。
では、お休みなさい……。
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