96 / 154
96 通じ合う想い
しおりを挟む
ヴァージルが選んだ真珠の髪飾りは、実際に15万5千ガラムだった。しかもそれを「付けていきます」と彼は言い切り、カモミールの髪に挿してあった髪飾りを抜いて新しく買った髪飾りを自分の手で杏色の髪に付ける。付けてきた髪飾りは布で包んでカモミールのバッグにしまわれた。
支払いをどうするのかと思ったら、まさかの小切手だった。何度も驚かされてカモミールは声も出ない。
「あ、これ? 王都にせっかく行くんだし、もしかしたら大きい買い物をするかもしれないと思って準備してきたんだ。現金をたくさん持ち歩くのは大変だしね」
察したヴァージルが先回りして答えてくれた。言われてみれば納得である。カモミール自身も、「王都で何か大きい仕入れをするかもしれないから」と小切手帳を持ってきているのだから。
観劇の前に、歩き疲れているだろうとヴァージルが気を遣ってくれて手近な店に入って昼食にした。いつもはよく食べる印象のあるヴァージルが、今日は普通の一人前しか食べていないのが少々意外だ。
しかしカモミールもあまり食が進まない。胸が圧迫されるような妙な緊張感を感じていた。
劇場の近くまで歩いたところで、ヴァージルが立ち止まって左腕を軽く曲げた。
「どうぞ、お嬢様。もうすぐ劇場だからね」
「あ、ありがとう」
ヴァージルのエスコートが照れくさい。彼の腕に軽く手を掛けて歩きながら、気恥ずかしさで顔が熱くなってきた。
昨日は妖精を演じていたから、エスコートされてもなんとも思わなかったし、「侯爵様みたいにエスコートして」と以前要求したと言うが酔っ払ったせいで憶えていない。
彼に贈られた宝石を身につけ、腕を組んで歩くなんてまるで恋人同士のようではないか。
劇場の入り口で侯爵家の紹介状を出すと、一般席ではなく見晴らしの良いボックス席に案内された。少し右寄りではあるがほぼ真正面と言ってもいい、相当に良い席だと思われる場所だった。
周囲を見渡せば、見える範囲ではボックス席の女性はドレスを着ており、1階の平土間席の後方や、立ち見の客の中には上流の庶民とおぼしき人も見える。
ボックス席の中では、やはりドレスでないと見劣りがする。しかしそんなことが気になったのは席に入って最初のうちだけで、すぐにカモミールは別のことに意識が向いてしまった。
まばゆい照明を浴びながら歌い踊る舞台上の人々でもなく、迫力ある音楽を奏でる楽団でもなく、どこを見ているのかと言いたくなるほどあらぬところを見ている人が多いボックス席の貴族たちでもなく――隣にいる青年に意識が向きすぎてしまうのだ。
席に入ってすぐ、ヴァージルは一度その場を抜けて飲み物を買ってきてくれた。
そういう風に、彼に気遣われることが気恥ずかしく、嬉しい。
観劇の間も、舞台の上の物語はろくに頭に入ってこなかった。
ヴァージルの目は何を見ているのか、彼は何を考えているのか。そんなことばかりがカモミールの胸を巡っていく。
結局、かなりの長さがあったはずの舞台は、内容がほとんどわからないままに終わっていた。周囲に合わせて拍手をしながら、今更ながらに「侯爵夫人が席を取ってくれたのにとんでもないことをしてしまった」と反省しきりだ。
「ちょっとここで待ってて」
「わかったわ」
観客たちがそれぞれ席を立つ中、ヴァージルはカモミールを残して外へ出て行った。混んだところを通っていくより、今はまだ席にいた方がいいのも確かだ。
間もなく戻ってきたヴァージルは、右手を後ろに回して明らかに何かを隠していた。
個室のドアが閉まり、けれども周囲の喧噪はまだ届く中で、ヴァージルは片膝をついて手に持っていた物をカモミールの前に差し出す。
「ミリー、これを」
「え?」
ヴァージルが差し出したのは、一輪のピンク色をしたバラの花だった。思わずそれを受け取ってから、カモミールは我に返って慌てた。
「こんなにいろいろしてくれなくていいのよ? どうしたの? 髪飾りを貰っただけでもとんでもないことだと思ってるのに」
「君が、このブローチを選んでくれた。僕にとってはそれが何よりのお返し――というと順番が変だね。でも、実際そうなんだ。ミリーがその宝石を選んでくれて、それを僕の目と同じ色と思ってくれて、凄く嬉しい。真珠の髪飾りやバラの花じゃ足りないくらいだよ。
