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第一話 突き付けられた現実と…… 後編
アリスカフェへようこそ
しおりを挟む私は周りもよく見ず勢いのまま城内を駈け出し、そして気がつくとそこは城門だった。
昨日はあんなの駆けずり回って出られなかったというのに、こうしてみるば案外と簡単に出られるものなんだなって思ったりもする。
しかしそう困ったコトと言えばやはりですね、周囲を見回してみても黒髪に黒い瞳の人って全くと言っていい程見当たらない。
このままでは昨日みたく簡単に捕獲されるがオチ……だ。
そんな時、ふと目の前を見ると城門近くに隠れるに持ってこいの小さな小部屋があった。
だからして私は……。
「お邪魔しま~す」
一応お断りの挨拶をして中へと入る。
う~ん何か変装に目ぼしいモノをと物色していく。
ラッキーだったのはその部屋に誰もいないコトと、フード付きのカーキ―グリーンの外套があったコトの2点だ。
私は即座にそれを手に取り羽織ってみる。
ちょっとぶかぶかとして大きいけれど、でもだからこそこれはこれで好都合というモノだ。
ドレスも見えないし、何より顔も隠れている。
そうしてちょっとううん、かなりドキドキしながら城門を無事通過し、城下町への階段をルンルン気分で下りていく。
お城と城下町まではかなり高低差があり、その道行きは螺旋状の階段となっていて、私はそれを軽快に降りて行った。
偶に空を見上げると色んな種類のドラゴンが飛び交っている。
めっちゃシュールな光景。
でもこの世界ではそれが普通で、ドラゴンでの移動が当り前。
皆空でドラゴンの移動が主な手段だから、こんな風に地味に階段を使用する者のコトなんて関知していないみたい。
まぁね、それだからこそ小娘1人の脱走も目立たなかったのかもしれない。
街へ降りるとそこはめっちゃ活気が溢れていた。
ほんとに色んなお店がある。
露店で野菜等を売っていたり、パン屋さんや武器屋さんってもう冒険ものの世界じゃね?
見た所ヨーロッパの古い街並みを思わせるけれど、でもかなり賑わっていますね。
こうして見ているだけでも心が自然とウキウキしてしまう。
自分の置かれた状況を考えると、とてもそんな場合でないのは確かなのに……。
もう元の世界へ帰れないって言われたのも十分ショックだったけれど、それにもましてエディーとは法律で決められた形ばかりの婚約だと言われたコトの方がショックだったっていうのは一体何なのだろう。
彼がめっちゃイケメンだから……?
それとも今までのコトが全部義務からによるものだったから……?
あ゛あ゛〰〰〰〰〰〰また更に気が滅入ってきた。
私は両手を広げて大きく深呼吸をする――――と、目の前に『従業員大募集』という張り紙を見つけてしまった。
【アリスカフェ】
ピンク色の屋根にアイボリーの壁で出来たぶりっぶりの可愛いカフェだ。
この世界でもカフェがある――――っ、へへ、思わず感動しましたね。
そうね、エディーから逃げ出したんだから、それで以って元の世界へ帰れないのであるならば、これから自分で働いて稼がなければならない。
だとしたらこれは天のお導きかな~んて、無神論者の私でも思ってしまったくらいのタイミングの良いコト。
だから私は迷わずそのカフェへと入って行った。
カラ~ン
「あの~求人広告見たんですけど……」
「おう、早速効果ありですね。僕は店長のマイロ・キルディス・ロゼフフィーダと言うんだ」
「あっ、私は愛美と言います、初めま……っっ!?」
絶句……という表現が正しいかもしれないです。
名前を告げて彼の顔を見た瞬間――――彼の頭にはわんこの、そうビーグル系のふさふさの生耳が生えていたですから……。
だけど彼は何も気にしていない様子だし、お店のお客さんもそんな彼に気安く話し掛けている。
だとするとここはそういう色んなコトありの世界なんだというコトで、それでも心の中ではめっちゃ吃驚状態だけれど、出来るだけ表情には出さないように努めてみせた。
「愛美ちゃんか、珍しい名前だね?」
「そっ、そうですか、でっ、ではここでは雇って貰えないのでしょうか?」
マイロさんはふと一瞬考え込むと「いいよ、採用ね」って明るく言ってくれました。
そしてお店を放ってそのまま奥の部屋へ連れて行かれましたよ。
「ちょっとその格好ではお仕事出来ないからね、この服に着替えて、ぁ……とエプロンはこれね。それと……髪は結い上げてこのキャップを被るといいよ。後はこの眼鏡、これは魔法が掛っていて、かけると青い瞳になるという優れモノ。じゃあ用意出来たらお店に来てね」
そう言ってお店に戻ろうとするマイロさんに、思わず私は叫んでしまいました。
「如何して? 私のコト分かっているんですよね?」
マイロさんは振り返り、そして笑顔で言ってくれました。
「貴女は異界から来た聖女様でしょう? もう周囲では有名ですよ、それでもこうしてお城から抜けて来られたって言うのならきっと何か訳があるんでしょう。だったらここで働いて、少し落ち着いて物事を考えてみるのも一興ではないでしょうか?」
「あ、ありがとう御座いますっっ」
めっちゃ嬉しかった。
ちょっとした気遣い、でもそれがとても嬉しくて泣きそうになる。
そんな私を置いてマイロさんは、『お店があるからね~』って言ってその部屋を後にした。
私は心がじんわりと温かくなって少し涙ぐんでしまったけれど、取り敢えず青のふんわりとしたわんとした膝下くらいのドレスを着て、それから白いフリルのエプロンをつけて、後言われた通り髪の毛を簡単に結い上げ、キャップの中にぐいっと詰め込んだ。
そして眼鏡を掛ければ――――朝倉 愛美でない、ただの愛美の出来上がり……だ。
気分を切り替えてお店へと向かう。
「アリスカフェへようこそ、愛美ちゃん」
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