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10 新しい朝

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 目を閉じて必死に瞑想する私以外の二人が、立ち上がる気配があった。

(え……?)

 目を開いてみると、私のぶんまでさっさと食べ終わった食器を台所へ運び、手早く二人で洗い終わって、各々何かの支度を始める。

「どこか行くの?」

 何げなく聞いてみた私に、クロが鋭い視線を向けた。

「もちろん仕事だ。完全に週三日しか働かない誰かさんと違って、こっちは、昼間は毎日普通に働いてるんだ」
「えーーーーっ!」

 確か昨夜、シロからちらりとそういう話を聞いた気もしたが、ぴしっとスーツを着て、ネクタイを締めるクロの姿を、私は驚きの思いで見つめる。
 シロも寝癖のついた髪を直して、カラフルなヘアピンでサイドを留め、赤い眼鏡をかけて洗面所から帰ってきた。

「俺も今日は一限から授業―」

 軽やかに玄関へ向かう背中に、私は慌てて問いかける。

「昨夜も遅くまで宅配便の仕事だったし、あまり寝てないんじゃ? ……大丈夫?」
「うん、ありがと」

 シロは曖昧に笑ってごまかすだけだが、その彼を追い越して先に玄関に着き、革靴を履いているクロが、ふり返らずに答える。

「瑞穂。お前……あやかしが寝ると思ってるのか?」
「え?」

 瞳を瞬かせた私からそっと目を逸らし、シロは逃げるように家を出ていく。

「じ、じゃあ俺、行ってきまーす」

 その背中をぽかんと見送り、私は我に返った。

(寝なくてもいいんなら、昨夜シロくんが私の隣で寝てたのはなんで? ねえ、なんでなの!?)

 今にも叫び出しそうな私の気配を察したらしく、クロが付け足すように呟く。

「シロはまあ……ちょっと特殊だから……」

 このタイミングでそんなことを言われても、とっさのごまかしだとしか思えない。
 怒りでぶるぶる震える私をさすがに放っては出勤できないらしく、クロが困ったように問いかけた。

「瑞穂……お前、今夜は何が食べたい?」
「え……?」

 不意を突かれて見たクロの顔は、照れたようにかすかに赤くなっているようにも見える。
 私は慌てて、顔を伏せた。

「鍋……」

 焦りのあまり適当に口にした、まるで季節違いのリクエストを、クロの声は少し嬉しそうにくり返す。

「鍋な、わかった」

 がらがらっと扉を開けて出ていく背中を見送り、朝からいろんな意味ですっかり疲れきった私は、へなへなと廊下に座りこんだ。 
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