109 / 122
ハロンズ編
104 ミマヤ商会始動
しおりを挟む
「俺たち、何をしに来たんだっけ……」
カエレ、と冷たい声と共に頭から紅茶を掛けられて。それでもヒャッハーしているデュークさんを見ながら、俺は思わず呟いてしまった。
一瞬の沈黙が降りて、はっとソニアが振り返る。
「完全に飲み込まれてたわ! テントよ、テント!」
「そうだった……ソニア、ありがとう」
「ハハハ、僕としたことが面白すぎて見入ってしまったよ」
いや、いつも教授はそうじゃないのかな。
「アンギルド長、実は以前からテントの改良を進めていまして、今回完成しましたのでご覧いただきたいのですが」
「テント? 俺も見るー! 見せてー!」
「おまえは帰れ。ジョーにネージュまで送ってもらえ」
「紅茶も滴るいい男のままじゃ帰れないよー」
アンギルド長よりデュークさんの方が食いついた。この人は紅茶を掛けられたというのに自重ということをしないんだな……ルイがこの場にいなくてよかった。いたら胃をキリキリさせてそうだ。なんか教授がふたりいるみたいに思えるし。
訓練場の一角を借りて、俺はテント一式を並べた。
蜘蛛の糸で織ったテント本体、ジョイント式のミスリルポール、それと、8個のペグ。
「布の上部にポールを通す紐がついています。まずポールを組み立てて、その紐に通してみてください」
「ほう、随分大きいな」
感心しているアンギルド長の目の前で、デュークさんがサクサクとポールを組み立て始めた。2本のポールが組み上がったところで1本を紐に通し、2本目は真ん中で一度止めてもらう。
「はい、そこまで来たらテントを持ち上げます。形が出来上がってから、今手に持ってるポールをここの部分に差し込んで固定してください」
「おーっ! 面白いねー! しかも軽い。これならパーティーにひとつでいいし、持ち運ぶのも楽だよ」
「テントの入り口面以外には、テントを地面に固定するための布がついています。この釘のようなものをそこに打ち込んで、地面としっかり固定してください」
木槌をデュークさんに渡して、ペグを固定してもらう。軽いというのはとても有利なんだけどそれだけ風に弱いということでもあるので、固定する場所は若干増やしてある。
テントがしっかり地面に固定されたところで、俺は周囲の土を空間魔法で収納して排水のための溝を作った。
これでテントの完成だ。
「教授、《突風》を」
教授に《突風》を掛けてもらい、強風にテントが耐えるのを確認する。テントは激しく揺れてはいたけれど、8個のペグのおかげで飛ばされることはなかった。更にアンギルド長とデュークさんには中に入ってもらい、その広さと快適さを確認してもらう。
「《水生成》」
俺が頼まなくても勝手に教授が水を掛けてくれた。盛大に水がかかるけど、中から「おおおおー!」って楽しそうな声がして、ふたりにもこの布の防水性能は実感してもらえたみたいだ。
「いや、素晴らしい。まさに革新的なテントだ。これならば雨に濡れる心配もなく、冷たい風に震えることもない。遠方に出る冒険者の健康面に多大なる影響が出るだろう」
「……俺気付いちゃったんだけど、このポールってミスリルだよね? これ一個いくら?」
「……原価で最低25万マギルです。ちなみに布はアラクネの糸を使って織りました。ケルボに行った時に途中の村でアラクネと知り合って、友好的なアラクネなので協力してもらったんです」
「ミスリルのポールにアラクネの糸の布ー!? いやー、ジョーくん凄いことを考えるねえ!」
いや、素材については教授の発案だけどね……。
デュークさんは仰け反って驚いているけど、アンギルド長は眉をぴくりと上げただけだった。リアクションの差が凄い。
「1パーティーにひとつとはいかないな。高価すぎる。これを持てるパーティーはごく限られてくる」
「はい、それも承知しています。その上でお願いがあって来ました。――ギルドに窓口を作って、このテントを貸し出しできないでしょうか。買うのは無理でも、使いたいときだけそれほど高くない金額を出して借りるのならできるかと思うんです。ご覧の通りパーティーにひとつで済みますし、ミスリルは強度があって錆びないので長持ちします。10年掛かって元手が取れるくらいでも構わないんです」
「もし、この高価なテントを持ち逃げする馬鹿が出たら?」
「貸し出すときに署名をしてもらって、返却できないときの罰則を書いておくのはどうでしょうか」
「ふむ。……ミスリルということに気付くかどうかもわからないしな。高ランク冒険者にならないとミスリル製の製品には手が届かないから、持ち逃げが心配な低ランク冒険者にはそもそもこのテントの価値がわかりづらいということもある。高価な理由をミスリルではなくアラクネの糸で織った布ということで説明すれば、それで納得もされるだろう。個数は用意できるのか?」
「半月以内に後10個できる予定です。その先も、需要によっては増産します。蜘蛛の糸で布を織る事業はソニアが出資して続ける予定でいますので」
「そうか、まあ、最初はそのくらいでいいだろう。評判というのは徐々に上がっていくものだ。――ドミニク!」
手を叩いてアンギルド長が人を呼んだ。その声に応えて、窓口にいつもいる男性職員がやってくる。
「ジョーのテント貸し出し事業を認める。ギルド内に窓口を作って貸し出し業務をするといい。細かいことはドミニクと相談するように。他に用件はあるか?」
「いえ、今日はこの報告で来ました。ありがとうございます!」
ギルド長に認めてもらえた! 教授が笑顔で拍手してくれて、ソニアがよかったわねと言って俺の肩に手を置いた。
「ああ、それとひとつ頼みがある。ドミニクとの打ち合わせが終わってからでいいから、この馬鹿をネージュまで送って欲しい」
「わお! 伝説の移動魔法だね? 預けてある荷物を取ってくるよ!」
分厚いハンカチで簡単に頭を拭いたデュークさんは、そう言って飛び出していく。宿かどこかに荷物を置いてあるのかな。
そして、ソニアと教授は家に戻り、俺はドミニクさんとテント貸出窓口についての相談をすることになった。
なお、商業ギルドに登録した屋号は「ミマヤ商会」だ。何のひねりもないけど、思いつかなかったんだからしょうがない。これは会社名であって店名は好きに付けていいらしいから、ギルドでの店名は「テント屋」とかにしようと思う。ミマヤはこっちの人にとって発音しづらいだろうし。
「25万マギルのテントですか……狂ってますね」
書類をいろいろと並べながらドミニクさんは力の抜けた声で呟く。うん、俺もその点については予想外になったから、同意しかできない。
「素材についてはレッドモンド教授のアイディアなんですよ。軽くて錆びず、しなりもある金属と言ったらこれだろう、って」
「ああ、あの人ですか……あの人金銭に頓着なさそうだからとんでもないこと言い出しますよね」
「わかります……わかります」
「価格をどうするか考えましょう。前金として一定の金額を先に受け取り、残りは後から払うのはどうでしょう。報酬で払えるとなると幾分借りやすくなるかと思いますが」
ドミニクさんは冒険者ギルドの依頼一覧を見ながら話している。これを見るとだいたいどの程度の依頼に何日かかったかがわかるのだ。凄く良い資料を持ってるなー。
「それがいいですね。まず使って良さをわかって欲しいんです。蝋引きの布で雨や夜露を防ぐだけのテントは快適とはほど遠いですから。……あ、そうだ。友達のパーティーに一度無料で使ってもらって、使った感想を聞いてみます」
「それはいいですね。あとは、一定期間値下げをするという手もありますよ」
おおお、それは確かにいい。お試し期間って奴だ。安く使ってみて快適さが癖になったら、元に戻れないだろうな。
「いいアイディアだと思います。ドミニクさんに全部お任せしたいです……」
「私はギルド職員ですから、窓口設置までしかお手伝いしませんよ。窓口に常駐させる店員はそちらで用意してくださいね。ジョーさん自身は冒険者だから毎日いるわけにはいかないでしょう?」
ああ、そういう問題もあるなあ。商業ギルドに求人を出すか……。ネージュのクエリー商会かオーサカのオールマン商会に相談に行ってもいいな。
ドミニクさんの提案で、ギルドでは場所を用意して出店許可を出すけども、貸し出しの金額などについてはミマヤ商会の方で相談して決めるようにということになった。
なんだか凄く商業っぽいことになってきたぞ。
とりあえず、テントの数が揃ってから本格的に出店すればいい。今日はデュークさんをネージュに送っていって、その後でティモシーたちにテントを貸し出そう。
荷物と馬を取ってきたデュークさんとギルド前で合流し、ネージュの冒険者ギルド前に移動した。
馬はポールに繋いで、ふたりで久々にネージュの冒険者ギルドに足を踏み入れる。
「やっほー! ただいまー! 帰ってきたよー」
ギルド長の軽い挨拶に、ある人は何だこいつという目を向け、ある人はぎょっとしていた。そして、奥の扉がバン! と凄い勢いで開いてエリクさんが飛び出してくる。
「デューク! よく帰ってきたなあ! ……とでも言うと思ったか!? この野郎この野郎! 放蕩ギルド長め!! 俺の恨み思い知れ!」
「ぐっ、ぐえええ」
こめかみに青筋を立てたエリクさんが、デュークさんの首を絞めている……。
どうしよう、これは放っておくべきなのかな、止めるべきなのかな。
「あの、エリクさん、お久しぶりです」
そろりそろりと挨拶してみる。俺に気付いたエリクさんはぽいっとデュークさんを床に捨てた。扱いが酷い。
「ジョーじゃないか! ん? デュークはもしかしてジョーに送ってもらったのか?」
「そうだよう! 大陸を回って魔物被害の現状を調べてきて、本部のアン様に報告したところにジョーくんたちが来たんだ。とりあえず、近々ウォカムでまた大猪の大規模討伐やるから。今度はちゃんと俺が指揮するからさあ」
「何っ!? そんなに増えてるのか? おかしいだろう」
「大陸規模で魔物が増えてるんだって。ロキャット湖のヒュドラもサーシャちゃんやジョーくんたちが3頭倒したけどまだいるって聞いたよ」
「何が起こってるんだ……だが、ジョーがいるならちょうどいい。大規模討伐の時にパーティーごと一度戻ってきて手伝ってくれ。ジョーには大猪の運搬も頼みたいしな」
大猪の大規模討伐か! ギルドには悪いけどまた猪肉が大量にゲットできる! それをベーコン工房に回せばいいからウハウハだな。今度はハムも作ろう!
……とか考えてる俺は暢気すぎだろか。それとも食欲に負けてるんだろうか。
カエレ、と冷たい声と共に頭から紅茶を掛けられて。それでもヒャッハーしているデュークさんを見ながら、俺は思わず呟いてしまった。
一瞬の沈黙が降りて、はっとソニアが振り返る。
「完全に飲み込まれてたわ! テントよ、テント!」
「そうだった……ソニア、ありがとう」
「ハハハ、僕としたことが面白すぎて見入ってしまったよ」
いや、いつも教授はそうじゃないのかな。
「アンギルド長、実は以前からテントの改良を進めていまして、今回完成しましたのでご覧いただきたいのですが」
「テント? 俺も見るー! 見せてー!」
「おまえは帰れ。ジョーにネージュまで送ってもらえ」
「紅茶も滴るいい男のままじゃ帰れないよー」
アンギルド長よりデュークさんの方が食いついた。この人は紅茶を掛けられたというのに自重ということをしないんだな……ルイがこの場にいなくてよかった。いたら胃をキリキリさせてそうだ。なんか教授がふたりいるみたいに思えるし。
訓練場の一角を借りて、俺はテント一式を並べた。
蜘蛛の糸で織ったテント本体、ジョイント式のミスリルポール、それと、8個のペグ。
「布の上部にポールを通す紐がついています。まずポールを組み立てて、その紐に通してみてください」
「ほう、随分大きいな」
感心しているアンギルド長の目の前で、デュークさんがサクサクとポールを組み立て始めた。2本のポールが組み上がったところで1本を紐に通し、2本目は真ん中で一度止めてもらう。
「はい、そこまで来たらテントを持ち上げます。形が出来上がってから、今手に持ってるポールをここの部分に差し込んで固定してください」
「おーっ! 面白いねー! しかも軽い。これならパーティーにひとつでいいし、持ち運ぶのも楽だよ」
「テントの入り口面以外には、テントを地面に固定するための布がついています。この釘のようなものをそこに打ち込んで、地面としっかり固定してください」
木槌をデュークさんに渡して、ペグを固定してもらう。軽いというのはとても有利なんだけどそれだけ風に弱いということでもあるので、固定する場所は若干増やしてある。
テントがしっかり地面に固定されたところで、俺は周囲の土を空間魔法で収納して排水のための溝を作った。
これでテントの完成だ。
「教授、《突風》を」
教授に《突風》を掛けてもらい、強風にテントが耐えるのを確認する。テントは激しく揺れてはいたけれど、8個のペグのおかげで飛ばされることはなかった。更にアンギルド長とデュークさんには中に入ってもらい、その広さと快適さを確認してもらう。
「《水生成》」
俺が頼まなくても勝手に教授が水を掛けてくれた。盛大に水がかかるけど、中から「おおおおー!」って楽しそうな声がして、ふたりにもこの布の防水性能は実感してもらえたみたいだ。
「いや、素晴らしい。まさに革新的なテントだ。これならば雨に濡れる心配もなく、冷たい風に震えることもない。遠方に出る冒険者の健康面に多大なる影響が出るだろう」
