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3 それぞれの思い

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「ここで絵を描いていたら、突然上から何かが降ってきたんだ。てっきり猪だと思って……」

(猪……)

「驚いてふり返ったら、和奏ちゃんが倒れてて、もっと驚いたよ」
「すみません……ここへ来る道を探してたら、足を滑らせて落ちちゃって……」
「大丈夫? 怪我はない?」
「はい。大丈夫みたいです」

 前回と同じように特にけがはしていないことを確認してから、白詰草が咲き乱れる地面の上に座り直した私を、誠さんは笑いながら見守る。
 大きなイーゼルの前に立ち、パレットと絵筆を手にしている彼は、私がそうしようと思っていたのと同じように、この場所から見る町の景色を描いていたらしい。
 キャンバスには夕焼けの綺麗な色が塗られていた。

「――――!」

 私は慌てて、父からもらったスケッチブックを探し、自分のすぐ傍に落ちているのを見つけ、大切に拾い上げる。

(よかった……)

 スケッチブックを抱える私を見て、誠さんが目を細めた。

「和奏ちゃんも絵を描くの?」

 彼が向かっている立派なキャンバスに目をやって、私は小さく笑う。

「少しですけど……」

 誠さんは絵筆とパレットを片手に持ち替え、空いた手を私にさし伸べて立たせてくれながら、また笑った。

「僕もだよ。趣味で描いてるんだ」
「趣味……ですか?」

 それにしては本格的な道具に、私が首を傾げると、誠さんは恥ずかしそうに頬を指で掻く。

「凝り性でね。そのくせいろんなことに手を出しては、周りに呆れられてる……今は、絵と細工物と盆栽だな……」
「盆栽……」

 それはまた広範囲だと思いながら、私ははっとした。

「椿ちゃんにあげた髪飾り……ひょっとして手作りですか?」

 誠さんの肩がびくりと揺れた。

「よくわかったね……」

 笑顔で答えてくれたが、彼が少なからず動揺していることはわかる。

(あれ……ひょっとして……?)

 嬉しい手ごたえを感じながら、私は少しずつ質問を重ねていった。
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