本当は、抱えきれないくらいの花束を贈りたい。でもそれを持ち歩くのは邪魔になるから、劇場の小間使いに一輪だけバラを買ってきて貰うように頼んだんだ」
自分の心臓の音が、カモミールには妙にうるさく感じた。
ふたりきりのボックス席の中、ヴァージルはカモミールに向かって手を差し伸べてくる。よく見慣れたはずの青年の緑色の目が、熱を帯びて自分を見つめていることにカモミールは気づいていた。
「僕は、君を愛してる。本当に身勝手な願いだとはわかってるけど、僕の手を取って欲しい。ずっとミリーと一緒にいたい」
「私を……ヴァージルが?」
「何年も君のことだけを想ってきたんだ。僕を照らす太陽、僕のひまわり。ミリー、どうか僕の気持ちを受け取って欲しい」
カチリ、と頭の中で音がした気がした。ヴァージルの言葉が引き金になって、今まで彼によって封じられ、あるいはカモミール自身で抑え込んでいた気持ちがあふれ出す。
「私も――そうよ、私もヴァージルのことが好き。どうしてこの気持ちを今まで忘れてたのかしら。このブローチを選んだのは、ヴァージルの目の色だからだってわかってたのに」
差し出された手に自分の手を重ねながら、カモミールはぽろぽろと涙を流した。胸の中で蘇った感情に翻弄されていて、涙は自分で止めることができなさそうだ。
「僕は、以前一度君に告白されたことがある」
ヴァージルの思わぬ言葉にカモミールは目を見開いた。それは自分の記憶の中にない事柄だったのだ。
「でも、その時僕はミリーの愛を受け入れることを拒んだんだ。『幼馴染み』として側にいるのが一番楽だったから、君との距離が変わるのが怖くて、自分勝手な都合で君を傷つけた」
「まさか、私にその記憶がないのは、その時のショックが激しすぎたせい?」
「そう――だね、多分。僕が勇気を出せれば、君を苦しめることもなかったのに」
苦しげに目を伏せたヴァージルの頬に、カモミールはそっと手を伸ばした。
――そして、彼の頬を軽く摘まむ。驚くヴァージルに口を尖らせて彼女はぼやいた。
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
「ごめん」
「そうじゃなくて、私の告白を断ったことであなたが苦しんでたんでしょう? ああっ、思い出したわ! そうよ、新しい服を買って、ヴァージルがあんまり照れながら褒めてくれたものだから、その時にやっと私はあなたのことが好きだって気づいたの。それでタマラに相談しに行って――繋がった、繋がったわ! タマラはあの時私の背を押すために一緒に来てくれたんだった。だから、ヴァージルが私を振るところも見てたのね?」
「そこまで思い出したの? ミリー、頭痛はしない?」
ヴァージルが心配げにカモミールの顔を覗き込む。カモミールはただ首を振って彼の言葉を否定した。
「タマラとヴァージルが突然仲良くなったなと思ってたんだけど、その時のせいでしょう?」
「う、うん……気を失った君を抱きかかえながら、僕は君のことを愛してるけど幼馴染みでいるのが一番いいんだってタマラさんに言ったんだ。それから、いろいろ僕のことを気に掛けてくれるようになって」
「タマラって優しいもんね。……そっか、船の中でもタマラに相談してたんでしょう」
「船の中だけじゃないよ。昨日のお披露目会の時も、君が綺麗になりすぎて動揺した僕に、他の男に取られるのが怖いんじゃないのかって背中を押してくれたのはタマラさんだった」
「そうなのね。タマラには後で御礼を言わなくちゃ」
カモミールの小さな顔を、ヴァージルの両手がそっと包む。その手からじんわりと何かが流れ込んでくるような気がした。
「ヴァージル……今のあなたの目、紫色になってるわ」
「そう? ミリーが言うならそうなんだろうね。だから、そのブローチは僕の目の色なんだよ」
「えっ、えっ、目の色が変わるなんてことあるの? この紫色まで同じ色なの?」
「……ミリーは、前にもこの色を見たことがあるはずだよ。でも今はそんなことはいいから、目を閉じて」
囁かれる声が何を示しているのか、カモミールですら察することができた。
