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第一章 桜色の初恋
15:未来の約束1
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「それで? ……ここからは俺が先に行けばいいの?」
『希望の家』に私も一緒に住むことになり、放課後のように二人で自転車に乗って登校した朝、いつもの土手に赤い自転車を隠しながら、紅君はそう尋ねた。
「うん……できたらそうして欲しい……」
真っ直ぐに見つめられていることが居心地悪く、私はうつむく。
そんな私に紅君は望みどおり、くるりと背を向けてくれた。
「わかった。じゃあまた帰りにね……ちい……」
うしろ手に手を振りながら去っていく背中を、道の真ん中に立ち止まったまま、私はしばらく見送った。
歩き始めて数メートルも行かないうちに、脇道から土手に出てきた男の子たちが、紅君の姿を見つけて駆け寄る。
ポンと頭を叩きあったり、肩を組んだりして、ひとしきり談笑して離れると、またあっという間に違う男の子たちが集まる。
そのうしろを歩きながら、きゃっきゃと小声ではしゃいでいる女の子たちの姿も見える。
前方から来る犬を散歩させている女の人にも、うしろから自転車で追い越していく学生服姿のお兄さんにも、紅君は笑顔で会釈し、大きく手を振って挨拶する。
(ふふっ……いかにも紅君らしい……)
みんなに愛され、彼自身もみんなを愛している、人気者の『紅也君』がそこにはいた。
あの彼の隣を歩くことは、私には難しい。
(紅君はそんなことないって言うけど……私と紅君じゃ何もかもが違う……違いすぎる……)
だから遠くから見ているのがいい。
離れてうしろを歩きながら、その背中をこうして見ているぐらいが、私にはちょうどいい。
澤井に殴られた頬は痛いし、母ともしばらく会えなくなり、私の人生など悪いことだらけだが、紅君の背中を見ているだけで、それらを一時でも忘れられる。
それが嬉しかった。
そういう些細なことが、その頃の私の幸せの全てだった。
楽しみなど何もないが、ただ遠くから紅君の姿を見るためだけの学校に、私は今日も一歩を踏みだした。
「ごめんなさい千紗……もうちょっと……もうちょっと待ってね」
母からは時々、辛そうな声でそういう電話がかかってくるばかりで、なかなか澤井との話しあいは進んでいないようだった。
あらかじめ覚悟していたこととはいえ、電話が来るたびに淡い期待を抱き、そしてそれを打ち砕かれてを、何度もくり返すのは精神的にこたえた。
「ちいねえちゃん……まだここにいる?」
そう尋ねて私がうなずくのを、「やったあ」と喜んでくれる『希望の家』の子供たちがいなかったら、短気を起こして母の苦労も考えずに家へ帰っていたかもしれない。
季節はとうに桜の咲く頃から、初夏へと移り変わろうとしていた。
『希望の家』に私も一緒に住むことになり、放課後のように二人で自転車に乗って登校した朝、いつもの土手に赤い自転車を隠しながら、紅君はそう尋ねた。
「うん……できたらそうして欲しい……」
真っ直ぐに見つめられていることが居心地悪く、私はうつむく。
そんな私に紅君は望みどおり、くるりと背を向けてくれた。
「わかった。じゃあまた帰りにね……ちい……」
うしろ手に手を振りながら去っていく背中を、道の真ん中に立ち止まったまま、私はしばらく見送った。
歩き始めて数メートルも行かないうちに、脇道から土手に出てきた男の子たちが、紅君の姿を見つけて駆け寄る。
ポンと頭を叩きあったり、肩を組んだりして、ひとしきり談笑して離れると、またあっという間に違う男の子たちが集まる。
そのうしろを歩きながら、きゃっきゃと小声ではしゃいでいる女の子たちの姿も見える。
前方から来る犬を散歩させている女の人にも、うしろから自転車で追い越していく学生服姿のお兄さんにも、紅君は笑顔で会釈し、大きく手を振って挨拶する。
(ふふっ……いかにも紅君らしい……)
みんなに愛され、彼自身もみんなを愛している、人気者の『紅也君』がそこにはいた。
あの彼の隣を歩くことは、私には難しい。
(紅君はそんなことないって言うけど……私と紅君じゃ何もかもが違う……違いすぎる……)
だから遠くから見ているのがいい。
離れてうしろを歩きながら、その背中をこうして見ているぐらいが、私にはちょうどいい。
澤井に殴られた頬は痛いし、母ともしばらく会えなくなり、私の人生など悪いことだらけだが、紅君の背中を見ているだけで、それらを一時でも忘れられる。
それが嬉しかった。
そういう些細なことが、その頃の私の幸せの全てだった。
楽しみなど何もないが、ただ遠くから紅君の姿を見るためだけの学校に、私は今日も一歩を踏みだした。
「ごめんなさい千紗……もうちょっと……もうちょっと待ってね」
母からは時々、辛そうな声でそういう電話がかかってくるばかりで、なかなか澤井との話しあいは進んでいないようだった。
あらかじめ覚悟していたこととはいえ、電話が来るたびに淡い期待を抱き、そしてそれを打ち砕かれてを、何度もくり返すのは精神的にこたえた。
「ちいねえちゃん……まだここにいる?」
そう尋ねて私がうなずくのを、「やったあ」と喜んでくれる『希望の家』の子供たちがいなかったら、短気を起こして母の苦労も考えずに家へ帰っていたかもしれない。
季節はとうに桜の咲く頃から、初夏へと移り変わろうとしていた。
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