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2 彼女の事情

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 髪振町にあるたった一つの駅である『髪振駅かみふりえき』は、規模は小さいが二つの路線が通っている。
 有名デザイナーが内装を手がけた観光列車も乗り入れていることを思い出し、私は納得した。

(ああ、そうか! 観光客のために特別に走らせてるんだ。確かに景色はいいものね。ノスタルジックな気分に浸れそう……)

 だったら私も、椿ちゃんのように時代に囚われない格好をしてくればよかったという思いが、ちらりと脳裏を掠めた。

(そういう服を持っているわけじゃないけど……)

 列車に乗りこみ、椿ちゃんと向きあって座る形で、椅子に掛けた。
 ぼーっと大きな汽笛を響かせて、列車がゆっくりと動き始める。
 始めは蒸気で窓からの景色もよく見えなかったが、スピードが上がるとのどかな田園風景が広がり始めた。

(うん。確かに『旅』って感じだね……)

 窓の透明度が高くないせいで、ぼんやりと見える風景も味のあるものだったが、いくつかのトンネルを抜けると、椿ちゃんがその窓を持ち上げて全開にしてしまう。

「もう開けても大丈夫よ。そのほうが、外がよく見えるし、風が気持ちいいでしょ?」

 強すぎるほどの風で吹き飛ばされそうになる帽子を、笑いながら押さえている椿ちゃんは、とても嬉しそうだ。
 私も髪を大きくなびかせながら、笑顔になった。

「ほんとにそうだね!」

 列車の音に負けないように大きな声で、昨夜家に帰ってから家族にどういう言い訳をしたのだとか、今日はどう言って家を出てきたのかだとか、笑いながら話している間は、椿ちゃんは普通だった。
 しかし列車が山にさしかかったあたりから、頭痛がすると言い始めた。

「頭が痛い……」
「え……大丈夫?」

 前屈みになって両手で頭を押さえる椿ちゃんに、不安が大きくなる。
 少し様子をみても、よくなるどころかひどくなる一方なので、私たちはいったん列車を降りることにした。

「ごめんね、和奏」
「いいんだよ。少し休んでよくなるといいけど……」

 椿ちゃんを支えながら降り立ったのは、山の中の小さな駅だった。
 ホームは私たちが降りた一つしかなく、改札に駅員の姿も見えない。

「ここ、無人駅だったかも……」
「そっか……」

 待合室もないので、駅舎の前に置かれた木製のベンチに椿ちゃんを座らせ、私は自動販売機で飲みものを買おうとした。

(水分摂ったほうがいいよね……)

 しかし駅にはない。
 仕方なく、少し出てみることにした。

「何か飲みもの買ってくる。辛かったら横になっててね」

 弱々しく頷く椿ちゃんの様子に不安を大きくしながら、駅の前の通りへ出てみた。
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