まぶたが引きつるような緊張を憶えながらぎゅっと目を閉じると、唇に温かくて柔らかい物が触れてくる。
彼に触れられているところが全部熱くなってしまいそうで、カモミールはくらくらとしてきた。手でもなく、額でもなく、ただ唇同士が触れていると言うだけで、何故こんなにもドキドキとするのだろう。
どれほどの間、そうしてキスを交わしていたのかよくわからない。長い時間だった気もするし、僅かの間だったかもしれない。
ヴァージルが離れたので目を開けたカモミールは、彼が泣いていることに気づいてしまった。その目元に指を伸ばしながら、胸が締め付けられる様な苦しさを感じつつカモミールは問いかける。
「どうして、泣いてるの?」
カモミールの細い指で涙を拭われて、ヴァージルはその手をそっと握りしめてそこに頬を寄せる。
「僕は、幸せになるのが怖いってずっと思ってきた。幸せになったら、その幸せが失われたときに余計に辛いから。――でも今、幸せで、嬉しくて」
「幸せを怖いなんて言わないで。私も、今とても幸せよ」
「うん。ミリー、愛してるよ」
「私も」
男性にしてはヴァージルは細い方だが、その胸に抱きしめられると頼りなさなど何も感じはしなかった。
自分をずっと間近で見ていてくれた幼馴染みと想いを通じて、やっとカモミールは彼の腕の中で安息を得ることができたのだ。
支払いをどうするのかと思ったら、まさかの小切手だった。何度も驚かされてカモミールは声も出ない。
「あ、これ? 王都にせっかく行くんだし、もしかしたら大きい買い物をするかもしれないと思って準備してきたんだ。現金をたくさん持ち歩くのは大変だしね」
察したヴァージルが先回りして答えてくれた。言われてみれば納得である。カモミール自身も、「王都で何か大きい仕入れをするかもしれないから」と小切手帳を持ってきているのだから。
観劇の前に、歩き疲れているだろうとヴァージルが気を遣ってくれて手近な店に入って昼食にした。いつもはよく食べる印象のあるヴァージルが、今日は普通の一人前しか食べていないのが少々意外だ。
しかしカモミールもあまり食が進まない。胸が圧迫されるような妙な緊張感を感じていた。
劇場の近くまで歩いたところで、ヴァージルが立ち止まって左腕を軽く曲げた。
「どうぞ、お嬢様。もうすぐ劇場だからね」
「あ、ありがとう」
ヴァージルのエスコートが照れくさい。彼の腕に軽く手を掛けて歩きながら、気恥ずかしさで顔が熱くなってきた。
昨日は妖精を演じていたから、エスコートされてもなんとも思わなかったし、「侯爵様みたいにエスコートして」と以前要求したと言うが酔っ払ったせいで憶えていない。
彼に贈られた宝石を身につけ、腕を組んで歩くなんてまるで恋人同士のようではないか。
劇場の入り口で侯爵家の紹介状を出すと、一般席ではなく見晴らしの良いボックス席に案内された。少し右寄りではあるがほぼ真正面と言ってもいい、相当に良い席だと思われる場所だった。
周囲を見渡せば、見える範囲ではボックス席の女性はドレスを着ており、1階の平土間席の後方や、立ち見の客の中には上流の庶民とおぼしき人も見える。
ボックス席の中では、やはりドレスでないと見劣りがする。しかしそんなことが気になったのは席に入って最初のうちだけで、すぐにカモミールは別のことに意識が向いてしまった。
まばゆい照明を浴びながら歌い踊る舞台上の人々でもなく、迫力ある音楽を奏でる楽団でもなく、どこを見ているのかと言いたくなるほどあらぬところを見ている人が多いボックス席の貴族たちでもなく――隣にいる青年に意識が向きすぎてしまうのだ。
席に入ってすぐ、ヴァージルは一度その場を抜けて飲み物を買ってきてくれた。
そういう風に、彼に気遣われることが気恥ずかしく、嬉しい。
観劇の間も、舞台の上の物語はろくに頭に入ってこなかった。
ヴァージルの目は何を見ているのか、彼は何を考えているのか。そんなことばかりがカモミールの胸を巡っていく。
結局、かなりの長さがあったはずの舞台は、内容がほとんどわからないままに終わっていた。周囲に合わせて拍手をしながら、今更ながらに「侯爵夫人が席を取ってくれたのにとんでもないことをしてしまった」と反省しきりだ。
「ちょっとここで待ってて」
「わかったわ」
観客たちがそれぞれ席を立つ中、ヴァージルはカモミールを残して外へ出て行った。混んだところを通っていくより、今はまだ席にいた方がいいのも確かだ。
間もなく戻ってきたヴァージルは、右手を後ろに回して明らかに何かを隠していた。
個室のドアが閉まり、けれども周囲の喧噪はまだ届く中で、ヴァージルは片膝をついて手に持っていた物をカモミールの前に差し出す。
「ミリー、これを」
「え?」
ヴァージルが差し出したのは、一輪のピンク色をしたバラの花だった。思わずそれを受け取ってから、カモミールは我に返って慌てた。
「こんなにいろいろしてくれなくていいのよ? どうしたの? 髪飾りを貰っただけでもとんでもないことだと思ってるのに」
「君が、このブローチを選んでくれた。僕にとってはそれが何よりのお返し――というと順番が変だね。でも、実際そうなんだ。ミリーがその宝石を選んでくれて、それを僕の目と同じ色と思ってくれて、凄く嬉しい。真珠の髪飾りやバラの花じゃ足りないくらいだよ。
本当は、抱えきれないくらいの花束を贈りたい。でもそれを持ち歩くのは邪魔になるから、劇場の小間使いに一輪だけバラを買ってきて貰うように頼んだんだ」
自分の心臓の音が、カモミールには妙にうるさく感じた。
ふたりきりのボックス席の中、ヴァージルはカモミールに向かって手を差し伸べてくる。よく見慣れたはずの青年の緑色の目が、熱を帯びて自分を見つめていることにカモミールは気づいていた。
「僕は、君を愛してる。本当に身勝手な願いだとはわかってるけど、僕の手を取って欲しい。ずっとミリーと一緒にいたい」
「私を……ヴァージルが?」
「何年も君のことだけを想ってきたんだ。僕を照らす太陽、僕のひまわり。ミリー、どうか僕の気持ちを受け取って欲しい」
カチリ、と頭の中で音がした気がした。ヴァージルの言葉が引き金になって、今まで彼によって封じられ、あるいはカモミール自身で抑え込んでいた気持ちがあふれ出す。
「私も――そうよ、私もヴァージルのことが好き。どうしてこの気持ちを今まで忘れてたのかしら。このブローチを選んだのは、ヴァージルの目の色だからだってわかってたのに」
差し出された手に自分の手を重ねながら、カモミールはぽろぽろと涙を流した。胸の中で蘇った感情に翻弄されていて、涙は自分で止めることができなさそうだ。
「僕は、以前一度君に告白されたことがある」
ヴァージルの思わぬ言葉にカモミールは目を見開いた。それは自分の記憶の中にない事柄だったのだ。
「でも、その時僕はミリーの愛を受け入れることを拒んだんだ。『幼馴染み』として側にいるのが一番楽だったから、君との距離が変わるのが怖くて、自分勝手な都合で君を傷つけた」
「まさか、私にその記憶がないのは、その時のショックが激しすぎたせい?」
「そう――だね、多分。僕が勇気を出せれば、君を苦しめることもなかったのに」
苦しげに目を伏せたヴァージルの頬に、カモミールはそっと手を伸ばした。
――そして、彼の頬を軽く摘まむ。驚くヴァージルに口を尖らせて彼女はぼやいた。
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
「ごめん」
「そうじゃなくて、私の告白を断ったことであなたが苦しんでたんでしょう? ああっ、思い出したわ! そうよ、新しい服を買って、ヴァージルがあんまり照れながら褒めてくれたものだから、その時にやっと私はあなたのことが好きだって気づいたの。それでタマラに相談しに行って――繋がった、繋がったわ! タマラはあの時私の背を押すために一緒に来てくれたんだった。だから、ヴァージルが私を振るところも見てたのね?」
「そこまで思い出したの? ミリー、頭痛はしない?」
ヴァージルが心配げにカモミールの顔を覗き込む。カモミールはただ首を振って彼の言葉を否定した。
「タマラとヴァージルが突然仲良くなったなと思ってたんだけど、その時のせいでしょう?」
「う、うん……気を失った君を抱きかかえながら、僕は君のことを愛してるけど幼馴染みでいるのが一番いいんだってタマラさんに言ったんだ。それから、いろいろ僕のことを気に掛けてくれるようになって」
