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5 知らない日常

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「できた!」

 編みあがった髪をまとめて、それを誠さんのプレゼントの髪飾りで留める。
 私がぜひそうであってほしい椿ちゃんの姿が、そこにはあった。

「似あう?」

 頬を赤らめてそんなことを訊かれるので、私は大きく頷く。

「似あう! 似あう!」
「か、可愛い……?」
「かっ……」

 はにかむ様子が本当に可愛らしく、私はすぐさま「可愛い!」と叫びかけたのだが、それを懸命に止めた。

(それはやっぱり……本人の口から言ってもらいたいよね!)

 決意を固め、私は椿ちゃんに背を向けた。

「椿ちゃん! ちょっとここで待ってて」
「え……? 何言ってるの、和奏……どこ行くの? 私、もう帰るわよ。お父さまに見つかる前に、部屋に帰らなきゃいけないんだから……!」

 叫ぶ椿ちゃんに、私は懸命に手をあわせてみせる。

「お願い、あと少しだけ! 近道見つけたから、いつもの三分の一ぐらいの速さで麓まで下りるから……そのあと上ってくる人は、たぶん私よりもっと速いはずだから!」
「何言ってるのか全然わからないわよ!」

 怒る椿ちゃんを置き去りに、私は本当に全力で、さっき見つけた近道を駆けおりた。
 上る時は、繁る草を必死にかきわけて進んだが、帰りは草などほぼ生えておらず、道も歩きやすく踏み固められていた。
 それだけで、もう違う世界へ踏みこんだのだということがわかる。

 父の仕事小屋では、知らない男の人が窯で炭を焼いていた。

「こんにちは!」

 私が駆け抜けながら挨拶すると、同じように「こんにちは」と返してくれたが、そのあと驚いたようにふり返って「なんだ!?」と大きな声を上げる。
 しかしそれに返事をしている余裕は、今の私にはない。

 さっきは閉めきられていた母屋も、人が生活している気配がし、庭も綺麗に手入れされていた。

(よかった……!)

 小道を行き来している鶏たちを、蹴散らすように走り、私は麓から上ってくる道に母と長倉さんの乗った車がないことを確認し、一気に坂を走り下りる。

(本当に……何もかもがもう変わっている……!)

 父をとり戻すまでにはあと少しだと自分を勇気づけて、麓に折りきるまで決して走るスピードは緩めなかった。
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