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ネージュ編
45 犬の有効活用
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「ジョーさん! 今からオウルベア退治に行きましょう! 今なら鼻が利くんですよね?」
サーシャの鶴の一声で、俺はサーシャとふたりで夜間のオウルベア退治に向かうことになった。
魔法収納空間にしまってあるオウルベアを出して匂いを嗅ぐ。――うん、凄く獣臭……。
犬鼻で嗅ぐと結構きつい匂いだな。でも、なんか単純な獣臭ではなくて、独特の妙な匂いがする。臭い匂いと、ちょっと良い匂いが混じったような不思議な獣臭。
何だろうとフガフガ匂いを嗅いでいた俺は、それがオウルベアの羽の匂いであることに気付いた。
こ、これは!!
水浴び好きのインコの匂いだ!
俺は完全にオウルベアの匂いを把握した!
俺は改めてオウルベアを収納すると、サーシャに向かって「行こう!」と一声吠えて伝えた。
とはいえ、いきなりここからオウルベアの匂いを補足できるわけじゃない。サーシャが明日に回そうとしていた地域を歩き、俺はひたすら嗅覚に神経を集中させた。
サーシャが持っているランタンが、それほど強い灯りではないけども周囲を照らしている。その中で俺はオウルベアの残り香に気付き、辺りを見回した。
俺が見つけたのは、熊の爪痕が付いた木だ。わかりやすい!
ヒグマの行動半径は異様に広いけど、オウルベアはどうなんだろうなあ。
俺は木に鼻を寄せてオウルベアの匂いだと確認すると、地面に残った匂いを辿って歩き出した。
凄い、俺ちゃんと犬やれてる。
いや、ありがたくはないけど。
進むにつれて匂いが強くなっていく。その先に間違いなくオウルベアがいるはずだ。
「言い忘れてました! オウルベアは夜行性です!」
サーシャの爆弾発言に俺は仰け反った。
それは、早く言って欲しかった!
そうか、フクロウが混じってるからか! 山でツキノワグマに遭遇したことがあるけど、昼行性だという知識は持ってたからうっかりオウルベアも昼行性かと思ってた!
この先にオウルベアがいるという警告を、前脚で前方を示すことでサーシャに伝える。山に入る前にサーシャは補助魔法を掛けているので、既に臨戦態勢だ。
ヒグマだと火を恐れないからあまり意味がないんだけども――俺はオウルベアがいる方向に向かって《火球》を打った。人間の時の俺の拳よりも一回り大きい火の玉が、闇を切り裂いて飛んでいく。
「ギョアー! ギョアアアアアー!!」
俺が《火球》を打った先から、威嚇と覚しき鳥の声が聞こえる。かなりの鳴き声のでかさで、俺は思わず毛が逆立ちそうになった。
「いました! 行きます!」
駆けだしたサーシャの後を追って、俺もオウルベアに向かって走った。
今なら、俺も戦える。いや、大した攻撃力はないんだけど、足の速さで攪乱することはできるはず。
――そう思っていたのに、サーシャはあっさりとオウルベアの頭部にメイスを叩き込み、一狩り終えていた。
相変わらず強い。
その後も俺とサーシャは数時間掛けてオウルベア狩りをし、夜中になる前に残りのノルマ4頭を退治することができた。
運良く――というか申し訳ないことにと言うか、最後は番でいたので1カ所で2頭狩ることができたのだ。
日数が掛かるかも、なんて鍛冶ギルドの親方にサーシャが言ってた気がするんだけど、結局1日で終わったな……。
サーシャはオウルベアの羽を一部引っこ抜いて、木にぶら下げた。これは偽物のカラスをごみ置き場に吊すのと同様の効果があるらしい。
つまり「この辺のオウルベアは人間にやられたぞ」という人間側の宣戦布告。
人間にとって魔物が脅威であるように、魔物にとっての天敵は人間だ。オウルベアから見ても例外ではない。
だから、それ以上踏み込んだら人間に退治されることをわかっているなら、オウルベアは近辺に棲み着かないそうだ。
フクロウ頭だけあって賢いんだな。
その後、無事家まで戻り、サーシャのために風呂に湯を張ると俺は早々に小部屋に戻った。
ちょっと今日は感傷的だ。
――願わくば、次の生が穏やかでありますように。
昼間ダイアウルフに捧げたサーシャの祈りが、未だに俺の耳には残っていた。
依頼されたことは終わったので、俺たちは翌日鉱夫のサブリーダー的なダンさんという人と一緒にネージュに戻ることになった。
製錬所を作るための周囲の状況の詳しい説明と、それと実際にダイアウルフの群れを俺たちが殲滅したということを証言してくれるらしい。
本来狩った魔物はギルドに買い取りしてもらうのだが……ソニアの風魔法は明らかに買取向きではなく、ズッタズタにされた上に埋葬してしまったから、討伐証明がないのだ。
道すがら俺は帽子を取って犬耳を見せ、タンバー神殿で起こった事をあらかたダンさんに説明した。ただ歩くだけなので、喋る時間はいくらでもあるのだ。
これを説明しておかないと、夜にパニックになられたら困るしな……。
「へえ、サブカハの神殿でそんなことがあったのか。実は鉱夫ってのは、タンバー様を信仰してる奴が多いんだぜ」
「そうなんですか!?」
「タンバーとタンコーが一文字違いだろう?」
大真面目な顔で返されたまさかの駄洒落に、サーシャとソニアは困った顔をし、俺の耳はぺたんと垂れた。
今のは自分でもわかった。参ったな、犬耳。俺自身の表情筋が鈍くても、気持ちが出ちゃうよ……。
「まさかの駄洒落……」
異様にテンションの落ちた低い声でソニアが呟く。ダンさんは慌てて手を振り、それだけではないと示した。
「いやいや、それも神様との縁ってもんだぜ? それだけじゃなくてよ、炭鉱ってのは奥へ奥へと続いてて、まるであの世に向かってるような気持ちになることもあるんだ。落盤なんて起きたら命も危ないし、死が身近にある仕事なんだよ。だから、霊界神タンバー様を信仰し、加護を願うんだ」
「ああ、そういうことですか。学者さんにテトゥーコ様の信者が多いのと似たような理由ですね」
「そそ、そういえば最近は学問の神も新興勢力が増えてるらしいじゃないか。ウジハーラにカッズにウィザーワとか。神殿関係も何かと大変だよなあ」
ウジハーラにカッズにウィザーワ……。そして学問の神。
俺の頭の中には、クイズ番組で活躍するお笑い芸人と東大卒の人が思い浮かぶ。そして、そりゃあ確かに新興勢力だろうなあと考えてつい遠い目をしてしまった。
「それでなんだが、ジョーのその首輪からは変な気は感じられねえから、心配しなくてもいいと思うぞ」
「ダンさんってそういうのがわかる人なんですか!?」
「俺はタンバーのプリーストだ。鉱山ってのは怪我人も出るからな、管理職にはプリーストも必要なんだよ。まあ、下位聖魔法しか使えないけどな」
ダンさんの言葉に俺は酷く驚いていた。
まさか、タンバー神殿で指摘されなかったことをここで聞くことになるなんて……。
いや、あの時にはまず「呪い」という先入観があり、それが解けなかったことによって軽いながらも混乱状態があった。
更に俺が犬形態になってしまったことで「わー、アヌビスそっくりだー」というプリーストたちの余計な感情が入ってしまった。
もしかするとダンさんはプリーストとしての素質が高いのかもしれない。実際に習得しているのが下位聖魔法だけだとしても。
上位聖魔法を習得するのは冒険者を目指す人間か、神殿での出世を目指す人間に限られてるらしいから。
「呪いじゃないにしても、ジョー自身はかなり不便なのよね」
俺が思っていたことをソニアが代弁してくれた。
そう、身体能力があがろうが、隠し続けないといけない犬耳や、夜になると強制的に犬になってしまうのは物凄く不便。
特に服。うっかり着たまま犬になるととんでもなく大変だ。今日はダンさんがいるからそれほど心配はないけども。
ネージュへの帰り道は山を下る形になる。俺は山下りに慣れているけども、ソニアがうまくコツを掴めずに下りきった辺りで脚がガタガタになってしまった。
もう歩けないとソニアが駄々をこねたので、仕方なくそこに家を出して今日は休むことにする。
うーん、スピードアップして帰れると思ったんだけど、意外な罠があったな。
山は登るのは簡単なんだ。階段と同じで。
でも、下り階段が脚の弱い人にとって危ないのと一緒で、慣れてないと本当に駄目なんだよな……。
サーシャの鶴の一声で、俺はサーシャとふたりで夜間のオウルベア退治に向かうことになった。
魔法収納空間にしまってあるオウルベアを出して匂いを嗅ぐ。――うん、凄く獣臭……。
犬鼻で嗅ぐと結構きつい匂いだな。でも、なんか単純な獣臭ではなくて、独特の妙な匂いがする。臭い匂いと、ちょっと良い匂いが混じったような不思議な獣臭。
何だろうとフガフガ匂いを嗅いでいた俺は、それがオウルベアの羽の匂いであることに気付いた。
こ、これは!!
水浴び好きのインコの匂いだ!
俺は完全にオウルベアの匂いを把握した!
俺は改めてオウルベアを収納すると、サーシャに向かって「行こう!」と一声吠えて伝えた。
とはいえ、いきなりここからオウルベアの匂いを補足できるわけじゃない。サーシャが明日に回そうとしていた地域を歩き、俺はひたすら嗅覚に神経を集中させた。
サーシャが持っているランタンが、それほど強い灯りではないけども周囲を照らしている。その中で俺はオウルベアの残り香に気付き、辺りを見回した。
俺が見つけたのは、熊の爪痕が付いた木だ。わかりやすい!
ヒグマの行動半径は異様に広いけど、オウルベアはどうなんだろうなあ。
俺は木に鼻を寄せてオウルベアの匂いだと確認すると、地面に残った匂いを辿って歩き出した。
凄い、俺ちゃんと犬やれてる。
いや、ありがたくはないけど。
進むにつれて匂いが強くなっていく。その先に間違いなくオウルベアがいるはずだ。
「言い忘れてました! オウルベアは夜行性です!」
サーシャの爆弾発言に俺は仰け反った。
それは、早く言って欲しかった!
そうか、フクロウが混じってるからか! 山でツキノワグマに遭遇したことがあるけど、昼行性だという知識は持ってたからうっかりオウルベアも昼行性かと思ってた!
この先にオウルベアがいるという警告を、前脚で前方を示すことでサーシャに伝える。山に入る前にサーシャは補助魔法を掛けているので、既に臨戦態勢だ。
ヒグマだと火を恐れないからあまり意味がないんだけども――俺はオウルベアがいる方向に向かって《火球》を打った。人間の時の俺の拳よりも一回り大きい火の玉が、闇を切り裂いて飛んでいく。
「ギョアー! ギョアアアアアー!!」
俺が《火球》を打った先から、威嚇と覚しき鳥の声が聞こえる。かなりの鳴き声のでかさで、俺は思わず毛が逆立ちそうになった。
「いました! 行きます!」
駆けだしたサーシャの後を追って、俺もオウルベアに向かって走った。
今なら、俺も戦える。いや、大した攻撃力はないんだけど、足の速さで攪乱することはできるはず。
――そう思っていたのに、サーシャはあっさりとオウルベアの頭部にメイスを叩き込み、一狩り終えていた。
相変わらず強い。
その後も俺とサーシャは数時間掛けてオウルベア狩りをし、夜中になる前に残りのノルマ4頭を退治することができた。
運良く――というか申し訳ないことにと言うか、最後は番でいたので1カ所で2頭狩ることができたのだ。
日数が掛かるかも、なんて鍛冶ギルドの親方にサーシャが言ってた気がするんだけど、結局1日で終わったな……。
サーシャはオウルベアの羽を一部引っこ抜いて、木にぶら下げた。これは偽物のカラスをごみ置き場に吊すのと同様の効果があるらしい。
つまり「この辺のオウルベアは人間にやられたぞ」という人間側の宣戦布告。
人間にとって魔物が脅威であるように、魔物にとっての天敵は人間だ。オウルベアから見ても例外ではない。
だから、それ以上踏み込んだら人間に退治されることをわかっているなら、オウルベアは近辺に棲み着かないそうだ。
フクロウ頭だけあって賢いんだな。
その後、無事家まで戻り、サーシャのために風呂に湯を張ると俺は早々に小部屋に戻った。
ちょっと今日は感傷的だ。
――願わくば、次の生が穏やかでありますように。
昼間ダイアウルフに捧げたサーシャの祈りが、未だに俺の耳には残っていた。
依頼されたことは終わったので、俺たちは翌日鉱夫のサブリーダー的なダンさんという人と一緒にネージュに戻ることになった。
製錬所を作るための周囲の状況の詳しい説明と、それと実際にダイアウルフの群れを俺たちが殲滅したということを証言してくれるらしい。
本来狩った魔物はギルドに買い取りしてもらうのだが……ソニアの風魔法は明らかに買取向きではなく、ズッタズタにされた上に埋葬してしまったから、討伐証明がないのだ。
道すがら俺は帽子を取って犬耳を見せ、タンバー神殿で起こった事をあらかたダンさんに説明した。ただ歩くだけなので、喋る時間はいくらでもあるのだ。
これを説明しておかないと、夜にパニックになられたら困るしな……。
「へえ、サブカハの神殿でそんなことがあったのか。実は鉱夫ってのは、タンバー様を信仰してる奴が多いんだぜ」
「そうなんですか!?」
「タンバーとタンコーが一文字違いだろう?」
大真面目な顔で返されたまさかの駄洒落に、サーシャとソニアは困った顔をし、俺の耳はぺたんと垂れた。
今のは自分でもわかった。参ったな、犬耳。俺自身の表情筋が鈍くても、気持ちが出ちゃうよ……。
「まさかの駄洒落……」
異様にテンションの落ちた低い声でソニアが呟く。ダンさんは慌てて手を振り、それだけではないと示した。
「いやいや、それも神様との縁ってもんだぜ? それだけじゃなくてよ、炭鉱ってのは奥へ奥へと続いてて、まるであの世に向かってるような気持ちになることもあるんだ。落盤なんて起きたら命も危ないし、死が身近にある仕事なんだよ。だから、霊界神タンバー様を信仰し、加護を願うんだ」
「ああ、そういうことですか。学者さんにテトゥーコ様の信者が多いのと似たような理由ですね」
「そそ、そういえば最近は学問の神も新興勢力が増えてるらしいじゃないか。ウジハーラにカッズにウィザーワとか。神殿関係も何かと大変だよなあ」
ウジハーラにカッズにウィザーワ……。そして学問の神。
俺の頭の中には、クイズ番組で活躍するお笑い芸人と東大卒の人が思い浮かぶ。そして、そりゃあ確かに新興勢力だろうなあと考えてつい遠い目をしてしまった。
「それでなんだが、ジョーのその首輪からは変な気は感じられねえから、心配しなくてもいいと思うぞ」
「ダンさんってそういうのがわかる人なんですか!?」
「俺はタンバーのプリーストだ。鉱山ってのは怪我人も出るからな、管理職にはプリーストも必要なんだよ。まあ、下位聖魔法しか使えないけどな」
ダンさんの言葉に俺は酷く驚いていた。
まさか、タンバー神殿で指摘されなかったことをここで聞くことになるなんて……。
いや、あの時にはまず「呪い」という先入観があり、それが解けなかったことによって軽いながらも混乱状態があった。
更に俺が犬形態になってしまったことで「わー、アヌビスそっくりだー」というプリーストたちの余計な感情が入ってしまった。
もしかするとダンさんはプリーストとしての素質が高いのかもしれない。実際に習得しているのが下位聖魔法だけだとしても。
上位聖魔法を習得するのは冒険者を目指す人間か、神殿での出世を目指す人間に限られてるらしいから。
「呪いじゃないにしても、ジョー自身はかなり不便なのよね」
俺が思っていたことをソニアが代弁してくれた。
そう、身体能力があがろうが、隠し続けないといけない犬耳や、夜になると強制的に犬になってしまうのは物凄く不便。
特に服。うっかり着たまま犬になるととんでもなく大変だ。今日はダンさんがいるからそれほど心配はないけども。
ネージュへの帰り道は山を下る形になる。俺は山下りに慣れているけども、ソニアがうまくコツを掴めずに下りきった辺りで脚がガタガタになってしまった。
もう歩けないとソニアが駄々をこねたので、仕方なくそこに家を出して今日は休むことにする。
うーん、スピードアップして帰れると思ったんだけど、意外な罠があったな。
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