134 / 322
夏休みのあれこれの巻
第126話 夏休みと言えば補習……んなわけない!
しおりを挟む合宿が終わって、本格的に夏休みが始まった。
夏休みといえども冒険者科。やることは多い。
具体的には補習とか。
「やることが……やることが多い」
「プロテインが……プロテインが多い」
うつろな目で蓮がカレーパンを食べている。
その隣で聖弥くんは本日2杯目のプロテインを飲んでいた。
「人生の中で、こんなにプロテイン飲む事があるなんて思ってなかったよ」
ノンフレーバーのプロテインを一気飲みする聖弥くんは、ちょっとしかめっ面だ。フレーバー物が得意じゃないんだってさ。
「俺はもうそれは慣れた」
蓮のプロテインはバナナ味だ。鉄板の味だよね。
ユズーズブートキャンプが始まったときから飲んでるから、確かに蓮はもう慣れてる。
「あーあ。夏休みになったらヤマトと遊びまくろうと思ってたのに、蓮たちだけじゃなくて私まで補習だなんてー」
私もついついぼやきつつ、コンビーフとチーズのホットサンドをパクり。うん、塩味が効いてて美味しい。運動したときに食べたくなる味。
今はただの補習であるので、蓮と聖弥くんは割とみっちり授業があるけど、私は特別プログラムなんだよね。
具体的に言うと、片桐先生と安達先生のお説教……じゃなかった、講義をひとりで聴いて、刀をメインに使ってる技術教官の先生と実技の練習だ。
「柳川は強いし成績もいいから、本当だったらこういう補習は必要ないんだけどさ」
今朝呼び出されて学校に来たら、木刀で自分の肩を叩きながら、面倒そうに安達先生が説明をしてくれた。ジャージ姿の安達先生の横で、片桐先生はいつもと同じワイシャツとスラックスだ。性格でてるなあ。
「Y quartet……つまり、柳川と安永と由井はちょっと特別すぎる。経験の積み重ねもなしに装備品の効果で一足飛びに強さを手に入れちゃってるからな。ステータスに比べて、実戦経験が少ない」
「安永はまだいいんだ。柳川に一度魔法当ててるし、フレンドリーファイアー蓮なんて不名誉なあだ名も付いてる。あいつは装備品で補正が付いた強さと、素の自分の強さを切り分けて考えてて、運用が慎重だ。こういうタイプはある意味安全」
「由井はまだ何もかも身につけてる途中だから、意識の刷り込みも今からできる。つまり問題は、元から強かった上にアホみたいなステ補正が付いちゃった……」
「私ですかァ? まさか私が3人の中で一番問題なんですか!?」
安達先生と片桐先生に交互に話し掛けられ、とどめに「おまえが一番問題」と言われ、まさかの言葉に仰け反りましたね!
こう言っちゃなんだけど、私クラスの中でも問題ない方だと思ってたし、Y quartetの中では飛び抜けて問題ないと思ってた!
自分では、だけどね……。
「俺たちは普段の授業見てないけど、話は他の先生から聞いてる。フル装備の状態で間近で戦いを見たのも俺と片桐先生だしな」
「その上で、柳川の担任の大泉先生とも相談して、早めにやっとかないとってことになったんだ」
「あの……どういうところが問題なんですか?」
恐る恐る尋ねてみると、私の前の先生ふたりは、ぴったり口を揃えた。
「強すぎるところが問題」
つまり、こうだ。蓮はフル装備の自分と、素の自分の切り分けができてる。だからオンオフができて、ダンジョンでの行動という一点に限ってみると一番危なげない。
聖弥くんはまだまだ全然ダメ。でも本人も「知らない」って自覚がある。自然と行動は慎重になるし、レア湧きの時の行動は一貫してリーダーの指示通りに動いていた。あいちゃんを激怒させた件なんか、「慎重すぎる行動」が引き起こしたわけだしね。
私問題ないじゃん? ダンジョンでも危ない行動とかしてないよ? と思ったら。
「普通の高校1年生は、この時期にエルダーキメラを真っ二つにしない」と安達先生に突っ込まれた。
それのどこが問題に!? と食い下がったら、私は素のステータスでできることの延長線上に、あの「エルダーキメラを真っ二つにする」が来ちゃってるのが問題なんだという。
「私だって真っ二つにするとは思ってませんでした。全力で斬りかかったら切れちゃっただけで」
「ほらそこ。素のステータスでも取れる行動が、フル装備をしたときにどこまでの効果があるかを把握し切れてないんだ。今回はたまたま勝ったから良かったけど、敵の防御力が見た目で判断できる以上にあったり、HPが異様に高かったりとかで倒し損ねたときがまずい」
「というわけで柳川への課題は、中級以降に出現するモンスターの知識を徹底的に覚えることと、フル装備で村雨丸を振って、どのくらいの攻撃力があるのかを自分の体で覚えてもらうことだ」
「うぐぅ……」
確かに、村雨丸は実際にあまり使ってない。大山阿夫利ダンジョンでデストードを倒した時と、大涌谷ダンジョンに行ったとき、後は合宿のレア湧きで救助に行ったとき。――本当に少ないな!
結局、午前は座学を2時間受けた後、村雨丸でいろんな物を切らされた。丸太やタイヤはともかくとして、メシャってなってる車とかあったけど、どこから持ってきたんだろうなあ。
補習一日目の感想として、私はちょっとヤバいと気づいてしまった。
だって、車が切れるんだもん。それは私がヤバいんじゃなくて、村雨丸がヤバいんだけどね。
実技教官の先生と打ち合いもしたけど、ここでもちょっとまずいと気づいてしまった。
どうも私の刀の振るい方は、太刀に向いてないみたいなんだ……。
14
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜
田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。
謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった!
異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?
地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる