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17 荒れた河
④
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私をひきずって出張所横の空地へ行った河太郎さんは、車の鍵を開けさせて私を運転席へ押しこむと、自分も助手席へ乗りこんだ。
血走った目で私を睨みながら、怒りをこらえるためなのか、悲しみに耐えるためなのか、しきりに下唇を噛みしめている。
こぶしを握り締め、肩を震わせながら、口を開いた。
「今すぐ里穂のところへ連れていけ。お前の車はそんじょそこらのあやかしより速く走れるんだろ? 豆太から聞いた」
「あ……」
驚く私に向かって、震えながら叫ぶ。
「早くしろっ!」
「はいっ!」
つられて返事はしても、豆太くんを乗せて田中さんの家へ行ったり、そのあと病院へ田中さんを運んだりした時のように、目を開けたら目的の場所へ着いていたというような芸当は、いつでもできるわけではない。
現に私は、あれから何度か試してみようとしたが、一度も成功しなかった。
今回も成功する確証はまったくないのだが、もし今発動することができなかったら、ますます河太郎さんの怒りは増すだろう。
その時、自分はどうなるのか――祈るような気持ちで、ハンドルを握らずにはいられなかった。
(御橋神社の神様! どうか今すぐ私たちを里穂さんのマンションの近くまで連れて行ってください! お願いだから……どうか!)
私の決死の祈りが届いたのか。
それともこれはもともと、ダッシュボードの裏に貼ったお札を発動するのに足る事案なのか――。
理由は定かではないが、お札のあたりからぼんやりとした光が広がり始める。
(やった……来た!)
瞬く間にそれが、目を開けていられないほどの眩しい光になると知っている私は、助手席に座る河太郎さんに急いで忠告した。
「河太郎さん、目! 目を瞑ってください、すごく眩しくなりますから!」
「目? うわあああ……眩しい! 溶けてなくなるっ……光は……光は嫌いだぁ!」
「すみません、すみません! 我慢してください」
「くそおおお!」
凄い唸り声をあげている河太郎さんが無事なのかはわからないが、車は以前のように勝手にエンジンがかかり、進んでいる感覚がある。
(どうぞ無事に着いて!)
祈るうちに、瞼の裏の眩しさが和らぎ、私は恐る恐る目を開いた。
(……着いた?)
フロントガラスの向こうに広がるのは夜の街なので、灯りが乏しく、目が慣れるまでよく見えないが、少なくとも大鳥居前の参道の風景ではない。
隣の河太郎さんに目を向けてみると、シートの上で膝を抱えて、顔を突っ伏していたので、そっと肩を揺すって声をかけた。
「河太郎さん、もう大丈夫ですよ……どうやら着いたみたいです」
私に少し触られただけで、「ひいっ」と悲鳴を上げて身を引く河太郎さんは、とてもさっき私を力ずくで出張所前からさらった者と同じとは思えない。
怯えながら顔を上げて周囲をうかがい、窓の外の景色を見て、ぽつりと呟く。
「本当だ……里穂の家の近くの川だ……」
助手席の扉を開けてふらふらと車を降りていったので、私もそのあとを追った。
血走った目で私を睨みながら、怒りをこらえるためなのか、悲しみに耐えるためなのか、しきりに下唇を噛みしめている。
こぶしを握り締め、肩を震わせながら、口を開いた。
「今すぐ里穂のところへ連れていけ。お前の車はそんじょそこらのあやかしより速く走れるんだろ? 豆太から聞いた」
「あ……」
驚く私に向かって、震えながら叫ぶ。
「早くしろっ!」
「はいっ!」
つられて返事はしても、豆太くんを乗せて田中さんの家へ行ったり、そのあと病院へ田中さんを運んだりした時のように、目を開けたら目的の場所へ着いていたというような芸当は、いつでもできるわけではない。
現に私は、あれから何度か試してみようとしたが、一度も成功しなかった。
今回も成功する確証はまったくないのだが、もし今発動することができなかったら、ますます河太郎さんの怒りは増すだろう。
その時、自分はどうなるのか――祈るような気持ちで、ハンドルを握らずにはいられなかった。
(御橋神社の神様! どうか今すぐ私たちを里穂さんのマンションの近くまで連れて行ってください! お願いだから……どうか!)
私の決死の祈りが届いたのか。
それともこれはもともと、ダッシュボードの裏に貼ったお札を発動するのに足る事案なのか――。
理由は定かではないが、お札のあたりからぼんやりとした光が広がり始める。
(やった……来た!)
瞬く間にそれが、目を開けていられないほどの眩しい光になると知っている私は、助手席に座る河太郎さんに急いで忠告した。
「河太郎さん、目! 目を瞑ってください、すごく眩しくなりますから!」
「目? うわあああ……眩しい! 溶けてなくなるっ……光は……光は嫌いだぁ!」
「すみません、すみません! 我慢してください」
「くそおおお!」
凄い唸り声をあげている河太郎さんが無事なのかはわからないが、車は以前のように勝手にエンジンがかかり、進んでいる感覚がある。
(どうぞ無事に着いて!)
祈るうちに、瞼の裏の眩しさが和らぎ、私は恐る恐る目を開いた。
(……着いた?)
フロントガラスの向こうに広がるのは夜の街なので、灯りが乏しく、目が慣れるまでよく見えないが、少なくとも大鳥居前の参道の風景ではない。
隣の河太郎さんに目を向けてみると、シートの上で膝を抱えて、顔を突っ伏していたので、そっと肩を揺すって声をかけた。
「河太郎さん、もう大丈夫ですよ……どうやら着いたみたいです」
私に少し触られただけで、「ひいっ」と悲鳴を上げて身を引く河太郎さんは、とてもさっき私を力ずくで出張所前からさらった者と同じとは思えない。
怯えながら顔を上げて周囲をうかがい、窓の外の景色を見て、ぽつりと呟く。
「本当だ……里穂の家の近くの川だ……」
助手席の扉を開けてふらふらと車を降りていったので、私もそのあとを追った。
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