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3 それぞれの思い

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 テーブルの正面には大きめのコルクボードが立てられ、焼きものの絵柄の参考にするらしい植物の写真が何枚も貼られているのだが、その中に私の写真があった。

(私……?)

 真新しい制服を着て、桜の木の下で笑ってポーズを決めている写真。
 おそらく中学校の入学式で、母が撮ってくれた写真だ。

(そういえばお父さんへの手紙に入れたんだった……)

 ぼんやりとそんなことを考えながら、西瓜を食べ続けている私の視線が、どこへ向いているのかに気がついたらしく、父がはっと立ち上がった。

「和奏! それは……!」

 なぜだか大慌てしながら、私とテーブルの間に割って入る。
 まるで私に、あの写真を見せまいとするかのように――。

 あまり大きくはない父の体を、避けて私がテーブルを見ようとすると、父もそちらへ体を動かす。
 逆に動くと、父も逆に――。
 何度かそれをくり返した末に、私はこらえきれなくなって笑い出した。

「あはは……大丈夫だよ、お父さん。私、嫌だなんて思ってないから……」
 
 父は驚いたように私の顔を見て、それからきまり悪そうに指で頬を掻いた。

「そうか? だったらいいんだが……高校生にもなったら、『キモイ』とか言われるんじゃないかと思って……」

 真剣な顔でそんなことを言いながら箱に座り直すので、私の笑いはますます止まらなくなる。

「そんなこと言わないよ! あはは……お父さん、そんなこと気にしてたの?」
「ああ……」

 父は手にしていた西瓜をお盆に置き、首からかけていたタオルで手を拭いてから、写真が貼られたコルクボードを裏返した。
 そこには小学生くらいからつい最近までの私の写真が、満面に貼られていた。

「――――!」

 私が思わず言葉を失ったのは、母と住んでいたマンションのリビングに飾られていたコルクボードのことを思い出したからだ。
 父から送られてくるこの家や髪振町の写真を、母は丁寧に並べて貼っていた。
 決してコルクボード一面の自分の写真にたじろいだわけではなかったのだが、父は探るように私の顔を見る。

「やっぱり……『ドン引き』とか思ったか?」

 山の中の一軒家で焼きものを焼くという、いかにも世俗とはかけ離れた生活をしているのに、いったいどこで父はそんな若者言葉を覚えるのだろう。
 真面目な印象と真逆すぎな言葉が父の口から出てくることに、私はこらえきらずにやっぱり吹き出した。

「そんなこと思わないよー、あはは」
「そうか?」

 私の前に置かれた箱に座り直して、父はもう一度西瓜へ手を伸ばしたが、その表情は嬉しそうだった。
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