「タマラって優しいもんね。……そっか、船の中でもタマラに相談してたんでしょう」
「船の中だけじゃないよ。昨日のお披露目会の時も、君が綺麗になりすぎて動揺した僕に、他の男に取られるのが怖いんじゃないのかって背中を押してくれたのはタマラさんだった」
「そうなのね。タマラには後で御礼を言わなくちゃ」
カモミールの小さな顔を、ヴァージルの両手がそっと包む。その手からじんわりと何かが流れ込んでくるような気がした。
「ヴァージル……今のあなたの目、紫色になってるわ」
「そう? ミリーが言うならそうなんだろうね。だから、そのブローチは僕の目の色なんだよ」
「えっ、えっ、目の色が変わるなんてことあるの? この紫色まで同じ色なの?」
「……ミリーは、前にもこの色を見たことがあるはずだよ。でも今はそんなことはいいから、目を閉じて」
囁かれる声が何を示しているのか、カモミールですら察することができた。
まぶたが引きつるような緊張を憶えながらぎゅっと目を閉じると、唇に温かくて柔らかい物が触れてくる。
彼に触れられているところが全部熱くなってしまいそうで、カモミールはくらくらとしてきた。手でもなく、額でもなく、ただ唇同士が触れていると言うだけで、何故こんなにもドキドキとするのだろう。
どれほどの間、そうしてキスを交わしていたのかよくわからない。長い時間だった気もするし、僅かの間だったかもしれない。
ヴァージルが離れたので目を開けたカモミールは、彼が泣いていることに気づいてしまった。その目元に指を伸ばしながら、胸が締め付けられる様な苦しさを感じつつカモミールは問いかける。
「どうして、泣いてるの?」
カモミールの細い指で涙を拭われて、ヴァージルはその手をそっと握りしめてそこに頬を寄せる。
「僕は、幸せになるのが怖いってずっと思ってきた。幸せになったら、その幸せが失われたときに余計に辛いから。――でも今、幸せで、嬉しくて」
「幸せを怖いなんて言わないで。私も、今とても幸せよ」
「うん。ミリー、愛してるよ」
「私も」
男性にしてはヴァージルは細い方だが、その胸に抱きしめられると頼りなさなど何も感じはしなかった。
自分をずっと間近で見ていてくれた幼馴染みと想いを通じて、やっとカモミールは彼の腕の中で安息を得ることができたのだ。
18
お気に入りに追加
609
あなたにおすすめの小説
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~
玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。
平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。
それが噂のバツ3将軍。
しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。
求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。
果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか?
※小説家になろう。でも公開しています
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜
とかげになりたい僕
ファンタジー
不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。
「どんな感じで転生しますか?」
「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」
そうして俺が転生したのは――
え、ここBLゲームの世界やん!?
タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!
女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!
このお話は小説家になろうでも掲載しています。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる