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ハロンズ編
66 いなかものの はんげきだ!
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「古代竜を《旋風斬》で倒すとは、とても星2冒険者とは思えないな。確かに属性魔法の中では切断に向いた魔法ではあるが。私にも身分証を見せてくれないか?」
「は、はい」
うっすらと白髪の交じった麦わら色の髪を束ねたギルド長は、颯爽とソニアの側に歩いて行く。そして、振り返ってこちらを窺っている冒険者に向かって声を掛けた。
「そこで覗いていないで、2.3人こちらを手伝ってくれ。エールが飲める程度の手間賃くらい出そう」
「はいっ」
若い冒険者がふたりやってきて、古代竜の頭に怯えながら血の樽詰めを手伝ってくれた。サーシャは空の樽を運び、ソニアはカチコチになってギルド長と向かい合っている。
「ほう、確かにネージュ発行の星2の身分証だな……しかも発行日がつい最近じゃないか。風魔法だけで、星1から既に昇格し、古代竜の首を切断するとは……信じられん」
「冒険者登録は最近なんですが、それまで街中での風魔法の仕事をしていました。魔力量が多いのは生まれつきで、幼い頃はよく魔法を暴走させていたそうです」
魔法を暴走させるのは今でもだというところは隠して、ソニアがざっくりと経歴を語る。それに頷き、ギルド長は微笑みながらソニアに身分証を返した。
「なるほど、常に使い続けてはいたんだな。まさに極めた者と言うにふさわしい。古代竜の体の方も見てから昇格も決めよう。それと、ジョー」
「はいっ」
「君も昇格だ。移動魔法が使える空間魔法使いならば、星5に十分値する。その焼き印を入れるのがハロンズ本部であることを嬉しく思うぞ」
「あ、ありがとうございます!」
背後の方でざわめきが聞こえる。なんだか凄くいい気分だ。ここまでは、俺たちの計画は120%うまく行っている。
古代竜の頭側から流れ出た血は樽3つ分になり、中年の女性職員は樽に古代竜の血、と書き込んでいる。
そして、ここからが本番。
「古代竜の体、出しますよ。かなり勢いよく血が出ると思うので気を付けて下さい」
「3人で樽を持って並ぶぞ。ジョー、頼む」
樽を構えた人に首を向ける形で、俺は古代竜の体を出した。その白い巨躯に俺たち以外の人間はみんな息を飲んだ。
「頭が大きいから予想はしていたが……思った以上に大きいな。素晴らしい。それに、うん、見た限り首の切断面以外には傷がない。空間魔法に入っていたから内臓の劣化もないだろう。血が噴き出しているくらいだしな」
そう、首側からは結構勢いよく血が噴き出し、俺たちは樽に必死に血を受け止めていた。
サーシャやソニアも竜の血を被りながら手伝ってくれている。
結局、12樽もの血が首から出た分だけで取れて、職員もギルド長も喜んでいた。
「ソニア・クエリー。星5への昇格を認める。おめでとう、登録から約2ヶ月で星5まで昇格したのは君以外にいない。今後も是非その力を人々のために生かして欲しい。それとジョー・ミマヤも星5へ昇格だ。早速昇格手続きをするように。焼き印の準備を」
「はい!」
「覚えておくぞ、ソニア、ジョー、聖女サーシャ、そして――レヴィ」
口元に笑いを浮かべて、アンギルド長は執務室に戻っていった。
そして、名乗っていないのに名前を呼ばれたレヴィさんが見るからに固まっている。
「多分、情報が既に流れていたんだと思います。エリクさんとかから」
「そうだな、それでなければ俺の名前など知っているわけがない」
サーシャの言葉にレヴィさんがぶんぶんと頷いた。
まあ、それが一番ありそうだな。業務連絡の片隅にでも、うちで活躍した奴らがそっち行くぞ、みたいなことは伝えていそうだ。便宜を図って欲しいと言外に伝えていたのかもしれない。
「えええ、古代竜を星2の風魔法使いが倒した? 信じられないな。白く塗ったコカトリスの間違いじゃないのか?」
「いやいや、東の猪は気性が荒いらしいからなあ。星2でも古代竜を倒せるくらいじゃないと生き残れないのかもしれないな。うはははは」
「その古代竜だって本当にひとりで倒したのか疑わしいじゃないか。他の魔法使いが傷の付かない魔法で弱らせておいて最後に首を切ったのかもしれないし」
事務エリアに戻った途端、殊更に大きな声が俺たちにわざと聞かせるように発せられた。
「うわ、見ろよ、血まみれだぜ。そのまま付けとけばドラゴンみたいになれるかもな! ははは!」
その言い様にカチンとする。俺は手伝ってくれたふたりに向かって、「血で汚れたことですし、お風呂に入っていきませんか?」と尋ねた。ついでに職員に「訓練場の一部を貸して欲しいんですが」と頼む。
「はあ、訓練場? いいですけど、お風呂と何が」
「空間魔法使いですから、家を持ち歩いているんです。入浴ももちろんできます」
俺の言葉に、その場の人間があらかた絶句する。
メリンダさん、家を持ち歩けると教えてくれてありがとうございます!
結構インパクトでかいです!
「ちょ、ちょっと待て。空間魔法使いだと? 空間魔法使いで星5? 戦いの役に立つわけでもないのに!? そこのおまえたち、俺たちと決闘を要求する! 俺たちはハロンズ随一の冒険者パーティー『黄金の駿馬』だ!」
「うわ、どうする? 面倒そうなのに絡まれたわよ」
ソニアがずけずけと口に出す。実はこれも想定内だ。こっちの実力に難癖を付けてきたら、決闘でねじ伏せてやろう、と。相手から決闘を申し出てくれたのはむしろ好都合だった。
しかも随一を名乗るのだから、ここで勝てば俺たちの実力は揺るぎないものとして広まるだろう。
「賭けるものはお互いの名誉と言うことでいいんだな? 俺たちが勝ったら、他の土地出身の冒険者を馬鹿にするのはやめてもらおう」
「構わん。その代わり俺たちが勝ったら、俺たちが目の前を通るときは土下座をしてもらおうか」
「ああ、それでいい」
レヴィさんが薄く微笑む。その余裕たっぷりの態度に相手は眉間に青筋を立てた。
俺は手伝ってくれた血まみれのふたりに「すみません、終わったら家の風呂を出しますので、少し待っていて下さい」と頭を下げた。こちらのふたりは生粋のハロンズ人ではないらしく、星5なのに頭の低い俺の態度にむしろ恐縮している。
黄金の駿馬は男性5人のパーティーだ。
人員構成はプリーストひとり、火・風・土の3属性魔術師がひとり、水と土の2属性魔法使いがひとり、そして前衛剣士がひとりと盾役戦士がひとり。バランスのいいパーティーと言えるだろう。
だが、今回は全く関係ない。
こっちを舐め腐っているのをいいことに、レヴィさんが1対1の個人戦を持ちかけたからだ。
こちらは4人だから、より条件は不利。それを嘲り、彼らはふたつ返事でそれを了承した。
……悪いな、うちのパーティー、個人個人の強さがおかしいんだ。主に女性ふたり……。
第1戦はソニアと2属性魔法使い。第2戦は俺と盾役戦士、第3戦はサーシャと3属性魔法使い、第4戦は剣士とレヴィさんということになった。
これで先に3勝をとった方が勝ちというシンプルなスタイル。相手の残りはプリーストだから、それまでに決めるという方針がお互い一致している。
黄金の駿馬のプリーストが、自分を含めた全員に補助魔法を掛ける。この人もメイスと盾を持っているからそれなりに腕に心得ありと見た方が良さそうだ。今回は関係ないけど。
サーシャも味方に掛けている振りをして補助魔法を掛ける。まあ、そんなのはあちらは気にしていないけど。――相手を侮るというのは恐ろしいなあ。
「第1戦、ロバート対ソニアを開始します!」
俺たちに対応してくれた中年女性ではないギルド職員が立ち会いをしてくれた。
訓練場の端と端に位置取った魔法使いふたりは、一瞬だけ睨み合う。
「ふっふっふっふっふ……この時を待っていたわ」
ソニアが胸元から出したのは、以前から使っていた杖だった。それを見て俺たち3人の方はあちこちの方向を向く。これから起きる大惨事が予想できたからだ。
「《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》!! さあ、頑張って逃げてちょうだい!」
「な、なんだこりゃあ!」
「《斬裂竜巻》ってあんなに連発できる魔法だったのか!?」
ソニアが連続で出した《斬裂竜巻》に、あちこちから悲鳴が上がる。俺たちも思わず悲鳴を上げてしまった。
ソニアが全く制御する気のない《斬裂竜巻》は、土煙を上げながら訓練場を蹂躙し始めた。相手の魔法使いは魔法を打つ間もなく逃げ惑うしかない。
なにせ、あれに巻き込まれたら……。
「サーシャ、もし相手が重傷になったら回復はするよね」
「もちろんです。怪我しないのが1番ですが」
「あっ、いやーっ! こっちに来る!」
ソニアに制御できない《斬裂竜巻》は、当然ソニアの方にも向かってくる。
決闘は、何故か魔法使いふたりが逃げ回るという謎の展開になった。
「《突風》」
竜巻にソニアが別の魔法をぶつけると軌道が変わった。おお、これはいい。これでこの先巻き込まれ事故を防ぐことができる。
「くっ! 《防壁》」
「それは何度も師匠との稽古で見てるのよね、《突風》!」
なんとか周囲の《斬裂竜巻》の隙を見て相手が出した土魔法の防壁に、ソニアが威力のおかしい《突風》をぶつける。そのまま対戦相手のロバートは《防壁》を破壊され、訓練場の壁に叩きつけられた。
動かなくなったところを見ると、気絶したのだろう。しばらく見ていても彼は起き上がる様子がなかった。
「第1戦はソニアの勝利とします! で、この《斬裂竜巻》はどうするんですか?」
「消えるまで待つしかありません! 《突風》で多少は軌道を変えられることがわかったから、大丈夫よ」
「いや、全然大丈夫じゃねえだろう!」
黄金の駿馬のリーダーが叫んだ。
うん、それに関してだけは俺も同意だ。
「は、はい」
うっすらと白髪の交じった麦わら色の髪を束ねたギルド長は、颯爽とソニアの側に歩いて行く。そして、振り返ってこちらを窺っている冒険者に向かって声を掛けた。
「そこで覗いていないで、2.3人こちらを手伝ってくれ。エールが飲める程度の手間賃くらい出そう」
「はいっ」
若い冒険者がふたりやってきて、古代竜の頭に怯えながら血の樽詰めを手伝ってくれた。サーシャは空の樽を運び、ソニアはカチコチになってギルド長と向かい合っている。
「ほう、確かにネージュ発行の星2の身分証だな……しかも発行日がつい最近じゃないか。風魔法だけで、星1から既に昇格し、古代竜の首を切断するとは……信じられん」
「冒険者登録は最近なんですが、それまで街中での風魔法の仕事をしていました。魔力量が多いのは生まれつきで、幼い頃はよく魔法を暴走させていたそうです」
魔法を暴走させるのは今でもだというところは隠して、ソニアがざっくりと経歴を語る。それに頷き、ギルド長は微笑みながらソニアに身分証を返した。
「なるほど、常に使い続けてはいたんだな。まさに極めた者と言うにふさわしい。古代竜の体の方も見てから昇格も決めよう。それと、ジョー」
「はいっ」
「君も昇格だ。移動魔法が使える空間魔法使いならば、星5に十分値する。その焼き印を入れるのがハロンズ本部であることを嬉しく思うぞ」
「あ、ありがとうございます!」
背後の方でざわめきが聞こえる。なんだか凄くいい気分だ。ここまでは、俺たちの計画は120%うまく行っている。
古代竜の頭側から流れ出た血は樽3つ分になり、中年の女性職員は樽に古代竜の血、と書き込んでいる。
そして、ここからが本番。
「古代竜の体、出しますよ。かなり勢いよく血が出ると思うので気を付けて下さい」
「3人で樽を持って並ぶぞ。ジョー、頼む」
樽を構えた人に首を向ける形で、俺は古代竜の体を出した。その白い巨躯に俺たち以外の人間はみんな息を飲んだ。
「頭が大きいから予想はしていたが……思った以上に大きいな。素晴らしい。それに、うん、見た限り首の切断面以外には傷がない。空間魔法に入っていたから内臓の劣化もないだろう。血が噴き出しているくらいだしな」
そう、首側からは結構勢いよく血が噴き出し、俺たちは樽に必死に血を受け止めていた。
サーシャやソニアも竜の血を被りながら手伝ってくれている。
結局、12樽もの血が首から出た分だけで取れて、職員もギルド長も喜んでいた。
「ソニア・クエリー。星5への昇格を認める。おめでとう、登録から約2ヶ月で星5まで昇格したのは君以外にいない。今後も是非その力を人々のために生かして欲しい。それとジョー・ミマヤも星5へ昇格だ。早速昇格手続きをするように。焼き印の準備を」
「はい!」
「覚えておくぞ、ソニア、ジョー、聖女サーシャ、そして――レヴィ」
口元に笑いを浮かべて、アンギルド長は執務室に戻っていった。
そして、名乗っていないのに名前を呼ばれたレヴィさんが見るからに固まっている。
「多分、情報が既に流れていたんだと思います。エリクさんとかから」
「そうだな、それでなければ俺の名前など知っているわけがない」
サーシャの言葉にレヴィさんがぶんぶんと頷いた。
まあ、それが一番ありそうだな。業務連絡の片隅にでも、うちで活躍した奴らがそっち行くぞ、みたいなことは伝えていそうだ。便宜を図って欲しいと言外に伝えていたのかもしれない。
「えええ、古代竜を星2の風魔法使いが倒した? 信じられないな。白く塗ったコカトリスの間違いじゃないのか?」
「いやいや、東の猪は気性が荒いらしいからなあ。星2でも古代竜を倒せるくらいじゃないと生き残れないのかもしれないな。うはははは」
「その古代竜だって本当にひとりで倒したのか疑わしいじゃないか。他の魔法使いが傷の付かない魔法で弱らせておいて最後に首を切ったのかもしれないし」
事務エリアに戻った途端、殊更に大きな声が俺たちにわざと聞かせるように発せられた。
「うわ、見ろよ、血まみれだぜ。そのまま付けとけばドラゴンみたいになれるかもな! ははは!」
その言い様にカチンとする。俺は手伝ってくれたふたりに向かって、「血で汚れたことですし、お風呂に入っていきませんか?」と尋ねた。ついでに職員に「訓練場の一部を貸して欲しいんですが」と頼む。
「はあ、訓練場? いいですけど、お風呂と何が」
「空間魔法使いですから、家を持ち歩いているんです。入浴ももちろんできます」
俺の言葉に、その場の人間があらかた絶句する。
メリンダさん、家を持ち歩けると教えてくれてありがとうございます!
結構インパクトでかいです!
「ちょ、ちょっと待て。空間魔法使いだと? 空間魔法使いで星5? 戦いの役に立つわけでもないのに!? そこのおまえたち、俺たちと決闘を要求する! 俺たちはハロンズ随一の冒険者パーティー『黄金の駿馬』だ!」
「うわ、どうする? 面倒そうなのに絡まれたわよ」
ソニアがずけずけと口に出す。実はこれも想定内だ。こっちの実力に難癖を付けてきたら、決闘でねじ伏せてやろう、と。相手から決闘を申し出てくれたのはむしろ好都合だった。
しかも随一を名乗るのだから、ここで勝てば俺たちの実力は揺るぎないものとして広まるだろう。
「賭けるものはお互いの名誉と言うことでいいんだな? 俺たちが勝ったら、他の土地出身の冒険者を馬鹿にするのはやめてもらおう」
「構わん。その代わり俺たちが勝ったら、俺たちが目の前を通るときは土下座をしてもらおうか」
「ああ、それでいい」
レヴィさんが薄く微笑む。その余裕たっぷりの態度に相手は眉間に青筋を立てた。
俺は手伝ってくれた血まみれのふたりに「すみません、終わったら家の風呂を出しますので、少し待っていて下さい」と頭を下げた。こちらのふたりは生粋のハロンズ人ではないらしく、星5なのに頭の低い俺の態度にむしろ恐縮している。
黄金の駿馬は男性5人のパーティーだ。
人員構成はプリーストひとり、火・風・土の3属性魔術師がひとり、水と土の2属性魔法使いがひとり、そして前衛剣士がひとりと盾役戦士がひとり。バランスのいいパーティーと言えるだろう。
だが、今回は全く関係ない。
こっちを舐め腐っているのをいいことに、レヴィさんが1対1の個人戦を持ちかけたからだ。
こちらは4人だから、より条件は不利。それを嘲り、彼らはふたつ返事でそれを了承した。
……悪いな、うちのパーティー、個人個人の強さがおかしいんだ。主に女性ふたり……。
第1戦はソニアと2属性魔法使い。第2戦は俺と盾役戦士、第3戦はサーシャと3属性魔法使い、第4戦は剣士とレヴィさんということになった。
これで先に3勝をとった方が勝ちというシンプルなスタイル。相手の残りはプリーストだから、それまでに決めるという方針がお互い一致している。
黄金の駿馬のプリーストが、自分を含めた全員に補助魔法を掛ける。この人もメイスと盾を持っているからそれなりに腕に心得ありと見た方が良さそうだ。今回は関係ないけど。
サーシャも味方に掛けている振りをして補助魔法を掛ける。まあ、そんなのはあちらは気にしていないけど。――相手を侮るというのは恐ろしいなあ。
「第1戦、ロバート対ソニアを開始します!」
俺たちに対応してくれた中年女性ではないギルド職員が立ち会いをしてくれた。
訓練場の端と端に位置取った魔法使いふたりは、一瞬だけ睨み合う。
「ふっふっふっふっふ……この時を待っていたわ」
ソニアが胸元から出したのは、以前から使っていた杖だった。それを見て俺たち3人の方はあちこちの方向を向く。これから起きる大惨事が予想できたからだ。
「《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》《斬裂竜巻》!! さあ、頑張って逃げてちょうだい!」
「な、なんだこりゃあ!」
「《斬裂竜巻》ってあんなに連発できる魔法だったのか!?」
ソニアが連続で出した《斬裂竜巻》に、あちこちから悲鳴が上がる。俺たちも思わず悲鳴を上げてしまった。
ソニアが全く制御する気のない《斬裂竜巻》は、土煙を上げながら訓練場を蹂躙し始めた。相手の魔法使いは魔法を打つ間もなく逃げ惑うしかない。
なにせ、あれに巻き込まれたら……。
「サーシャ、もし相手が重傷になったら回復はするよね」
「もちろんです。怪我しないのが1番ですが」
「あっ、いやーっ! こっちに来る!」
ソニアに制御できない《斬裂竜巻》は、当然ソニアの方にも向かってくる。
決闘は、何故か魔法使いふたりが逃げ回るという謎の展開になった。
「《突風》」
竜巻にソニアが別の魔法をぶつけると軌道が変わった。おお、これはいい。これでこの先巻き込まれ事故を防ぐことができる。
「くっ! 《防壁》」
「それは何度も師匠との稽古で見てるのよね、《突風》!」
なんとか周囲の《斬裂竜巻》の隙を見て相手が出した土魔法の防壁に、ソニアが威力のおかしい《突風》をぶつける。そのまま対戦相手のロバートは《防壁》を破壊され、訓練場の壁に叩きつけられた。
動かなくなったところを見ると、気絶したのだろう。しばらく見ていても彼は起き上がる様子がなかった。
「第1戦はソニアの勝利とします! で、この《斬裂竜巻》はどうするんですか?」
「消えるまで待つしかありません! 《突風》で多少は軌道を変えられることがわかったから、大丈夫よ」
「いや、全然大丈夫じゃねえだろう!」
黄金の駿馬のリーダーが叫んだ。
うん、それに関してだけは俺も同意だ。
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