「……俺気付いちゃったんだけど、このポールってミスリルだよね? これ一個いくら?」
「……原価で最低25万マギルです。ちなみに布はアラクネの糸を使って織りました。ケルボに行った時に途中の村でアラクネと知り合って、友好的なアラクネなので協力してもらったんです」
「ミスリルのポールにアラクネの糸の布ー!? いやー、ジョーくん凄いことを考えるねえ!」
いや、素材については教授の発案だけどね……。
デュークさんは仰け反って驚いているけど、アンギルド長は眉をぴくりと上げただけだった。リアクションの差が凄い。
「1パーティーにひとつとはいかないな。高価すぎる。これを持てるパーティーはごく限られてくる」
「はい、それも承知しています。その上でお願いがあって来ました。――ギルドに窓口を作って、このテントを貸し出しできないでしょうか。買うのは無理でも、使いたいときだけそれほど高くない金額を出して借りるのならできるかと思うんです。ご覧の通りパーティーにひとつで済みますし、ミスリルは強度があって錆びないので長持ちします。10年掛かって元手が取れるくらいでも構わないんです」
「もし、この高価なテントを持ち逃げする馬鹿が出たら?」
「貸し出すときに署名をしてもらって、返却できないときの罰則を書いておくのはどうでしょうか」
「ふむ。……ミスリルということに気付くかどうかもわからないしな。高ランク冒険者にならないとミスリル製の製品には手が届かないから、持ち逃げが心配な低ランク冒険者にはそもそもこのテントの価値がわかりづらいということもある。高価な理由をミスリルではなくアラクネの糸で織った布ということで説明すれば、それで納得もされるだろう。個数は用意できるのか?」
「半月以内に後10個できる予定です。その先も、需要によっては増産します。蜘蛛の糸で布を織る事業はソニアが出資して続ける予定でいますので」
「そうか、まあ、最初はそのくらいでいいだろう。評判というのは徐々に上がっていくものだ。――ドミニク!」
手を叩いてアンギルド長が人を呼んだ。その声に応えて、窓口にいつもいる男性職員がやってくる。
「ジョーのテント貸し出し事業を認める。ギルド内に窓口を作って貸し出し業務をするといい。細かいことはドミニクと相談するように。他に用件はあるか?」
「いえ、今日はこの報告で来ました。ありがとうございます!」
ギルド長に認めてもらえた! 教授が笑顔で拍手してくれて、ソニアがよかったわねと言って俺の肩に手を置いた。
「ああ、それとひとつ頼みがある。ドミニクとの打ち合わせが終わってからでいいから、この馬鹿をネージュまで送って欲しい」
「わお! 伝説の移動魔法だね? 預けてある荷物を取ってくるよ!」
分厚いハンカチで簡単に頭を拭いたデュークさんは、そう言って飛び出していく。宿かどこかに荷物を置いてあるのかな。
そして、ソニアと教授は家に戻り、俺はドミニクさんとテント貸出窓口についての相談をすることになった。
なお、商業ギルドに登録した屋号は「ミマヤ商会」だ。何のひねりもないけど、思いつかなかったんだからしょうがない。これは会社名であって店名は好きに付けていいらしいから、ギルドでの店名は「テント屋」とかにしようと思う。ミマヤはこっちの人にとって発音しづらいだろうし。
「25万マギルのテントですか……狂ってますね」
書類をいろいろと並べながらドミニクさんは力の抜けた声で呟く。うん、俺もその点については予想外になったから、同意しかできない。
「素材についてはレッドモンド教授のアイディアなんですよ。軽くて錆びず、しなりもある金属と言ったらこれだろう、って」
「ああ、あの人ですか……あの人金銭に頓着なさそうだからとんでもないこと言い出しますよね」
「わかります……わかります」
「価格をどうするか考えましょう。前金として一定の金額を先に受け取り、残りは後から払うのはどうでしょう。報酬で払えるとなると幾分借りやすくなるかと思いますが」
ドミニクさんは冒険者ギルドの依頼一覧を見ながら話している。これを見るとだいたいどの程度の依頼に何日かかったかがわかるのだ。凄く良い資料を持ってるなー。
「それがいいですね。まず使って良さをわかって欲しいんです。蝋引きの布で雨や夜露を防ぐだけのテントは快適とはほど遠いですから。……あ、そうだ。友達のパーティーに一度無料で使ってもらって、使った感想を聞いてみます」
「それはいいですね。あとは、一定期間値下げをするという手もありますよ」
おおお、それは確かにいい。お試し期間って奴だ。安く使ってみて快適さが癖になったら、元に戻れないだろうな。
「いいアイディアだと思います。ドミニクさんに全部お任せしたいです……」
「私はギルド職員ですから、窓口設置までしかお手伝いしませんよ。窓口に常駐させる店員はそちらで用意してくださいね。ジョーさん自身は冒険者だから毎日いるわけにはいかないでしょう?」
ああ、そういう問題もあるなあ。商業ギルドに求人を出すか……。ネージュのクエリー商会かオーサカのオールマン商会に相談に行ってもいいな。
ドミニクさんの提案で、ギルドでは場所を用意して出店許可を出すけども、貸し出しの金額などについてはミマヤ商会の方で相談して決めるようにということになった。
なんだか凄く商業っぽいことになってきたぞ。
とりあえず、テントの数が揃ってから本格的に出店すればいい。今日はデュークさんをネージュに送っていって、その後でティモシーたちにテントを貸し出そう。
荷物と馬を取ってきたデュークさんとギルド前で合流し、ネージュの冒険者ギルド前に移動した。
馬はポールに繋いで、ふたりで久々にネージュの冒険者ギルドに足を踏み入れる。
「やっほー! ただいまー! 帰ってきたよー」
ギルド長の軽い挨拶に、ある人は何だこいつという目を向け、ある人はぎょっとしていた。そして、奥の扉がバン! と凄い勢いで開いてエリクさんが飛び出してくる。
「デューク! よく帰ってきたなあ! ……とでも言うと思ったか!? この野郎この野郎! 放蕩ギルド長め!! 俺の恨み思い知れ!」
「ぐっ、ぐえええ」
こめかみに青筋を立てたエリクさんが、デュークさんの首を絞めている……。
どうしよう、これは放っておくべきなのかな、止めるべきなのかな。
「あの、エリクさん、お久しぶりです」
そろりそろりと挨拶してみる。俺に気付いたエリクさんはぽいっとデュークさんを床に捨てた。扱いが酷い。
「ジョーじゃないか! ん? デュークはもしかしてジョーに送ってもらったのか?」
「そうだよう! 大陸を回って魔物被害の現状を調べてきて、本部のアン様に報告したところにジョーくんたちが来たんだ。とりあえず、近々ウォカムでまた大猪の大規模討伐やるから。今度はちゃんと俺が指揮するからさあ」
「何っ!? そんなに増えてるのか? おかしいだろう」
「大陸規模で魔物が増えてるんだって。ロキャット湖のヒュドラもサーシャちゃんやジョーくんたちが3頭倒したけどまだいるって聞いたよ」
「何が起こってるんだ……だが、ジョーがいるならちょうどいい。大規模討伐の時にパーティーごと一度戻ってきて手伝ってくれ。ジョーには大猪の運搬も頼みたいしな」
大猪の大規模討伐か! ギルドには悪いけどまた猪肉が大量にゲットできる! それをベーコン工房に回せばいいからウハウハだな。今度はハムも作ろう!
……とか考えてる俺は暢気すぎだろか。それとも食欲に負けてるんだろうか。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜
蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。
行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー!
※他サイトにて重複掲載しています
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち
こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。
そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。
そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。
人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。
容赦なく迫ってくるフラグさん。
康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。
なるべく間隔を空けず更新しようと思います!
よかったら、読んでください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる