51 / 122
ネージュ編
49 鈍すぎる彼女
しおりを挟む
何故か拍手されたり聖女コールが起きたりもしたけども、俺たちはその場で駆けつけた衛兵に話を聞かれることになった。
ソニアが捕まえたという犯人は、縛り上げられて別の衛兵が担いでいった。
恐らく30代半ばくらいに見える衛兵は、背に穴の開いた俺の服と、その場に流れている血を見て厳しい顔をしている。
「先程の光は私も見たよ。そして、女神のお声も確かに聞いた。そしてこの血の量からすると、実際に君が死んでいたのはほぼ間違いないだろう」
死んでたのは知ってる。女神の部屋で聞いたから。
だけど……まあ、話がややこしくなるから、ここは黙っておこう。知ってましたなんて言ったら、「実は意識があった」と思われかねない。
「死んでいたわ。脈がなくなっていたのは私とサーシャが確認したもの。それに、何人もジョーが血を噴き出しながら倒れたのは見ているはずよ」
「ああ、そのようだ。優れた風魔法使いがいたようだね、逃亡しようとする犯人の足の腱を切ってくれたのは良い判断だった。これから応急処置のみを施して、詰め所で取り調べを行うことになる」
俺は見た。優れた風魔法使いと言われてソニアが「んふっ」というにやけた顔をしたことを。
ちゃんと魔法を狙ったところに当てたんだ……びっくりだな。
この短時間でいろいろ衝撃的にも程がある。
俺とサーシャが疲弊していたので、取り調べでわかったことがあったら伝えてもらうことになった。連絡先としていつも泊まっている宿屋の名前を告げようとし……さすがにこの格好で行ったら大騒ぎになると考え直して、俺はベーコン工房を建築中の場所を伝えた。
ついでに魔法収納空間から毛布を2枚取り出して、血まみれで目立ちすぎる俺とサーシャはマント代わりにそれを羽織る。
羽織れるものの持ち合わせがないから仕方ないけど、さすがに暑い!
俺たちは早足でベーコン工房に向かい、仕事中だった棟梁に挨拶をしてから事情を話して、建築中の外壁の内側に家を出させてもらった。
アヌビスは、小さな体でちょこちょこと付いてきている。
可愛い……。癒やされるな。
ソニアとサーシャのためにテーブルセットを出して、俺はサーシャに一言謝ってから先に風呂に入らせてもらうことにした。
体はどこも痛くないし、多分傷痕とかも残っていないだろう。
でも、上着からズボンまで本気で血に染まっていて……正直、ゾッとずる。
もったいないけど、これは捨てて買い換えだな。
俺はため息をついて下着に至るまで血まみれになっている服を収納すると、風呂に湯を張った。
中に浸かることはせずに、手桶でざばざばと湯を被って体に付いた血を洗い流す。
血の匂いが残らないように頭の先からつま先まで石けんで丹念に洗い、やっと人心地付いた。
濡れた髪を適当に拭きながら服を着て風呂場から出ると、キャッキャという笑い声が聞こえる。サーシャとソニアの笑い声は、俺の心をほんわりと温めてくれた。
「ジョー、この子、すっごくお利口よ!」
ちんまりとお座りをしたアヌビスが、ソニアの指示に従ってお手をしたりして愛嬌を振りまいている。
アヌビスって、敵対してなければこんなに従順なのか……。
いや、俺と同化してたアヌビスだというし、タンバー様の聖獣だから本来は人に懐く性質を持っているのかもしれない。
「あああ、ぎゅーってしたいけど、この子に血が付いたら困りますね! じゃあ私もお風呂に入って着替えてきます」
アヌビスに名残惜しそうな視線を残しながら、サーシャが足早に風呂場に向かっていく。俺はサーシャの荷物をどんと脱衣所に置いて、ソニアの向かいに座った。
「ところでジョー」
俺がソニアに謝ろうとした途端、向こうから真顔で話しかけられた。
「この小さいアヌビス、どうしたの? 明らかにあなたに付いてきてるわよね」
「それか……。俺、ソニアに謝ってお礼を言おうとしたんだけど」
「それはサーシャに言うのが先でしょ」
正論過ぎてぐうの音も出ない。俺が手を差し出すと、アヌビスは尻尾を振って俺の膝に飛び乗ってきた。
「呪いだかなんだかわからなかったあの首輪、タンバー様の神像を俺が洗い清めたことに対する恩寵だったんだって。それで、俺にアヌビスが同化してた。……というか、結構ややこしい話だから、サーシャが来てから話すよ」
「ちょっと聞いただけでややこしそうなのはわかったわ。
あー、異様に疲れる日だったわね。ファーブ鉱山から戻ってきて、私の家に行って、帰りにあれだもの。何か甘いものでも食べたいけど、衛兵が来るかもしれないから出かけられないし……違うわ! むしろ今行くべきなのよ! ちょっと私蜜蜂亭に行ってくるわね!」
「え? う、うん。気を付けて」
突然出て行ってしまったソニアを、俺は呆然と見送った。
暴風娘の二つ名にふさわしい暴風っぷりだ。
俺がアヌビスと戯れていると、サーシャが着替えて風呂場から戻ってきた。
おそらく俺と同じように、血の匂いを消そうと全身洗ったのだろう。濡れてぺたりとした長い髪を、布でぎゅうぎゅうと絞っている。
「あら、ソニアさんは?」
「甘いものが食べたいから今のうちに買ってくるって飛び出していったよ」
「……あ、そ、そういうことなんですね」
「どういうこと?」
俺には理解できない何かを察しているらしいサーシャの様子に、何もわかってない俺は素直に尋ねた。
見る間にサーシャの顔が赤く染まり、彼女は両手で顔を覆って崩れ落ちた。
「ひゃああああー! 恥ずかしい! 今頃恥ずかしいです! 私、私ジョーさんに面と向かって好きだって……」
「あああああ!? そ、そのこと!?」
唐突にソニアの意図を俺は理解した。俺とサーシャをふたりきりにするために、気を利かせてくれたんだろう。
でも実際は、俺とサーシャはお互いに「うわあああ!」「きゃああああ!」と奇声を発しながら床を転げ回っているばかりだった……。
そんな自分たちの奇行を恥ずかしいと思えるくらいバタバタと体力を消費して冷静になったところで、俺とサーシャは示し合わせたわけでもないのに無言でテーブルセットの向かい合わせの場所に座った。
「そ、その……」
「凄く今更だけど……さっきも言った通り、初めて会ったときからサーシャのことが好きだったんだ。お、俺の恋人になってもらえますか?」
「コココココ!」
「サーシャ! ニワトリになってる!」
赤くなったり青くなったり、サーシャの顔色は忙しい。
でも俺は知っている。これが彼女の限度を振り切ってしまったときの照れの発露だということを。
「あの……私なんかでいいんでしょうか……? その、『顔だけは可愛い』って言われることはたまにあったんですが、ジョーさんも知ってる通り私はいろいろと駄目なところが多い人間ですし……」
「えっ、サーシャに駄目なところなんてあったっけ? 補助魔法が他に掛からないくらいしか思い当たらないけど……。
あのさ、最初は、泣いてる君を見て可愛いなって思ったんだ。でも、話してるうちに自分を追放したアーノルドさんたちの事を思い遣ってる君の心根が、凄く清らかで優しいんだってわかって……多分、その時俺はサーシャを好きになったんだよ。本当は魔物が出る世界で戦ったりしたくないから、テトゥーコ様からスキルをもらうときに戦わなくても良さそうな空間魔法を選んだんだ。
でも、君と離れたくないから冒険者をやることを選んだ。俺に優しくしてくれるサーシャから離れるのが心細かったからってのもあったけど――一緒に、いたかったんだ」
言葉を止めたら羞恥心に負けてしまいそうで、俺はサーシャに向かって一気に話した。すると――。
ガン、と凄い音がした。
サーシャが、テーブルに思い切りおでこをぶつけた音だった。
「サーシャ!?」
「あうう……そ、その、私、恋愛というものを全くわかっていなくて……。ジョーさんに妙に近づこうとする女性とかに苛立ったり、変な気持ちになったりすることはわかってたんですけど、それがやきもちだって気付かなくて。ジョーさんと一緒にいるとドキドキするけどほっとするとか、そういうこともどうしてなのか全然わかってなくて!
あの、本当に、鈍くてすみません……私、初めて会ったときからジョーさんの事を自分の特別だって思ってはいたんですが、それが『好き』ってことだってついさっき気付いたばかりで」
「大丈夫……知ってた……サーシャは恋愛に鈍いって……だから恋物語の本とか勧めたんだけど」
「ひえええっ!? そういうことだったんですね!」
知ってた……知ってたよ、超弩級に鈍いって。
でも、そういうところも含めて、俺はサーシャが好きなんだよな。
サーシャが顔を上げると、テーブルに思い切りぶつけたおでこが赤くなっていた。ちょっと痛々しい。
目を潤ませてサーシャは俺と目を合わせたり逸らしたりいろいろしてから、消え入りそうな声で下を向いて答えた。
「こんな私で良ければ、ジョーさんの恋人にしてください。テトゥーコ様に請願するときにも言ってしまったんですが、私はジョーさんがいないと生きていけません。いつの間にか、私の心の中があなたのことでいっぱいになっていて……。ジョーさんを失ったと思ったとき、そのぽっかり開いた穴に耐えられなくて」
「うん、ごめん。これからは油断しないようにする。――サーシャ、顔を上げて」
俺は立ち上がって、きょとんとしたサーシャの顔に自分の顔を寄せた。
いきなりキスは恥ずかしすぎるから、赤くなった彼女のおでこに軽くキスをするくらいなら許されるかな、と思って。
その瞬間――。
「レベッカさんの新作タルトと軽食買ってきたわよ! 食べましょ! で、キスくらいした?」
バーンとドアを開けて、最悪のタイミングでソニアが帰ってきた……。
「してないよっ!」
「してません!」
俺とサーシャは顔を真っ赤にしながら同時に言い返した。
ソニアがあと10秒遅く帰ってくれば、一応したところだったはずなのに!
ああ……。
床を転がっている時間が長すぎたな……。
ソニアが捕まえたという犯人は、縛り上げられて別の衛兵が担いでいった。
恐らく30代半ばくらいに見える衛兵は、背に穴の開いた俺の服と、その場に流れている血を見て厳しい顔をしている。
「先程の光は私も見たよ。そして、女神のお声も確かに聞いた。そしてこの血の量からすると、実際に君が死んでいたのはほぼ間違いないだろう」
死んでたのは知ってる。女神の部屋で聞いたから。
だけど……まあ、話がややこしくなるから、ここは黙っておこう。知ってましたなんて言ったら、「実は意識があった」と思われかねない。
「死んでいたわ。脈がなくなっていたのは私とサーシャが確認したもの。それに、何人もジョーが血を噴き出しながら倒れたのは見ているはずよ」
「ああ、そのようだ。優れた風魔法使いがいたようだね、逃亡しようとする犯人の足の腱を切ってくれたのは良い判断だった。これから応急処置のみを施して、詰め所で取り調べを行うことになる」
俺は見た。優れた風魔法使いと言われてソニアが「んふっ」というにやけた顔をしたことを。
ちゃんと魔法を狙ったところに当てたんだ……びっくりだな。
この短時間でいろいろ衝撃的にも程がある。
俺とサーシャが疲弊していたので、取り調べでわかったことがあったら伝えてもらうことになった。連絡先としていつも泊まっている宿屋の名前を告げようとし……さすがにこの格好で行ったら大騒ぎになると考え直して、俺はベーコン工房を建築中の場所を伝えた。
ついでに魔法収納空間から毛布を2枚取り出して、血まみれで目立ちすぎる俺とサーシャはマント代わりにそれを羽織る。
羽織れるものの持ち合わせがないから仕方ないけど、さすがに暑い!
俺たちは早足でベーコン工房に向かい、仕事中だった棟梁に挨拶をしてから事情を話して、建築中の外壁の内側に家を出させてもらった。
アヌビスは、小さな体でちょこちょこと付いてきている。
可愛い……。癒やされるな。
ソニアとサーシャのためにテーブルセットを出して、俺はサーシャに一言謝ってから先に風呂に入らせてもらうことにした。
体はどこも痛くないし、多分傷痕とかも残っていないだろう。
でも、上着からズボンまで本気で血に染まっていて……正直、ゾッとずる。
もったいないけど、これは捨てて買い換えだな。
俺はため息をついて下着に至るまで血まみれになっている服を収納すると、風呂に湯を張った。
中に浸かることはせずに、手桶でざばざばと湯を被って体に付いた血を洗い流す。
血の匂いが残らないように頭の先からつま先まで石けんで丹念に洗い、やっと人心地付いた。
濡れた髪を適当に拭きながら服を着て風呂場から出ると、キャッキャという笑い声が聞こえる。サーシャとソニアの笑い声は、俺の心をほんわりと温めてくれた。
「ジョー、この子、すっごくお利口よ!」
ちんまりとお座りをしたアヌビスが、ソニアの指示に従ってお手をしたりして愛嬌を振りまいている。
アヌビスって、敵対してなければこんなに従順なのか……。
いや、俺と同化してたアヌビスだというし、タンバー様の聖獣だから本来は人に懐く性質を持っているのかもしれない。
「あああ、ぎゅーってしたいけど、この子に血が付いたら困りますね! じゃあ私もお風呂に入って着替えてきます」
アヌビスに名残惜しそうな視線を残しながら、サーシャが足早に風呂場に向かっていく。俺はサーシャの荷物をどんと脱衣所に置いて、ソニアの向かいに座った。
「ところでジョー」
俺がソニアに謝ろうとした途端、向こうから真顔で話しかけられた。
「この小さいアヌビス、どうしたの? 明らかにあなたに付いてきてるわよね」
「それか……。俺、ソニアに謝ってお礼を言おうとしたんだけど」
「それはサーシャに言うのが先でしょ」
正論過ぎてぐうの音も出ない。俺が手を差し出すと、アヌビスは尻尾を振って俺の膝に飛び乗ってきた。
「呪いだかなんだかわからなかったあの首輪、タンバー様の神像を俺が洗い清めたことに対する恩寵だったんだって。それで、俺にアヌビスが同化してた。……というか、結構ややこしい話だから、サーシャが来てから話すよ」
「ちょっと聞いただけでややこしそうなのはわかったわ。
あー、異様に疲れる日だったわね。ファーブ鉱山から戻ってきて、私の家に行って、帰りにあれだもの。何か甘いものでも食べたいけど、衛兵が来るかもしれないから出かけられないし……違うわ! むしろ今行くべきなのよ! ちょっと私蜜蜂亭に行ってくるわね!」
「え? う、うん。気を付けて」
突然出て行ってしまったソニアを、俺は呆然と見送った。
暴風娘の二つ名にふさわしい暴風っぷりだ。
俺がアヌビスと戯れていると、サーシャが着替えて風呂場から戻ってきた。
おそらく俺と同じように、血の匂いを消そうと全身洗ったのだろう。濡れてぺたりとした長い髪を、布でぎゅうぎゅうと絞っている。
「あら、ソニアさんは?」
「甘いものが食べたいから今のうちに買ってくるって飛び出していったよ」
「……あ、そ、そういうことなんですね」
「どういうこと?」
俺には理解できない何かを察しているらしいサーシャの様子に、何もわかってない俺は素直に尋ねた。
見る間にサーシャの顔が赤く染まり、彼女は両手で顔を覆って崩れ落ちた。
「ひゃああああー! 恥ずかしい! 今頃恥ずかしいです! 私、私ジョーさんに面と向かって好きだって……」
「あああああ!? そ、そのこと!?」
唐突にソニアの意図を俺は理解した。俺とサーシャをふたりきりにするために、気を利かせてくれたんだろう。
でも実際は、俺とサーシャはお互いに「うわあああ!」「きゃああああ!」と奇声を発しながら床を転げ回っているばかりだった……。
そんな自分たちの奇行を恥ずかしいと思えるくらいバタバタと体力を消費して冷静になったところで、俺とサーシャは示し合わせたわけでもないのに無言でテーブルセットの向かい合わせの場所に座った。
「そ、その……」
「凄く今更だけど……さっきも言った通り、初めて会ったときからサーシャのことが好きだったんだ。お、俺の恋人になってもらえますか?」
「コココココ!」
「サーシャ! ニワトリになってる!」
赤くなったり青くなったり、サーシャの顔色は忙しい。
でも俺は知っている。これが彼女の限度を振り切ってしまったときの照れの発露だということを。
「あの……私なんかでいいんでしょうか……? その、『顔だけは可愛い』って言われることはたまにあったんですが、ジョーさんも知ってる通り私はいろいろと駄目なところが多い人間ですし……」
「えっ、サーシャに駄目なところなんてあったっけ? 補助魔法が他に掛からないくらいしか思い当たらないけど……。
あのさ、最初は、泣いてる君を見て可愛いなって思ったんだ。でも、話してるうちに自分を追放したアーノルドさんたちの事を思い遣ってる君の心根が、凄く清らかで優しいんだってわかって……多分、その時俺はサーシャを好きになったんだよ。本当は魔物が出る世界で戦ったりしたくないから、テトゥーコ様からスキルをもらうときに戦わなくても良さそうな空間魔法を選んだんだ。
でも、君と離れたくないから冒険者をやることを選んだ。俺に優しくしてくれるサーシャから離れるのが心細かったからってのもあったけど――一緒に、いたかったんだ」
言葉を止めたら羞恥心に負けてしまいそうで、俺はサーシャに向かって一気に話した。すると――。
ガン、と凄い音がした。
サーシャが、テーブルに思い切りおでこをぶつけた音だった。
「サーシャ!?」
「あうう……そ、その、私、恋愛というものを全くわかっていなくて……。ジョーさんに妙に近づこうとする女性とかに苛立ったり、変な気持ちになったりすることはわかってたんですけど、それがやきもちだって気付かなくて。ジョーさんと一緒にいるとドキドキするけどほっとするとか、そういうこともどうしてなのか全然わかってなくて!
あの、本当に、鈍くてすみません……私、初めて会ったときからジョーさんの事を自分の特別だって思ってはいたんですが、それが『好き』ってことだってついさっき気付いたばかりで」
「大丈夫……知ってた……サーシャは恋愛に鈍いって……だから恋物語の本とか勧めたんだけど」
「ひえええっ!? そういうことだったんですね!」
知ってた……知ってたよ、超弩級に鈍いって。
でも、そういうところも含めて、俺はサーシャが好きなんだよな。
サーシャが顔を上げると、テーブルに思い切りぶつけたおでこが赤くなっていた。ちょっと痛々しい。
目を潤ませてサーシャは俺と目を合わせたり逸らしたりいろいろしてから、消え入りそうな声で下を向いて答えた。
「こんな私で良ければ、ジョーさんの恋人にしてください。テトゥーコ様に請願するときにも言ってしまったんですが、私はジョーさんがいないと生きていけません。いつの間にか、私の心の中があなたのことでいっぱいになっていて……。ジョーさんを失ったと思ったとき、そのぽっかり開いた穴に耐えられなくて」
「うん、ごめん。これからは油断しないようにする。――サーシャ、顔を上げて」
俺は立ち上がって、きょとんとしたサーシャの顔に自分の顔を寄せた。
いきなりキスは恥ずかしすぎるから、赤くなった彼女のおでこに軽くキスをするくらいなら許されるかな、と思って。
その瞬間――。
「レベッカさんの新作タルトと軽食買ってきたわよ! 食べましょ! で、キスくらいした?」
バーンとドアを開けて、最悪のタイミングでソニアが帰ってきた……。
「してないよっ!」
「してません!」
俺とサーシャは顔を真っ赤にしながら同時に言い返した。
ソニアがあと10秒遅く帰ってくれば、一応したところだったはずなのに!
ああ……。
床を転がっている時間が長すぎたな……。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる