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5 知らない日常

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「和奏! 和奏!」

 母が私を呼んでいる声が聞こえる。
 それも、とても必死な様子で――。

 いったい今どういう状況だっただろうかと、私は目を開けないままに考えた。

(えーと……)

 とりあえず日曜日でないことは確かだ。
 母が私に起こされることはあっても、私が母に起こされることはほぼないが、たとえ私が多少寝坊していたとしても、私の学校も母の会社も休みの日曜日ならば、何も問題は発生しない。

(待って……そもそも今、夏休みじゃない?)

 その事実に思い当たり、私は少なからずむっとする。

(じゃあ私が起こされなくちゃいけない理由なんてないじゃない……お腹空いたから何か作ってくれとか? わざわざ私を起こして頼むより、お母さんならマンションの一階のコンビニに買いに行くよね……?)

 首を傾げかけ、私ははたと思い当たった。

(そうだった……私、お母さんと暮らすあのマンションを出て、お父さんのところへ来たんだった……)

 父の仕事小屋兼住居。
 髪振神社と上之社。
 蒸気機関車と無人駅。
 田んぼの中の舗装されていない道と、魚が泳いでいた小川。

 この町へ来て目にした光景が、頭の中でぐるぐると渦を巻き、圧倒的な茜色に競い負け、その中で目に涙を溜めていた黒髪の少女の顔が、脳裏いっぱいにフラッシュバックした。

(椿ちゃん――!)
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