108 / 122
ハロンズ編
103 見ないと思ってた人が来た
しおりを挟む
今俺たちは、普通に生きてたら使い切れないくらいの金を持っている。
家も持ち家だし、食費は折半だし、贅沢する人もいない。ソニアなんかはちょっとした絵を部屋に飾ったりしているけど、そんなことをしてるのはソニアだけ。
ドレスとか買い漁ったりしないのかなと思って、食事の時に「ソニアはちょっといい服とか買ったりしないの?」と聞いたら、凄く嫌そうに「まだ体型が変わってるから今は買えないわ」と言われた。
「ジョーこそ、サーシャに可愛い服でも買ってあげなさいよ。サーシャなら今更体型変わらないでしょう? なんか私、筋肉がつきやすい体質みたいよ……冒険者やる前とは腕の太さとか体型がいろいろ変わっちゃって」
なるほど、そういうことか。確かにソニアは冒険者になってから日が浅いからなあ。
俺はずっと前からいろんなトレーニングをしてたから、冒険者をしているからといって体型が変わるって事はなかった。最近移動魔法を使うことが増えて、運動不足かな? と思うくらい。
「私はサーシャとジョーが冒険者をしてる限りは、冒険者辞めないわよ」
シチューを食べながら言ったソニアの何気ない、でも結構重い一言に俺とサーシャが息を飲んだ。
「ソニアさん――そんな風に思ってくれてるんですね」
「当たり前じゃない。私を冒険者にしたのはサーシャだし、ふたりがいなかったらまだネージュで借金返済のために地道に貯金してたわ。あなたたちが思ってるより、私があなたたちに感じてる恩は大きいの。実家とも和解できたしね」
「レヴィさんは関係ないんだ?」
「レヴィは……星5スカウトなんて単独でいてもそのうちギルド幹部候補じゃないの? アンギルド長なんかレヴィをすごく買ってるように見えるわ。だから、レヴィが冒険者続けてるかどうかは私の行動に直接関係ないわね」
「意外だなあ」
ソニア、レヴィさんに気があるくせになあ。
そこの切り分けができてるって言うのは、しっかりしてる証拠なんだろうか。
本当に、なんで結婚詐欺に騙されちゃったんだろう……恋は盲目って奴かな、怖いなあ。
俺とソニアはお金の運用を始めるけど、サーシャとレヴィさんにはピンと来ないらしい。このふたりは根っからの冒険者だしな……。ソニアの家は商家だし、「お金は動かしてなんぼ」っていう意識があるみたいだ。
でもサーシャは神殿に寄進しまくってるし、一応お金を動かしてる。レヴィさんは特に使う当てもなく、俺に預けていない分はギルドの口座に入れっぱなしらしい。まあ、多分冒険者でお金に余裕がある人ってそういう人の方が多いんだろうな。
そういえば、ティモシーに聞いた話では黄金の駿馬のピーターは豪遊するタイプらしくて、それはそれで経済を動かしてる……。あそこのパーティー大変そうだな。
テントができた翌日、俺と教授とソニアは連れだって商業ギルドに行って登録をした。
一応登録するときに、どういう内容の商売をする予定なのかを書かされるんだけど、教授はともかく俺とソニアは「蜘蛛の糸で布を織り」って書いちゃったもんだから職員さんがひっくり返っていた……。
実際にテントを出して見せて、「旅の途中で知り合ったアラクネがいて」と説明したら、「アラクネって知り合うものなんですか!?」ってまたひっくり返ってしまった。
教授が「そうだ、レナくんの素性を聞いていないよ。詳しく!」って圧を掛けてきたから、商業ギルドの人もいる前でレナのことを説明することに。
ある村が昔から大蜘蛛に襲われて生け贄を要求されていたこと。
村長は冒険者ギルドに依頼する金を惜しみ、自分の家から生け贄が出ないように操作した上で生け贄を選び、差し出していたこと。
女の子が主に生け贄にされ、100年ほど前にレナが最後に生け贄になったのを最後に大蜘蛛の活動が止まったこと。
そして、大蜘蛛に食われて亡くなった子供たちの意識がずっと大蜘蛛の中に残り続けていて、今それがレナという人格と外見を持ってアラクネという存在に変質したこと――。
「ふむ……どうしてあの村に魔物である彼女があんなにも自然に溶け込んでいるのか不思議だったが、あそこは元々彼女の故郷なんだね」
「はい。村長のアニタさんの祖母の妹がレナだそうです。記録にも残っていますし、お爺さんお婆さんの身内が生け贄になったという話は各家に受け継がれているそうですよ」
「酷い……ぐすっ、お話しですね……ぐしゅっ! アラクネは危険な魔物と聞きますが、案外そういう理由で人間に復讐心を持ってしまった個体が危険なのかもしれませんね。そのレナという子はいい子のようで……ううっ」
職員さんはレナの身の上を聞いて号泣している。
そういえば、レナに初めて会ったとき、いろんな相反する感情を抱えているようだった。村を守りたい気持ちも、憎い気持ちも、恋しい気持ちも。
今それが落ち着いているのは、レナが村で満たされているからだろう。きっと、アラクネの姿でも優しく接してくれたサーシャへの思いも大きいに違いない。
「と言うわけで、レナ自身は人間の心を持ってますし、友好的で協力的なアラクネです。魔物がどのくらい生きるかわかりませんが、レナが生きているうちは蜘蛛の糸の織物は作り続けることができます」
「悲しい話だが、『悲しい話』というだけで終わらせるには問題があるね。ギルドの情報網をもっと強固にして、魔物被害があるところに対して要請がなくても冒険者を派遣する仕組みを作るべきだと僕は思う」
教授ー! たまにド正論を言うからわからないんだよな、この人は! 天然なのか、天然を装っているのか時々判別がつかない。
「これから冒険者ギルドにも行くのだろう? その点についても提案してみよう。幸いここは冒険者ギルド本部があるのだから」
「そうですね。教授が説明してくれると助かります」
そして俺たちは保証金を商業ギルドに預けて登録を済ませた後、冒険者ギルドへ向かった。
ギルド長にお会いしたいと窓口で申し出ると、職員さんは少し困った顔をした。
「すみません、今来客中で……」
「いいよいいよー! 俺も一緒に話を聞くから入れちゃってー!」
応接室から男性の声が飛んでくる。ていうか、今の聞こえたのか! どんな地獄耳だ!
念のため、職員さんが応接室に行って俺たちの来訪を伝えてくれた。そして変な顔で戻ってきて、応接室にそのまま案内される。
「リンゼイにソニアにジョーか。ちょうどいいところへ来たな。座りなさい」
「あっ、今俺そっちに移るわー。ほら、3人はここにお座りよ!」
一見渋いイケオジに見えるのに、すっごい軽い人がいるな……。
俺たちは顔を見合わせ、ソファに並んで座った。またギルド長が手ずからお茶を淹れてくれて恐縮する。
「デューク、さっき話に出たネージュで名高き『暴風娘』ソニアと、異世界からの転移者のジョー、そして後天性4属性魔法使いにしてこの国随一の頭脳と言われるリンゼイだ」
「おおー! こんなに早く会えるなんて思ってなかったよー。俺もあちこちふらふらしてたからネージュには全然戻ってなくってさー」
暴風娘という二つ名を聞いて、ソニアがピクリと身を強張らせた。やっぱりその話、ハロンズまで伝わってるんだな。
「あの、こちらの方は?」
シベリアンハスキーみたいなテンションの男性はギルド長と親しそうだ。俺が恐る恐る尋ねると、男性は両頬に指を当ててニカッと笑った。なんで女子高生ポーズなんだよ……。
「俺はー、ネージュの冒険者ギルド長デュークだよー!」
「はぁぁぁぁ!?」
「えっ……あの一度も見たことないギルド長!? どうしてハロンズに!?」
教授は訳がわかってないけど、俺とソニアは思いっきり驚いて叫んでしまった。
いや、だって、こんなに軽い人がギルド長だなんて想像もつかなかったし!
ネージュのギルド長見たことないねって時々話題に上がってたし!
その人が何でハロンズに!? って思うし。
「ほら、だから言っただろう。ここにおまえがいるのは普通のことではないのだよ。早くネージュに戻ってやれ。エリクが過労死する前にな」
「あーっ、そうそう、ソニアちゃんってエリクの弟子なんだって? あのエリクが弟子を取るのはすっごい珍しいんだよ! しかも冒険者になって2ヶ月ちょっとで星5になっただなんて凄いねえ」
どうしよう、言うべきだろうか……。エリクさんが「あいつに訓練を付けられるのは俺くらいだ! 明日の予定を空けろ!」って死にそうな顔で言って、なし崩しにソニアの師匠になったことを。
「俺はさー、ここ5年くらい各地を飛び回ってたわけ」
「自分の趣味で放浪していただけだろう、ギルド長の役割がありながら」
アンギルド長のツッコミが厳しいな。でもデュークさんは悪びれもせず話を続けた。
「いやいや、これでもギルドの網が薄い地域とかを調べて回ってたんだよー」
「そういうことは下のものにやらせることだ。ギルド長はそれを統括する役目だぞ」
「それでさ、俺がエリクたちと一緒に冒険者としてブイブイ言わせてた頃に比べて魔物が活発化してきてるから、ここ数ヶ月は特に注意を払って調べてたわけ。――ロキャット湖のヒュドラも異常繁殖したんだろ? 大規模討伐を今年やったばかりだって聞いたのにウォカムの大猪はまた増えてるしさー。これは明らかにおかしいんだよ」
「通常の繁殖以外の方法で魔物が増殖している、ということかな?」
教授が前のめりになりながら尋ねると、真顔になってデュークさんは「うん」と頷いた。
「聞いたこともない異常事態だ。今はまだ表に出てきてないけど、異変が起きているのは間違いないよ」
「だから、おまえは早くネージュに戻って大規模討伐の指揮を執れ」
アンギルド長は本当にバッサリだな……。
「さすがにそうするよ。で、ソニアちゃんやジョーくんたちは何しに来たんだい? アン様に用事があったんだろう?」
「アン様」
「だからその呼び方はやめろと言っているのに……」
アンギルド長が頭を押さえて俯いた。こんな反応見たことない!
「アン様はね、若い頃は凄い冒険者だったんだよ! 剣の腕も凄いけど、なにしろ格好良くてねえ! あまりにも格好良すぎて、女の子たちが『アン様ぁ~!』って黄色い声を上げてさ、自分の名前を刺繍したハンカチを持って『好きです!』って告白しにくるのさー。いやー、俺も憧れたな!」
「その話もやめろ……」
「女の子が酔っ払いに絡まれたりしてたらさっと助けに入ったりね! 冒険者だけど騎士的な振る舞いって言うのかな。そこに痺れる憧れるぅー!」
「私は私の正義によって行動していただけだ。思い出話をしに来たのなら帰れ」
そうか、同じ時期に同じ都市で活動してたことがあるんだな、このふたりは。
エリクさんとアンギルド長の間で情報交換がされてるのに、エリクさんがハロンズ本部を目の敵にしてるのは何故だろうと思ってたけど、多分若い頃にこっちで嫌な思いをしたんだろうな。レヴィさんみたいに。
デュークさんの「アン様語り」はとどまることを知らず、とうとう頭から紅茶を浴びせられて冷たい声で「カエレ」と脅されていた。
あれ? 俺たち何しに来たんだっけ……。
家も持ち家だし、食費は折半だし、贅沢する人もいない。ソニアなんかはちょっとした絵を部屋に飾ったりしているけど、そんなことをしてるのはソニアだけ。
ドレスとか買い漁ったりしないのかなと思って、食事の時に「ソニアはちょっといい服とか買ったりしないの?」と聞いたら、凄く嫌そうに「まだ体型が変わってるから今は買えないわ」と言われた。
「ジョーこそ、サーシャに可愛い服でも買ってあげなさいよ。サーシャなら今更体型変わらないでしょう? なんか私、筋肉がつきやすい体質みたいよ……冒険者やる前とは腕の太さとか体型がいろいろ変わっちゃって」
なるほど、そういうことか。確かにソニアは冒険者になってから日が浅いからなあ。
俺はずっと前からいろんなトレーニングをしてたから、冒険者をしているからといって体型が変わるって事はなかった。最近移動魔法を使うことが増えて、運動不足かな? と思うくらい。
「私はサーシャとジョーが冒険者をしてる限りは、冒険者辞めないわよ」
シチューを食べながら言ったソニアの何気ない、でも結構重い一言に俺とサーシャが息を飲んだ。
「ソニアさん――そんな風に思ってくれてるんですね」
「当たり前じゃない。私を冒険者にしたのはサーシャだし、ふたりがいなかったらまだネージュで借金返済のために地道に貯金してたわ。あなたたちが思ってるより、私があなたたちに感じてる恩は大きいの。実家とも和解できたしね」
「レヴィさんは関係ないんだ?」
「レヴィは……星5スカウトなんて単独でいてもそのうちギルド幹部候補じゃないの? アンギルド長なんかレヴィをすごく買ってるように見えるわ。だから、レヴィが冒険者続けてるかどうかは私の行動に直接関係ないわね」
「意外だなあ」
ソニア、レヴィさんに気があるくせになあ。
そこの切り分けができてるって言うのは、しっかりしてる証拠なんだろうか。
本当に、なんで結婚詐欺に騙されちゃったんだろう……恋は盲目って奴かな、怖いなあ。
俺とソニアはお金の運用を始めるけど、サーシャとレヴィさんにはピンと来ないらしい。このふたりは根っからの冒険者だしな……。ソニアの家は商家だし、「お金は動かしてなんぼ」っていう意識があるみたいだ。
でもサーシャは神殿に寄進しまくってるし、一応お金を動かしてる。レヴィさんは特に使う当てもなく、俺に預けていない分はギルドの口座に入れっぱなしらしい。まあ、多分冒険者でお金に余裕がある人ってそういう人の方が多いんだろうな。
そういえば、ティモシーに聞いた話では黄金の駿馬のピーターは豪遊するタイプらしくて、それはそれで経済を動かしてる……。あそこのパーティー大変そうだな。
テントができた翌日、俺と教授とソニアは連れだって商業ギルドに行って登録をした。
一応登録するときに、どういう内容の商売をする予定なのかを書かされるんだけど、教授はともかく俺とソニアは「蜘蛛の糸で布を織り」って書いちゃったもんだから職員さんがひっくり返っていた……。
実際にテントを出して見せて、「旅の途中で知り合ったアラクネがいて」と説明したら、「アラクネって知り合うものなんですか!?」ってまたひっくり返ってしまった。
教授が「そうだ、レナくんの素性を聞いていないよ。詳しく!」って圧を掛けてきたから、商業ギルドの人もいる前でレナのことを説明することに。
ある村が昔から大蜘蛛に襲われて生け贄を要求されていたこと。
村長は冒険者ギルドに依頼する金を惜しみ、自分の家から生け贄が出ないように操作した上で生け贄を選び、差し出していたこと。
女の子が主に生け贄にされ、100年ほど前にレナが最後に生け贄になったのを最後に大蜘蛛の活動が止まったこと。
そして、大蜘蛛に食われて亡くなった子供たちの意識がずっと大蜘蛛の中に残り続けていて、今それがレナという人格と外見を持ってアラクネという存在に変質したこと――。
「ふむ……どうしてあの村に魔物である彼女があんなにも自然に溶け込んでいるのか不思議だったが、あそこは元々彼女の故郷なんだね」
「はい。村長のアニタさんの祖母の妹がレナだそうです。記録にも残っていますし、お爺さんお婆さんの身内が生け贄になったという話は各家に受け継がれているそうですよ」
「酷い……ぐすっ、お話しですね……ぐしゅっ! アラクネは危険な魔物と聞きますが、案外そういう理由で人間に復讐心を持ってしまった個体が危険なのかもしれませんね。そのレナという子はいい子のようで……ううっ」
職員さんはレナの身の上を聞いて号泣している。
そういえば、レナに初めて会ったとき、いろんな相反する感情を抱えているようだった。村を守りたい気持ちも、憎い気持ちも、恋しい気持ちも。
今それが落ち着いているのは、レナが村で満たされているからだろう。きっと、アラクネの姿でも優しく接してくれたサーシャへの思いも大きいに違いない。
「と言うわけで、レナ自身は人間の心を持ってますし、友好的で協力的なアラクネです。魔物がどのくらい生きるかわかりませんが、レナが生きているうちは蜘蛛の糸の織物は作り続けることができます」
「悲しい話だが、『悲しい話』というだけで終わらせるには問題があるね。ギルドの情報網をもっと強固にして、魔物被害があるところに対して要請がなくても冒険者を派遣する仕組みを作るべきだと僕は思う」
教授ー! たまにド正論を言うからわからないんだよな、この人は! 天然なのか、天然を装っているのか時々判別がつかない。
「これから冒険者ギルドにも行くのだろう? その点についても提案してみよう。幸いここは冒険者ギルド本部があるのだから」
「そうですね。教授が説明してくれると助かります」
そして俺たちは保証金を商業ギルドに預けて登録を済ませた後、冒険者ギルドへ向かった。
ギルド長にお会いしたいと窓口で申し出ると、職員さんは少し困った顔をした。
「すみません、今来客中で……」
「いいよいいよー! 俺も一緒に話を聞くから入れちゃってー!」
応接室から男性の声が飛んでくる。ていうか、今の聞こえたのか! どんな地獄耳だ!
念のため、職員さんが応接室に行って俺たちの来訪を伝えてくれた。そして変な顔で戻ってきて、応接室にそのまま案内される。
「リンゼイにソニアにジョーか。ちょうどいいところへ来たな。座りなさい」
「あっ、今俺そっちに移るわー。ほら、3人はここにお座りよ!」
一見渋いイケオジに見えるのに、すっごい軽い人がいるな……。
俺たちは顔を見合わせ、ソファに並んで座った。またギルド長が手ずからお茶を淹れてくれて恐縮する。
「デューク、さっき話に出たネージュで名高き『暴風娘』ソニアと、異世界からの転移者のジョー、そして後天性4属性魔法使いにしてこの国随一の頭脳と言われるリンゼイだ」
「おおー! こんなに早く会えるなんて思ってなかったよー。俺もあちこちふらふらしてたからネージュには全然戻ってなくってさー」
暴風娘という二つ名を聞いて、ソニアがピクリと身を強張らせた。やっぱりその話、ハロンズまで伝わってるんだな。
「あの、こちらの方は?」
シベリアンハスキーみたいなテンションの男性はギルド長と親しそうだ。俺が恐る恐る尋ねると、男性は両頬に指を当ててニカッと笑った。なんで女子高生ポーズなんだよ……。
「俺はー、ネージュの冒険者ギルド長デュークだよー!」
「はぁぁぁぁ!?」
「えっ……あの一度も見たことないギルド長!? どうしてハロンズに!?」
教授は訳がわかってないけど、俺とソニアは思いっきり驚いて叫んでしまった。
いや、だって、こんなに軽い人がギルド長だなんて想像もつかなかったし!
ネージュのギルド長見たことないねって時々話題に上がってたし!
その人が何でハロンズに!? って思うし。
「ほら、だから言っただろう。ここにおまえがいるのは普通のことではないのだよ。早くネージュに戻ってやれ。エリクが過労死する前にな」
「あーっ、そうそう、ソニアちゃんってエリクの弟子なんだって? あのエリクが弟子を取るのはすっごい珍しいんだよ! しかも冒険者になって2ヶ月ちょっとで星5になっただなんて凄いねえ」
どうしよう、言うべきだろうか……。エリクさんが「あいつに訓練を付けられるのは俺くらいだ! 明日の予定を空けろ!」って死にそうな顔で言って、なし崩しにソニアの師匠になったことを。
「俺はさー、ここ5年くらい各地を飛び回ってたわけ」
「自分の趣味で放浪していただけだろう、ギルド長の役割がありながら」
アンギルド長のツッコミが厳しいな。でもデュークさんは悪びれもせず話を続けた。
「いやいや、これでもギルドの網が薄い地域とかを調べて回ってたんだよー」
「そういうことは下のものにやらせることだ。ギルド長はそれを統括する役目だぞ」
「それでさ、俺がエリクたちと一緒に冒険者としてブイブイ言わせてた頃に比べて魔物が活発化してきてるから、ここ数ヶ月は特に注意を払って調べてたわけ。――ロキャット湖のヒュドラも異常繁殖したんだろ? 大規模討伐を今年やったばかりだって聞いたのにウォカムの大猪はまた増えてるしさー。これは明らかにおかしいんだよ」
「通常の繁殖以外の方法で魔物が増殖している、ということかな?」
教授が前のめりになりながら尋ねると、真顔になってデュークさんは「うん」と頷いた。
「聞いたこともない異常事態だ。今はまだ表に出てきてないけど、異変が起きているのは間違いないよ」
「だから、おまえは早くネージュに戻って大規模討伐の指揮を執れ」
アンギルド長は本当にバッサリだな……。
「さすがにそうするよ。で、ソニアちゃんやジョーくんたちは何しに来たんだい? アン様に用事があったんだろう?」
「アン様」
「だからその呼び方はやめろと言っているのに……」
アンギルド長が頭を押さえて俯いた。こんな反応見たことない!
「アン様はね、若い頃は凄い冒険者だったんだよ! 剣の腕も凄いけど、なにしろ格好良くてねえ! あまりにも格好良すぎて、女の子たちが『アン様ぁ~!』って黄色い声を上げてさ、自分の名前を刺繍したハンカチを持って『好きです!』って告白しにくるのさー。いやー、俺も憧れたな!」
「その話もやめろ……」
「女の子が酔っ払いに絡まれたりしてたらさっと助けに入ったりね! 冒険者だけど騎士的な振る舞いって言うのかな。そこに痺れる憧れるぅー!」
「私は私の正義によって行動していただけだ。思い出話をしに来たのなら帰れ」
そうか、同じ時期に同じ都市で活動してたことがあるんだな、このふたりは。
エリクさんとアンギルド長の間で情報交換がされてるのに、エリクさんがハロンズ本部を目の敵にしてるのは何故だろうと思ってたけど、多分若い頃にこっちで嫌な思いをしたんだろうな。レヴィさんみたいに。
デュークさんの「アン様語り」はとどまることを知らず、とうとう頭から紅茶を浴びせられて冷たい声で「カエレ」と脅されていた。
あれ? 俺たち何しに来たんだっけ……。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる