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3 それぞれの思い

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「和奏嬢ちゃん……またこんなところで寝ちょるの?」

 呑気な声に呼びかけられて、はっと縁側で身を起こした瞬間、お腹の上に乗せていたらしいスマホが、ごつっと庭に落ちた。

「きゃあっ!」

 悲鳴を上げた私を笑いながら、ハナちゃんがそれを拾い、軽く手で汚れを払って渡してくれる。

「はい、どうぞ」
「ありがとう……」

 三角に切られた西瓜を並べたお盆を私の横に置き、ハナちゃんもその向こうに腰を下ろす。

「太陽の下で小さい画面を眺めちょったら、目が悪くなるよ」
「うん」

 スマホは時計としてしか使っていないと、わざわざ説明することはしなかった。
 ハナちゃんが持ってきてくれた西瓜を食べるため、手を洗ってこようと立ち上がると、問いかけられる。

「お父さんには和奏嬢ちゃんが持っていくかい?」
「あー……」

 きまり悪い思いで、私はハナちゃんの隣に座り直した。

「実は昨日、怒らせちゃって……」
「珍しい……」

 私はハナちゃんに、簡単に昨夜の父とのやり取りを話した。

「それで……『成宮』って知ってるか? て訊ねたら、急にお父さんが怖い顔して、『誰に聞いた?』って……」

 それまで私の説明を黙って聞いていたハナちゃんが、大きく頷く。

「あーなるほど」

 いかにも事情を知っているふうのハナちゃんに、私は向き直った。

「どうしてなの?」

 ハナちゃんはふぉふぉふぉと笑って、首を横に振った。

「それは私じゃなく、お父さん本人に訊いたほうがいいねえ」
「でも……」

 父と再び暮らし始めたのは最近だし、それ以前も今も、あまり会話をする関係性ではない。
 父にとってあまり好ましいと思われない話題を振るのは、不安なのだと、昨日の突然硬化した態度を思い返しながら、私はハナちゃんに説明しようとした。
 しかしその前に、笑顔で後押しされてしまう。

「大丈夫。お父さんは和奏嬢ちゃんを、大切に思っちょるけえ」
「でも……」
「持っていって一緒に食べんしゃい」

 強引に西瓜の載ったお盆を渡され、父のところへ行くしかなくなってしまった。

「うん……」

 不安な思いで靴を履き、お盆を手に庭を歩き出した私を、ハナちゃんは笑顔で見送った。
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