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第五章 輝色の聖夜

77:何度でも3

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 最後の予約客が注文していたオードブルを受け取りに来たあと、ようやく店を閉め、叔父と叔母と共に私は家へ帰った。
 宵の口に紅君と見た雪はもうやんでいたが、夜も更け、寒さはかえって増したように感じた。 

「お疲れさん……今日は本当に忙しかったねえ……」

 肩を叩いて労わってくれる叔母を、私は申し訳ない気持ちで見つめる。 

「うん。ごめんなさい……忙しい時間に、長々と休憩して……」

 紅君と教会まで行った時間は、彼が言っていたとおりそれほど長くはならなかった。
 しかしそのあとがだめだった。

 さんざん回り道してやっと辿り着いた紅君の隣から、私は離れたくなくて、みっともないほどぐずぐすした。
 ようやく店へ戻った時、叔父も叔母も何も言わなかったが、二人ばかりに負担をかけてしまったことは確かだ。
 
「ごめんなさい……」

 くり返す私の頭を、叔母がはたくようにパーンと軽快に叩いた。

「何を言ってるんだよ、この子は! 文句も言わずに朝からずっと家の手伝いしといて……こんな孝行娘はいないよ! ……助かったよ。ありがとう、千紗」

 豪快に言って大声で笑うので、私はほっと肩の力が抜ける。
 嬉しさに胸が詰まり、熱いものがこみ上げた。 

「休憩だって……ほんとは帰って来なくてもいいくらいだったのに……律儀に帰って来るんだから……なんてったってクリスマスだよ? もっと好きな人と一緒にいたかっただろ?」
「叔母さん!」

 からかうように顔をのぞきこまれ、私は大慌てした。
 私を誘いに弁当屋まで来たのは蒼ちゃんだ。私と蒼ちゃんは叔母が思っているような関係ではない。

「蒼ちゃんと私は……」

 慌てて訂正しかけた私の言葉を、叔母はあっさりと遮った。

「知ってるよ。千紗が好きなのは蒼ちゃんの弟だろ。ずっと前に蒼ちゃんから聞いた。だからそれぐらい、私だってちゃあんとわかってるよ……!」

 驚いた。
 まさか蒼ちゃんがそういうことを叔母に伝えていたとは思いもしなかった。

「それにね……あんたはまるで気づいてなかっただろうけど、弟君のほうだって春からこっち、ずいぶん何度も店の前まで来てたよ……声もかけないで、ずっとあんたを、ただ見てた……あんな表情見てたら、蒼ちゃんじゃなくたって、自分のことは棚に上げてでも応援してあげたくなっちまうよねえ……」 

 ドキリと跳ねた心臓が、口から飛び出してしまうかと思った。
 立ち止まった私と叔母を置き去りに、叔父は何も聞こえないふりでさっさと行ってしまう。
 その背中を見送りながら、どうしようもなく頬が熱くなるのが、自分でもよくわかった。 

「大事にしなよ。自分の気持ちも相手の気持ちも……想って想われる相手に出会えたなんて……それだけで幸せなことなんだよ」

 バシンと今度は私の背中を叩き、叔母は叔父のあとを追って歩きだした。 

「だからどんなに忙しくたって、私は幸せ。こんな話……あの人には秘密だからね!」

 しいっと人差し指を口の前に当ててみせる仕草に、私は思わず笑った。
 同じように笑って歩き続ける叔母を追いかけ、また一つ、自分の幸せを実感した夜だった。
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